第12話 因幡の国忠臣 木島吉嗣03

 部屋から出ようとしたとたん、背中に大きな気を感じる。

 その気は大殿、虎丸の前でいつも感じていた気。

 いや、それ以上かもしれない。


 私が振り返ると、猫丸殿が片目を開けて耳をピクピクと動かしている。

 そして、いきなり立ち上げる。


「みなのもの!聞くニャン!

 縄張りが侵されたにゃん。

 猫は自分の縄張りが侵されたら黙っていないにゃん。

 戦争だにゃん!」

 そう言って傍らの剣を取る。


「戦争ですか?」

 そばにいた羽無太郎左衛門がその言葉に反応する。

 この男は虎丸四天王に数えられているが、その戦いをみたことはない。

 猫丸殿にも匹敵する小さな身体、つぶらな瞳、丸い耳、もふもふの身体。

 獣化しているが、その動物は…

 そう、ハムスターだ。

 どこを見ても戦闘に向かない身体。

 四天王ともあろうものが、そんなものにされているとは…

 本当についていない。

 こいつが熊獣人にでもなっていれば、なんとか赤鬼と渡りあえたのだが。

 

 この戦い、一番やばいのが、赤鬼成重だ。

 一騎当千の武人で、わたしが見た中では一番強い。

 血まみれの赤鬼という二つ名の通り、人間よりも鬼に近いやばいやつだ。

 その上、その周りには極悪非道のならずものたちが固める。

 戦場では、人殺しが好きなこういうやつらがいちばんやっかいなのだ。

 普通の武人は人を殺すことに多少たりともひけめを感じている。

 それにくらべ、赤鬼隊は人を殺すことを楽しんでいるのだ。

 何人殺すかで賭けをしたりしている。

 一種の壊れたやつら。

 因幡にはそいつらに渡り合える武人がいない。


 しいてあげれば、元四天王平手殿、そしてわたし、羽無殿にも期待はしていたが、ハムスターになっているなんて。


「わしも御供します」

 平手殿が若殿に付き従おうとする。


「猿爺はいいにゃん。

 将棋隊の歩だけでいいにゃん」


 若殿は何を言ってるんだ。

 最大戦力をださないといけないだろう。

 それに将棋隊の歩って、一番弱いやつらじゃなかったっけ。

 平手殿が金の二とかいわれてるし。


「平手殿まかせてくださいハム。

 将棋隊九の歩、羽無太郎左衛門、若殿とともに縄張りを守ってくるハム」

 羽無殿が胸を叩く。

 いや、ハムスターはハムとか言わないし… 

 

「それでは将棋隊の歩を集めます。

 みんな初めての戦を喜ぶでしょう」

 平手殿はそう言って部屋を出ていく。

 

 本当に大丈夫なのか、こいつら。

 わたしは唖然とするしかないのだった。

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