第11話 裸の付き合いをした

「お前も入れよエリアーヌ! でないと、アユムと交尾しちゃうぞぉ」

「ダメェ!」


 なぜか、エリちゃんまでが浴室へ入ってくる。バスタオルだけを羽織って。


 全員、丸裸でお付き合いとか。勘弁だ。


「ここはどこだ?」


 キョロキョロと、獣人が辺りを見回した。


「僕たちの会社の宿舎だ」

「お前、社長なのか。すげえな」

「今、なったばかりだよ」

「いや、すげえ。こんなでっかい風呂まであるなんてな」


 マルちゃんは、お風呂のお湯を手ですくう。


 従業員用の、大浴場なんだけどね。


「この風呂って広いな! 中で身体も洗えるぞ」

「特注の薬草で作った、泡風呂だからね」


 この浴槽には、泡の出る入浴剤が入っている。いわゆる「外国人の泡風呂」だ。


 いくら従業員たちに体を洗うためのタオルを提供しても、受け取らない可能性があった。ドレイの身分なのだからと。この世界に風呂の文化があるかどうかすら、怪しい。


 ドレイの飼い主たちは、汚れたまま行為に及んでも平気なのか。相手が汚れている方が嗜虐心を煽るのかはわからないし、知りたくもない。


「上にある鉄棒は何だ?」


 何本もの細い鉄棒が、天井を覆っている。


「すぐにわかるよ」


 一応洗い場も用意しようとしたら、エリちゃんから首をかしげられた。


「この世界にそんな文化はない」と。せいぜい、シャワーくらいなんだって。なので、大きい浴槽と休憩用の石段しかない。ちょっとした洗い場だけ用意してもらったが。


 なので、「この浴槽に浸かって、体を擦って消毒してください」と彼女たち指示したのである。


「汚れた身体もピッカピカ!」


 突然、マルちゃんが泡だらけになって立ち上がった。


「うわ! いくら薬草泡風呂だからって、全部見えちゃうって!」

「アユムなら平気だぞ。誰もノゾキしてないしな!」


 泡まみれの身体を、マルちゃんはくねらせる。


「そうよね。ノゾキ防止のために、窓の向こうは女性寮なのよね」


 この浴場は、工場を再利用した場所だ。中で何が作られているかわからないように、窓の外に宿舎を建てて目隠しもされている。これを活かしたのだ。道路側には窓はなく、空気穴しか通していない。


「だからって直接見せなくても……あっ!」


 ヤバイ。時間に気を取られていて、従業員の入浴時間をすっかりわすれていた。


 作業員さんたちが、バスタオルのまま棒立ちに。雇い主が湯を使っていては、自分たちは入れないと考えている。


「ごめんなさい! 僕たちはもう出るので!」

「お前らも入れよ。みんなで入ったほうが、お湯の節約になるって社長が言っているぞー」

「こんなときに何を言っているのマルちゃん!?」


 マルちゃんの一言で安心したのか、ゾロゾロと従業員の少女たちはお湯に浸かりだす。二〇人くらいいるけど、浴槽内は全然余裕だ。


「みんな、社長をねぎらえ」


 とんでもないことを、マルちゃんが言う。


 従業員たちの目が、ヤバい。次々と僕に近づき、身体を触ってくる。


 ああそうか。この子たちは「そういうことをするために呼ばれた」って思っているのかー。


「違う違う! 僕はなにもしないから!」

「そういう趣味みたいだから、ほっといていいぞ」


 マルちゃんの一言で、事態は沈静化した。


 風呂から出るため、僕たちは浴槽内の石段に腰掛ける。

 壁にもたれていると、隙間からわずかにお湯が出てきた。

 身体についた泡を洗い流す。それでいて、体を冷やさない仕組みだ。


 浴槽のお湯が減り、泡が排水口へ流れていく。マーライオンの形をした注ぎ口から、お湯が出てきた。


 浴槽が空になると、上の鉄棒からシャワがブワーッと吹き出す。それで、わずかに身体に残った泡を落とすのだ。鉄棒からのシャワーは、浴槽に残った泡や汚れも流していった。


 全自動洗濯機で言う、洗濯とすすぎの要領だ。

 泡が減っていくってのは、つまり。


「ひゃあああ!」


 しまった。エリちゃんのことを、すっかり忘れていたじゃないか。


 恥ずかしがらないマルちゃんにばっかり、気を取られていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る