勇者が最速魔王討伐に夢中で世界が崩壊寸前。代わりに友人の僕が領地経営やモフモフ娘の救出など人助けしまくっていたら最強に

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

第一章 大勇者のあとしまつ

第1話 勇者の友人代表として転移させられた。

「異世界へようこそ。野呂ノロ 遥歩アユムさま」


 友人である林田ハヤシダ 裕貴ユウキを追っていたら、僕はいつの間にか異世界にいた。


 薄暗い森の中央にある祭壇に、僕はポツンと立たされている。


 目の前には、僕を喚び出したという女神が。石像の状態だったが、僕の目の前で本物の女神さんになった。


「アユムさまは、驚かないんですね?」

「こういう異世界系はよく小説で読むので」


 むしろ、貴重な体験ができてうれしい。 


「で、あいつもこの異世界にいるんですか?」


 予想外である。

 あいつは深夜までゲームするタチだったが、会社をさぼるようなヤツではなかった。

 今回はさすがに、と思って部屋も調べてみたのである。

 が、スイッチが入りっぱなしで放置されていた。風呂にもトイレにもいない。

 交際相手もいないから、出かけた様子もなかった。


 捜索願を出そうと外へ出た瞬間、この状況である。


「はい。強い魔力と強靭な精神力を持って、魔王を倒す人材と期待して、妹が」


 ……しかし、とんでもないことが起きたらしい。


「実はユウキさまは、魔王デュロイル討伐以外にまったく関心を示しませんでした。魔王以外の勢力が力をつけ始めてしまいました。この世界は崩壊しつつあります。妹もクビになりました」

「あー、あいつらしいですね」


 ユウキは自分に与えられた仕事や、自分にしかできないこと以外、関心示さないところがある。

 しかし、最速でこなすクセがあった。

 彼の趣味はRTA、いわゆるリアルタイムアタックだ。そういう男である。


 今回も、どうせ「魔王を最速で倒すRTAだ!」とかいって、他のイベントなどを全部スルーしたのだろう。


「いま、お考えのとおりです」


 心を読まれたか。おおう。


 ユウキが魔王を最優先したせいで、勇者が立ち寄るはずだった「始まりの村」は蹂躙され、王都は四天王一人に睨まれ続け、他の街も荒れ放題だとか。


「ですよねえ。まあ、あいつにはあいつなりに、考えがあるんですよ」

「といいますと?」

「魔王を倒したら、他の勢力とかが一気に弱体化するんじゃね? とか思ってるんですよ」


 僕が言うと、女神さんは納得したかのようにうなずいた。


「そういう方だとわかっていれば、対策もできましたのに」


 強い魔力を持っていることだけに注目し、女神さんはユウキの性格までは見抜けなかったらしい。


「そこで、あなたに異世界に行ってもらって、魔王以外の勢力を撃退していただきたく」

「ああ。雑用係をしてくれと」

「図々しいのを承知でお願い致します」


 本当に申し訳なさそうに、女神さんが頭を下げる。


「いいですよ」

「え……」

「ユウキの好きにやらせてあげたいんで」

「ありがとうございます! では、よろしくお願いします」


 僕は「いやあ」と返した。


「ただし、ボクもたいがいですよ?」

「あなたは、どういった趣向で?」

「アイテム掘りが趣味です」


 僕はユウキとは逆に、ゲームのあらゆるものを見て回りたい方だ。

 いわゆる「やりこみ勢」である。

 他の人が一週間かけてクリアするのを、二ヶ月ほどかけて色々見て回るのだ。

 といってもバッドエンドまで回収したいとは思わないけど。


「なるほど。では寄り道プレイヤーなのですね?」

「そうですね」

「ならば、ちょうどいいかもしれません。この世界は本来、寄り道が推奨ルートですので」


 わかりました。では参りますかね。


「必要最低限のお金と装備を、お渡しします」


 ショートソードと、革のヨロイをもらう。早速装備した。初期装備だけど、あとで強い装備に交換しよっと。


「はい。あなた方の世界で言う【ハクスラ】という設定ですので。あとは強い武器はご自身の手でお探しください」


 ハクスラとは、ハックアンドスラッシュといって、アイテムを拾っては装備を付け替えていくゲームだ。

 ほんの少しずつしか強くならないが、その過程が楽しいのだ。


 もうひとつ、チートとは言わないまでも【特殊技能】を二つまでもらえるらしい。ここではない異世界でチートを使った冒険者が、冒険そっちのけで自身の欲望を叶えまくったとか。それ以来、チートは最低限にとなったという。


「では、アイテムドロップ率を上げてください。後は、友だちが欲しい。できれば女の子の」

「承知しました。あなたには【女神の幸運】と【愛され】を授けます、では失礼いたします」


 女神さんが消えた。同時に、この祭壇の退魔効力も切れちゃったっぽい。ここからは、自分で戦わないとね。


 子鬼と、トカゲと、カラスが襲ってきた。


「おりゃ! おりゃおりゃ!」


 それなりに、戦えるぞ。今まで遊んできたハクスラゲームそっくりだな。


「もうロングソードを拾ったな。ん?」


 なんか、フードを被った女性が追われている。

 手から火の矢を放って、追手をまいている感じだな。

 この世界って、魔法もあるのか。


 少女を追う相手は、五人がかりの悪党だ。


 ぬかるみに足を取られ、少女が転倒した。その手から、上等そうな薬品の瓶がこぼれる。


 うっわ、【エリクサーの元】って書いてあるじゃないか! 僕、この世界の字が読めるぞ!


 でも、結構あの子は大ピンチなのでは?


「この薬の成分は、あなたたちの手には渡さない!」


 瓶を拾って、大事に抱える。


「やなこった! これはオレサマたちのボスが、麻薬の成分として使うんだよ!」


 ダメじゃん!

 エリクサーはちゃんとエリクサーとして使わないと! 


「これがあれば、どれだけの病気を治せるか!」

「へん! ボスの手にかかれば、街中にいい気持ちになる病気をまん延させられるんだよ!」


 野盗たちが笑っている。少女の手を掴んで、瓶を奪った。


「返しなさい!」

「うるせえ、テメエを麻薬の実験体にしてやるぜ!」


 なおも、野盗たちが凶暴化した。


 これはアカンやつや。


 ショートソードをポイッと。


 ドス、と野盗の太ももにジャストミートした。悲鳴を上げながら、野盗が泣き出す。


 手から瓶がこぼれたのを、僕は見逃さない。


 おお、やってしまいましたよ。でも、罪悪感は薄い。人を傷つけた不快感の方が勝っている。


「なんだてめえは!?」

「その子を離すんだ!」


 前に出てしまった。しかし、やるしかない。レベル一だが、いけるか?

 でも、そんな不安はおくびにも出さない。相手を刺激してしまう。


「ヤロウ!」


 相手が斬りかかってきた。


 ユウキから教わった、不良撃退法を! 鼻先を殴ったら、逃げる!


 ゴキ……と、野盗の頭が背中まで曲がる。


 首を折ってしまうとか、聞いてませんけどぉ。

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