第4話 勇者と自分の違いを力説する。
「アユム、こっちのエリアを探索するわ。警備をお願い」
「はーい」
僕には、薬草を見分けるスキルはない。
エリちゃんに薬草を採取してもらう間、近づいてくるモンスターを撃退していく。アイテムも手に入るから、役割分担としては合っているはず。
僕の装備は、鎖かたびらに変わった。拾ったアイテムを街で換金して、店売りの装備に変えたのである。
「それにしても、次から次へと」
モンスターの数が、まったく減らない。
このままじゃジリ貧だな。
「この森に、瘴気を放っている魔物とかいない? そいつをやっつけたら、薬草取りと狩りは比較的安全にできるかも」
「よくわかるわね。森の奥に、アルラウネってモンスターがいるの」
「じゃあ、そいつをやっつけよう。きっとユウキなら、同じことを考えるはずだ」
ユウキの名前を出して、エリちゃんはうつむく。
「アユムはどうして、そこまで勇者を信頼するの?」
木のそばにある薬草やキノコを摘みながら、エリちゃんが声をかけてきた。
「うーん、そうだなぁ。あいつってさ、僕にできないことするから」
昔、僕は遠足のときに谷底に落ちたことがある。雨で地盤が緩んでいたのだ。小さい谷だったが、救助隊を待つしかない状況だった。
でも、ユウキは僕を見捨てなかったのである。自力で助けてくれたんだ。
どうして勝手なことをしたのかと先生に聞かれたら、ユウキは「体温が下がって死にそうだったから」と言い返した。
「それから、あいつのことで間違ったことは多分ないと思った」
「でも、今の状況は勇者が街を見捨てたために招いたと」
「本当にそうかな?」
僕は、ガラガラだったギルドの様子を思い出す。
たいていあんな場合は、チンピラめいた冒険者が絡んでくるシチュエーションだろう。
なのに、ギルドの人たちはこちらに見向きもしなかった。
羊皮紙の痛み具合からして、依頼書が消費されている気配もない。
「冒険者たちが機能していれば、避けられた問題のはずだ。根本的な原因が、ギルドにはあるんじゃないかな?」
「メファが、信用できない?」
エリちゃんの声は、やや不満が混じっている。
「そうじゃない。初対面のとき、メファさんの靴は泥で汚れていた。泥も靴底から垂れていたから、おそらく新しい。さっきまで依頼をこなしていた証拠だよ。でもね、ギルマス自体が出張らないといけない、なんて状況自体が異常なんだ」
「よく観察しているわね……メファは、私を拾ってくれたの」
エリちゃんは、魔法をメファさんから教わったという。
「私はただの村娘だった。子供の頃、村が魔物に襲われたわ。私も食べられそうになったところを、メファが救ってくれたの。そのとき、メファは勇者パーティの一人だった」
しかし、勇者ユウキはメファをメンバーから外す。「力不足だから」と。その後、彼女はこの街でギルマスとして働き始めたそうだ。
「だから、私は勇者にいい感情を抱いていないの。でもメファは、なんの素質もなかった私をここまで鍛えてくれた。感謝してもしきれないわ」
「素敵な人だね」
エリちゃんは、メファに育ててもらった恩を返してくて、冒険者になったそうだ。
「でも、私は弱くて」
「ちょっと、ステータスを見せて」
僕は、エリちゃんのステータス表を確かめる。
レベル一〇って、ボクより上じゃないか。そこまであれば、野盗の退治くらいできそうなのに。
「ああ、採取とか調合関連のスキルに振っているからか」
「私は戦闘向きじゃないって思っていたから、メファのサポートができる薬師になろうと」
なるほど。レベルが高いのに野盗に後れを取るわけだ。各種スキル性能が、戦闘向きじゃない。
「それもアリだけどね。自己を防衛できるくらいには戦闘に振ったほうがいいかな」
「ありがとう。アドバイスに従うわ」
エリちゃんが、炎魔法系にスキルポイントをふろうとした。
「あっ。ちょっと待って」
とあるスキルを見つけて、僕は待ったをかける。
「どうしたの?」
「これさ、ひょっとすると強いかも」
「……これが?」
僕が示したスキルを確認して、エリちゃんが首をかしげた。
「わかったわ。振ってみる。役に立たなかったらごめんなさい」
「いいよ。これから、強くなっていけばいいじゃん。ささ、アルラウネを退治しに行こう。そうすれば、大量の薬草が取れるよ」
「といっても、森は危険よ。道に迷うかも」
「大丈夫だって、ほら」
僕は、足元をトントンと爪先で叩く。
森に、黒い根っこが張り巡らされていた。この根をたどれば、アルラウネにありつくだろう。
この手のイベントには、必ず攻略法がある。それを見つけ出せばいい。そうすれば、きっとエリちゃんだって強くなる。
森を進むと、ボスっぽい見た目のモンスターを見つけた。
上半身はハダカの女性、下半身が薔薇の花弁になっているバケモノだ。その場から動けないようである。
しかし、イノシシを見つけると、アルラウネは根っこを伸ばして拘束した。
イノシシが、みるみる干からびていく。
なるほど。薬草採取すらままならない理由は、この怪物がいたからか。
「どうするの? ヘタに近づいたら、私たちも」
「いやあ。まいったね」
「そうよアユム! 早く逃げましょう」
「違う。迎え撃つ」
ヤツは、こちらに気づいていない。絶好のチャンスだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます