第3話 街へ入って、冒険者登録をした
「ルルジョン」の街へ入る。
なんか、寂れているなぁ。まるで、ダークファンタジーの世界みたいだ。空は薄暗く、カラスが飛び回っている。
「ギルドはこっちよ。私も用事があるから、一緒に入りましょう」
「ありがとう、エリちゃん」
旅先で仲良くなったエリちゃんことエリアーヌさんの後を追う。
「エリアーヌさま、おかえりなさいませ」
ギルドに入ると、カウンターに立つ受付嬢さんがエリちゃんに微笑みかけた。緑色の制服に、長い耳の先。なんだか、エルフっぽい見た目だね。
「そちらの方は?」
僕を見て、エルフ受付嬢さんが首をかしげる。
「ドクロ党のヤツらに襲われたところを、助けてくれたの」
「まあ。ドクロ党ですか! おケガは?」
「大丈夫よ。それも含めて、この方が。で、冒険者登録がまだなんですって。お願いできる」
エリさんが言うと、受付嬢さんは「ハイ」と言って、カウンターに書類を出した。「必要事項をご記入ください」だって。
僕はさっそく、書類にペンを走らせる。
「どうぞ」
「拝見いたします。なるほど、アユム様と」
受付嬢が、僕をジッと見つめた。その後、「……少々お待ち下さい」と、カウンターの奥へ。
「あの、もしもし?」
「こちらへ」
手招きをして、受付嬢が僕をカウンターへと誘ってくる。
なんだ?
「行きましょう」
エリちゃんに手を引かれて、ギルドの内部へ。
簡素な事務机が並ぶ室内の更に奥、仕切りがされた場所に通された。
黒いソファに座るよう言われる。
肩身が狭い中、エリちゃんと並んで座った。
数分後、やたらスカートの短いダークエルフのお姉さんが、向かいのソファーにどんと腰を下ろす。ブーツが泥だらけだ。さっきまで、どこかで戦っていたのかな?
「はじめまして。もうひとりの勇者。私は『メファ』という。ルルジョンの冒険者ギルドを統括する、ギルドマスターだ」
銀縁の細長いメガネをかけ直し、メファさんは僕を見つめる。
「アユムです。ユウキとはガキの頃からの友だちで」
「なんと、あの勇者ユウキの知り合いだったとは。それにしては地味だな」
メファさんは、僕がユウキの幼なじみと知って驚いていた。エリちゃんが野盗との戦いを話すと、ようやく信じてくれるように。
「勇者の再来はありがたい。あのユウキという男は、冒険者登録して早々に、魔王討伐に向かってしまったからな。おかげで問題が山積みだ」
「と、言いますと?」
「ここだけでも、千を超える案件に追われている」
魔物討伐、薬草採取、通商路の確保、すべて滞っている。おかげで街は荒れ放題だという。
「そうなんですね」
とはいえ、いくらなんでもあんまりな気がした。
「勇者だけに任せる必要は、ありません」
「ン?」
「例えば、ここです。少々の護衛がいれば、薬草などの採取は可能なのでは?」
「そうなんだ。いや、そうだったといえばいいか」
「なにか問題でも?」
「冒険者の数が減った」
たしかに、この世界って冒険者があまりいない感じがする。
「ほとんどの冒険者が、敵に寝返っちゃったの。魔王の勧誘で」
「敵のほとんども、低級の冒険者崩れだ」
ほとんどの案件は、報酬が少なくて稼げない。
そのため低級の冒険者は、コツコツ稼ぐのをやめた。手っ取り早く強くなるため、悪の道に走ってしまったという。
「強い冒険者たちは、大型魔獣の討伐に向かってしまい、小さい案件は放置されている。
特にここは、エリクサーの元が手に入るという。正式な手順で積まなければ根腐れするので、魔法使いに頼む。しかし、護衛役に乏しい。
「今回はエリアーヌにソロで行ってもらったが、大変だったな」
「アユムがいなければ、私は野盗に捕まって、怪しい薬の実験台にされていたでしょう」
「魔獣討伐に行っている間に、そんなことがな。すまない」
「いいえ。稼ぎにならないからと小さい案件を無視する冒険者が悪いのです。アユムなら、信頼できます。弱い人を見捨てません。私が保証します」
エリちゃんに太鼓判を押されて、僕は恐縮した。
「頼もしいな。派手な活躍はできないかもしれないが、小さい仕事をお願いしたい」
「はい。そのつもりで来ました」
大きいことを解決するのは、たしかにいいことだ。とはいえ、目の前の人を放置すれば死んでしまう。結果的に損だ。
「ユウキには、大きい仕事が待っています。僕はユウキとは違うやり方で、世界を救いましょう」
「ありがとう。さっそくカードができたので、どうぞ」
僕は、メファさんから冒険者のカードを受け取った。
「さっそくだが、仕事を頼めるか?」
「はい。全部ください」
メファさんが、僕の言葉に口をあんぐりと開ける。
「いや、小さい案件を大量にこなすと言っていたが、本当にそれでいいのか?」
「構いませんよ。誰もやらないなら、僕がやります」
片っ端から、僕は掲示板の依頼書を取っていった。
「庭の手入れや、屋根の修理なんかもあるんだぞ? 猫探しとか」
「大丈夫。ユウキが高価な仕事で年収一〇〇〇万円稼ぐなら、僕は一万円の仕事を一〇〇〇件やります」
同じ額を稼ぐなら、どの仕事も労力は同じのはずだ。
おそらくユウキは、魔王討伐がどれほどの荒行か知っている。だから、他の用事に手が出せない。強い冒険者たちも、それを知っているんだ。
だったら、僕が「小さい仕事をやる冒険者」になればいい。
「あのさ、エリちゃん。僕ってこんなカンジだから、嫌ならパーティを抜けても」
「お供します!」
「……いいの?」
「私もいたら、一〇〇〇件の仕事も五〇〇件ずつになるでしょ?」
えへへ、とエリちゃんが笑った。
「じゃあエリアーヌさん、よろしくおねがいします」
「こちらこそ。アユムさん」
僕たちを見て、メファさんが目を丸くする。
「仲睦まじいな。二人は、男女の仲なのか?」
「そんな! まだです! これから落とすの!」
エリちゃん!?
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