第5話 小さきものの強さを、わからせる

 僕がアルラウネと戦うと言った途端に、エリちゃんが僕の肩をつかむ。


「バカ言わないでよ! 相手はレベル二〇超えのバケモノよ!?」


 小声ながら、エリちゃんは相手がいかに強いかを訴えてくる。


「だから行くんだよ」


 こんなヤツを放っておいたら、街のゴハンもままならない。肉が取れないから。


 この怪物がいなくなれば、狩りだけではなくポーション採取も楽になるはずだ。


「僕がまいったのは、まさかキミのスキルが早くも役に立つなんて思わなかったからさ」


 エリちゃんに振ってもらったスキルを、試す時が来た。


【トキシック:毒薬精製。回復に使える薬草さえも、毒薬へと変える】


「これは、絶対に使えるスキルだよ」


 スキルの使い方を、エリちゃんに教える。

 医療行為に使う注射器に毒を盛って、根っこに注入するのだ。

 アルラウネは大地から生体エネルギーを吸い取っているから、毒と言えど取り込まざるをえない。

 そこがポイントだ。


「でも、こっそりやるなんてムリよ。誰かがオトリに……」


 そこでようやく、彼女は僕のやろうとしていることがわかったらしい。


「僕がアイツの注意を引き付ける。エリちゃんは、毒を根っこに」

「一人でなんて、ムチャよ! それに少しずつ毒を盛るなんて。毒が回るまで、どれだけ時間がかかると」

「やるんだ」


 なんとか僕は、エリちゃんの説得を試みる。


「僕がやらないと、いっぱい人が死ぬんだ。ずっと薬草が取れなくて、狩りもできずに人も飢える一方なんだ」

「アユム……わかった。死なないでよ!」


 できるだけ遠くから注射するように言って、僕はアルラウネの前に出た。


「おいバケモノ、こっちだ!」


 中距離から、僕は弓を構えて矢を放つ。できるだけ、エリちゃんが視界に入らないように。


「ほらほら、こっちだっての!」


 敏捷性を上げた足で、アルラウネの追跡を逃れる。

 僕だってタダでやられてたまるか。

 あの矢にも、エリちゃんが作った毒が塗ってある。

 少しずつ、ヤツの身体に毒が浸透していくはずだ。


 アルラウネだって、バカではない。ツタを操って、僕を拘束しようとする。


 武器をロングソードに切り替えて、僕はツタを切り裂く。


 アルラウネのツタが、断面同士を再生させた。

 新しく生えてくるんじゃない。斬られた箇所をくっつけるのか。



 思った通りだ。



 僕の矢を受けてか、アルラウネの動きが鈍くなった。


 そこで僕は、アルラウネの「根を」断ち切る。


 アルラウネの毒が回るまで、もう少しだというのに。


「ちょっとアユム! 何をして……!」


 エリちゃんは、とっさに口を閉じる。しかし、位置がアルラウネにバレた。


 アルラウネが、斬られた根っこの切断面をくっつける。高速で、再生が始まった。


「心配ないよ。これで、僕たちの勝ちだ」

「なにを……!?」


 エリちゃんが何か言おうとした途端、アルラウネが絶叫する。

 とてつもないスピードで、アルラウネは干からびていく。それは、腐っていく根っこを見てわかった。


 同時に、エリちゃんと僕に大量の経験値が流れ込む。


「少しずつだった毒を、一気に吸い取ったからね。一瞬で毒が身体中に行き渡ったんだ」


 ヤツが根っこから毒が回っていると気づいたときには、もう遅い。


 少しずつなら小さい毒でも、何回も注入すればとんでもない効果を生み出す。

 僕はそういう生き方・戦い方で、ユウキを助ける。


「見て。森が」


 昼間でも夜のように暗かった森に、光が差し込んだ。森の生気が、もとに戻ったのだ。

 荒れた土地に、草木が生え始める。

 動物たちも、たくさん集まってきた。今までどこにいたのかとういうくらいに。


「あなたって、とんでもない人ね」

「とんでもないのは、エリちゃんの方さ。あのアルラウネを撃退するほどの毒を作れるなんて」

「私もびっくりよ。自分にこんな力があったなんて」


 エリちゃんが、自らの力に自信がついたようだ。


「そうか。わかったぞ。どうしてメファさんを追放したのか。理由はキミだったんだ」

「どういうコト?」

「ギルドに戻ったら話すよ」



 ルルジョンの街に戻って、僕は調査報告をした。



「森の中が、清潔になっていくのを確認しました。これで危険なことをせずとも薬草が採れるし、狩りも可能でしょう」


 僕の報告を受けて、早速ギルドは依頼書を更新する。


 ギルドのメンバーたちが殺到し、依頼を達成しに向かう。


 一夜明けると、ルルジョンのギルドは活気に溢れている。これが、本来の姿なのだろう。


「ありがとう。これでもう、この街は安心だ」

「礼を言うのは、こちらです。メファさん」

「と言うと?」

「ユウキはわかっていたんだ。エリちゃんは強くなるって」


 メファさんに鍛えてもらったおかげで、エリちゃんは強くなった。森の生態系を戻せるほどに、強く。


「彼女には、再生の力があった。それを見抜いていたんじゃないですか? あなたか、もしくはユウキが」

「ワ、ワタシは知らんぞ」


 なにかメファさんは知っていそうだったけど、追求しないでおこうかな。


「とはいえ、油断は禁物だな。この先にあるジルダの街には、例のドクロ党がいる」

「わかりました。行ってみます」


 僕の前に、エリちゃんが立った。


「私も、アユムについていきます」

「ああ。世界を見てこい、エリアーヌ」

「メファ、今までありがとうございました」


 荷物を整理して、メファさんが用意してくれた馬車で次の街へ向かう。

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