第2話 助けた美少女魔法使いさんが、仲間になった

 倒れた盗賊が、黒い煙になって消えていった。


「うわうわわ!」


 あまりの光景に、僕は驚く。

 なんなんだ、これは? こんなの、人間の死に方じゃありませんよ。


[【女神の幸運】 発動。経験値に補正が入ります。レベルが三にアップしました。スキル振りをしてください]


 脳内に、アナウンスが。声はさっきの女神さんだが、口調は機械的だ。


 野盗が全員、腰を抜かしている。僕の強さに、恐れをなしたのか?

 一番ビビっているのは、僕なんだけど?


 まあいいか、と深く考えないことにする。

 そこそこ強い状態で召喚されたんだろう。

 野盗ごときに苦戦されたら、女神さんだって困るだろうからね。

 

 手早くスキル振るぞっと。


 ポイントを振れるのは、攻撃力に体力、素早さか。魔力もあるぞ。

 

 今の時代「ステータス オープン」とかやらないんだね。

 頭の中で、全部処理できるのか。

 いちいちステータス画面開いていたら、攻撃されちゃうもんね。


「システムボイスさん、質問です。スキルの振り直しってできますか?」

[振り直し自体は可能ですが、職業などは変えられません。慎重に選択してください]


 今は、【ノービス】か。まだ何者でもありませんよ、っと。


 素早さに二つ、攻撃力に一つ、スキルポイントを振る。

 魔法や体力とかはまた今度、ってことで。


 おお、脚の筋力が上がった気がする。腕にも、力が入りやすくなったぞ。


「女の子をいじめるやつは許さん。覚悟しろ!」


 僕は、ためらわずに斬りかかる。

 ユウキに教わった以外、ロクな戦闘技術はないけど。


「意外と、あっけなかったな」


 野盗たちを撃滅した。全員、黒い霧になって消滅していく。


 数が合わないな。ああ、一人は少女が焼いてくれたのか。


「助けていただいて、ありがとうございます」


 少女がお礼を言ってきた。


 改めて少女を観察する。

 上は上質な布を使った濃い紫のパーカーで、下は紺色のミニスカートだ。

 動きやすさのためかな?


 少女が頬を染めた。ちょっと観察しすぎたか。


「あっ、ごめんなさい。こちらこそ。早く逃げてください」


 僕は、少女に避難を促す。まだ敵がいるかもしれないから。


「アイテムは……もっといい剣が手に入った」


 攻撃力が三追加する上に、炎の魔力付与か。

 ちょっとしたマジックアイテムだな。


 他はお金と、杖か。


 あれ、あの子、まだ突っ立っている。しかも、丸腰じゃないか。


「どうぞ」


 僕は、拾った杖を少女に渡す。


「え、いいのですか?」


 杖を受け取った少女が、困惑した。


「魔法使いになる気はないんだよ。武器で殴る意味がなくなるから」


 なるべく目指すは、オールラウンダーだけど。

 器用貧乏と言われようと、すべてのイベントをこないたいので。


 しかし、今はまだその時期じゃない。


「それに、キミは魔法使いさんでしょ?」

「どうして?」

「脚を見せているのは、歩幅や間合いを気にしなくていいためだろ?」


 つまり、彼女は格闘戦の職ではない。

 武器を持っていないから、てっきり拳法使いかなと思った。

 でも、線が細すぎる。

 お腹が出ているが、腹筋も割れていない。

 第一、拳闘の使い手なら野盗に遅れを取らないだろう。


「よ、よくわかりましたね?」


 僕の説明に、少女が目を丸くした。


「ごめん。人を観察するクセがあって。あ、武器どうぞー」

「助かります。武器が壊れてしまって」


 少女が、自前の杖を見せる。

 半分にボキッと折れているじゃないか。


「そのかわりと言ってはなんなんだけど、僕の仲間になってください」


 魔法使いが隣にいてくれたら、魔法のイロハもわかりやすいよね。


「喜んで」


 わーいあっさりだー。ビバご都合主義!


 でも、なんだか顔が赤いね。


「あと、申し訳ないんですけど、街まで連れて行ってください」

「わかりました。案内と護衛をいたします。私は、魔法使い見習いのエリアーヌです。エリと呼ばれています」

「エリちゃんね。僕は、アユム。旅の者です」


 名字は伏せて、名乗る。

 この世界で「名字持ちで風来坊」なのは、変だと思ったので。


「ところでエリちゃん、冒険者ギルドっていうの? そういうのも登録しておきたいんだけど」

「……では、あなたは勇者と同じ」


 エリちゃんが驚く。


「う、うん。そうなんだ」


 だよね、驚くよね。

 こんな平凡極まりない見た目の僕が、勇者と同等なんて。


 エリちゃんが、ポケットから銅色のカードを取り出した。


「これが、冒険者カードです」


 冒険者カードを、エリちゃんから見せてもらう。やはり色合いどおり、カードは胴でできていた。


「個人のレベル、所持スキル、冒険者ランクなどの個人情報を確認できます。他に銀行の役割も持っていて、いちいち重いお金を持ち歩かなくてすみますよ」

「説明ありがとう。僕に敬語も敬称も不要だよ。見た感じ、歳もそんな変わらないみたいだし」


 顔は幼く背も低いが、エリちゃんは二四歳だ。僕と同い年である。

 カードの個人情報で、わかっちゃいました。ごめんね。


「……わかったわ。ありがとう、アユム。でも、あなたも勇者の一人なら、街の人はよく思わないかも」


 エリちゃんの表情が歪む。


「そうなの?」

「勇者は、街を見捨てたもの」


 女神さんも、同じことを言っていたな。

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