謎の魔族2
どうも、草原でオレンジスライムを狩っていたら謎の幼女とおじ神の関係者に捕まり、領主に謁見させられた後に迷宮へと連行された中島咲です。
よろしく。
今日も今日とてトラブル続きですが、なんとか二度目の人生まだ死なずに生きてます。
ありがとう、おじ神。
ありがとう、私。
ところで、そんな死んでも死なないようなしぶとい私ですが、現在S級の冒険者や騎士団と共に、とある迷宮の探索真っ最中です。
ちなみに、迷宮内で先導するのはまさかまさかの大抜擢で、なんと私。
おじ神から与えてもらったチート能力である、
E級冒険者に一体何の期待を……、って思ったけど、そりゃあチートで手に入れたスキルは未熟でもそんじょそこらの補正無し冒険者よりも優秀な訳でして、どう考えても素人の私は対人間に特化した金属鎧の騎士様たちよりもいくぶん探索慣れしているように見ているらしい。
とはいえ、獣人の最高位冒険者であるシーエちゃんには、この点では全く及ばないのだけども。
しかし彼女を全面に出して疲労させ、何かあってからでは取返しがつかないということで、私が働く事と相成った。
「うへー、荷が重い~。私には荷が重いよシーエちゃ~ん」
「うだうだいうな。ワタシがついてるから心配ご無用」
「またまた~。このチビっこめ~! うりうり」
「や、やめっ、にゃめろ!」
ぷぷー!
にゃめろ、ですってよ奥さん。
閃光のシーエともあろう冒険者が、可愛い反応をしていらっしゃる。
私は基本的に猫派なんだけど、こうしてみると犬耳も可愛いのなんのって……。
ぶっちゃけ可愛いは正義。
よって、シーエちゃんの耳をモフる権利は我にあり!
「うひ~。もふもふだね~」
「うにゃぁっ!? 任務中にあ、遊ぶのは、ダメ! フシャー!」
犬耳をモフられ、小さい体をピクピクさせながら迷宮に潜るシーエちゃん、尊し。
とはいえ、彼女はこれでも最高位の冒険者。
こんな小さい体のどこからその自信が来るのか皆目見当もつかないけど、実力はS級だっていうし、今は素直に従うしかないかな。
探索中に遊ぶなっていう、彼女の言っていることは当然の事だし。
そうしてしばらく探索を続けていると、ふいに空気っていうのかな?
なんというか、世界の境というか、重みが変わるというか。
こう、風景は変わらないのにガラっと印象が変わるようなタイミングがあった。
これがキルケーの領主様から聞いていた、向こうの他世界というやつなのかな?
ここまで魔物とか罠とか、そういう妨害らしいものが一切なかったようなのだけれど……。
確か以前の話では、魔族に襲われて調査が中止されたという話だったんだけど、妨害なんてどこにも無かった。
私の直感では、まだまだ嫌な予感がビンビンなんですけど、あれぇー、おかしいな?
すると世界が切り替わったのを現場の責任者である騎士団長さんも感じ取ったのか、ここまでトラブルなく歩を進めた私を称賛しだした。
「ふむ、たかだかE級冒険者が何の役に立つのかと不審に思っていたが……。いやはや、さすがは閃光のシーエ殿のご紹介だ。この領域にまで妨害無しで来れた事は今まで一度たりとも無かったよ。……ナカジマといったか。少々、君の事を過小評価していたようだ、すまないね」
「い、いえいえ……」
いや、私なんにもしてないですけどね!?
もしかしたらおじ神の関係者である幽霊、デウスさんが何かしてくれているんじゃないのかな!
知らないけど!
こういう歴戦の戦士、って感じの大人の男性に褒めら認められるのは嬉しいけども、本当に私は何もしていないからちょっと居心地が悪い。
はぁ~、はやく調査終わらないかな。
迷宮を無事に抜けられそうになった私は、ヒシヒシと感じる嫌な予感に見て見ぬフリをしながらも、そう切に願うのであった。
◇
「……ようやく、本当にようやく来たね。遅いよ我が父よ。まあ、貴方ならばこうするだろうことは想定の範囲内ではあったけどね」
斎藤健二の創造した世界と、他世界を繋げた張本人である魔神は、そう虚空の中でつぶやく。
この世界の時間軸で言う所のいまから数年前、彼の父である創造神の御業、マナへの干渉を試みた魔神は一瞬にして世界を繋げた。
当然そこには彼なりの思惑があるのだが、彼の表情を見る限り滞りなく、順調に進んでいるようである。
もちろん全てが全て思惑通りではない。
創造神の奇跡に干渉しようとして、当の斎藤健二に逃げられたのは正直想定外の事であった。
わざわざ不意を打ったはずなのに、なぜか干渉は見透かされ、その瞬間瞬時に神界へと逃げられている。
その後に親友である龍神から怒りの鉄拳をもらい、分身が何の抵抗もできずに蒸発したのは想定内であったとしてもだ。
とはいえその想定外すらも、いや、想定外だからこそ魔神はさらに斎藤健二を認める。
「この僕が神経を張り巡らせ、完全に不意打ちしても対応されるとはね……。しかし、だからこそ貴方は素晴らしいよ。やった甲斐があるというものだ。しかしそれに比べて、あの木偶はなんだろうね? いずれこの件に対応した使者を送って来ると思って待っていたけど、あの異世界から来た男女はともかくとして、ナカジマさんって子は、なんだろうなぁ……」
なんというか、経験が足りない。
魔神は正直にぶった切った。
確かにこの世界に来たばかりである事を考慮すれば情状酌量の余地もある方ではあるが、同時にやってきた異能持ちの戸神黒子、そして鬼道とよばれる青年と比べると、どうにも心構えも足りていないように見える。
あのボケっとしたところはある意味、彼が慕う創造神である斎藤健二とも通じるところがある。
だが、不意打ちですら退けられた事からも、斎藤健二の事をどう頑張っても殺せそうにないと直感している魔神は、どうにもあの中島咲のことはひとひねりでなんとでもなりそうであったのだ。
そんな素人を父が送り込んできた思惑に少し困惑しており、それそのものが彼の計算外であった。
「まあ、だからこそもう少し見守るとしよう。その資格があるからこそ、我が父も君を送り込んできたのだろうしね……」
────今回は、邪魔をしないでおいてあげる。
世界を繋ぐ迷宮に向けてそう呟くと、再び魔神は世界を俯瞰した。
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