第9話 因幡の国忠臣 木島吉嗣01
「殿、九里の国から因幡の国に大軍が向かっています。
その数、三万、いや五万と思われます」
わたしの出していた斥候が九里の動きを告げる。
始まったか…
わたしは九里の動きを予測していた。
大殿が逝去されたときいてすぐに因幡の国に戻ってきたのだ。
今の殿には大殿のようなカリスマはない。
それでも、このようなことになっているとは夢にも思わなかった。
猫丸殿は、申し出た大名の離反をすべて認めたのだ。
そればかりか、人質である家族をすべて解放したのだ。
その上、あの赤鬼を追放したという。
わたしはもう因幡は終わったと思った。
本当ならここは九里に与するのが正解だろう。
ただ、わたしの国は他の国に滅ぼされそうなところを虎丸の大殿に助けられたという恩がある。
このような戦国の世になにを青いことを言ってるんだと思われるかもしれない。
しかし、わたしのようなバカがいてもいいだろう。
わたしは因幡のために命を捧げよう。
本来、これが武士道というものなのだ。
わたしの兵は300といったところ。
猫丸殿の兵は100人にも満たないだろう。
これで戦に勝つなんてことはできない。
ただ、猫丸殿を逃がすことはできるかもしれない。
若殿はやさしいお方だ。
しかし、この乱世ではそのやさしさは身を滅ぼす。
猫丸殿は生まれてくる時代を間違えたのだ。
できれば、どこかの山中ででも平和に暮らしてほしいと思う。
たぶん大殿も猫丸殿には戦はあわないと思っていたのだろう。
猫丸殿を一度も戦に連れて行ったことはない。
もう、元服も終わっているのに初戦もしていない。
大殿は急ぎすぎたのだ。
猫丸や白猫姫のために平和な世を残そうとしたのだろう。
だから、わたしが大殿の遺志をつごう。
この命に変えて猫丸殿を逃がそう。
「若殿、大軍がこちらに向かっています。
逃げるには今しかありません」
わたしは若殿の前で注進する。
「いやだにゃん。
ここがいいにゃん」
若殿はだだをこねる。
「そんなことをおっしゃられても。
しかたありません。
力づくでも連れていきます」
わたしは立ち上がり、若殿をつかもうとする。
その腕は毛むくじゃら手でつかまれ若殿にとどかないのだった。
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