第10話 会社をおこした  

 報酬や財宝を売ったお金を元手に、僕はこの街に清掃会社を設立した。


 適当な空き家を買って、設備を整える。


 ちょうどいい感じの、空き家を見つけた。


「どの家も古いのに、構造がしっかりしていますね?」


 この世界は空き家が少なく、古い家にずっと誰かが住んでいることが多い。


「建築の規制が厳しく、新しく建てるのが難しいのです。古い家を買い取って、リフォームする文化が浸透しているのですよ」


 僕の質問に、商業ギルドの人がうれしそうに答える。


 なるほど。この世界の建築における価値観は、地球の海外文化と同じような感じだ。


「ですがここは、ドクロ党が使っていた工場の跡地です。好きに使ってください」


 広さも申し分ない。早く買わないと、買い手がついちゃうな。


 従業員を迎え入れるため、掃除やリフォームを始める。


 魔法でバーっと、一晩で終えてしまった。土魔法のすばらしさを知ったね。


「では、オフロに入ってください」


 孤児たちは、戸惑っている。自分たちが先に身体をキレイにしていいのか、わからないのだろう。


「あーこれね、この浴槽のテストも兼ねているので、入ってくれないと逆に僕たちが困るんですよ」


 ならば、と、孤児たちはようやく入浴すると言い出す。


 みんなが服を脱ぐので、僕は退席した。あとはエリちゃんにおまかせする。


 その間に、商業ギルドと話し込む。ギルマスのおばさんと、売上関連の話に。


「我々運営は、技術だけ教えます。売上の管理は商業ギルドに任せます」

「よろしいのですか? あなたの会社ですが」


 商業ギルドのおばさんが、アワアワとうろたえる。


「僕の会社だからですよ。僕が管理したら潰れちゃうよ」


 シビアなお金の話なんて、僕にはムリだ。冒険を優先したいし。


 従業員の着替えを用意するエリちゃんに、事情を説明した。


「もう出た感じ?」

「そうよ。着替えているわ。みんな気持ちよさそうにしていたから、あなたには感謝しているみたい」

「浴槽のコンディションは、どんな感じ?」

「バッチリよ。あんたの見込み通りだったわ。浴室にあんな仕掛けをして、体を洗うなんて」

「それはよかった」


 ただ、浴槽の水を飲もうとした子がいたから、注意したくらいだという。


 制服に身を包んだ少女たちは、表情がぱあっと明るくなっている。


 その後は、お待ちかねの食事だ。みんなで作って、みんなで食べる。簡単な食事だったけど、みんなで食べるって楽しい。


 午後からは、商業ギルドのおばさんを交えて職業訓練に入った。

 従業員たちに教えるのは、清掃だけではない。

 お料理、心肺蘇生法や包帯の巻き方などの簡単な医療知識、お裁縫なども身につけてもらった。

 できるだけ、どこでも雇ってもらえるような技術を学んでもらう。


 彼女たちは、巣立っていっても大丈夫のはずだ。

 さて、あとの問題は。



「はっ!?」


 ベッドの上で、獣人少女が目を覚ます。


「ようやく、お目覚めか」


 椅子を出して、僕とエリちゃんが名乗る。


「アタイは、マルグリット。マルって呼ばれてた!」


 はつらつとした顔で、マルちゃんは名乗った。


「どうして、捕らえられていたの?」

「風呂に入りながら話したいぞ」


 大浴場のある方角を差しながら、マルちゃんは要求してくる。お風呂を沸かしているのに、耳か鼻で気がついたみたい。


 いきなり、マルちゃんが服を脱ぎ始めた。獣人と言っても、特徴は尖った耳と長い爪くらいである。身体は、成熟した人間の女性と変わらない。


「入っておいで! 待っててあげるから!」


 僕は顔を隠す。


「今アユムたちと話す!」

「ダメだって!」

「いいじゃんか! 【早着替え】!」


 マルちゃんのスキルによって、僕はスポーンとモロダシにされてしまう。なんという早業スキルだ。

 僕はマルちゃんにお姫様だっこをされて、浴室に連行された。

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