謎の魔族1


「ふむ、それではこの者が君の推薦した冒険者、ナカジマという者かね?」

「そう。来る途中で拾った。実力はワタシが保証する」


 どうも、みんなのアイドル中島咲です。

 ごめん、アイドルは盛ったわ、たぶんご近所で評判の某くらい。


 まあそれはそれとして、現在私はとあるS級の冒険者に拉致られ、このキルケーの領主様とご対面しております。

 なぜこうなったかという説明は長くなるので省くとして、概要をまとめると、おじ神の知り合いとかいう閃光のシーエに憑りついた幽霊……、みたいなのが野良でレベル上げをしている私を捕捉したのが事のはじまり。


 正直私にもこのデウスとか名乗っている幽霊が何者なのかは分からないのだけど、どうもおじ神の知り合いというだけで気が緩んじゃうんだよね。


 ただ、まさか私も巷で聞いた閃光のシーエがおじ神の関係者だとは思わなかった。

 ギルドの依頼で、平原のオレンジスライムの処理に集中している間、急に拉致られた時は二度目の人生もここで終わりかなんて悲観したものよ。

 いくら避けようのないトラブルが近づいていると分かっていても、そもそも避けようがないのだからしかたがない。


 とはいえそれは誤解だったようで、何を考えているのか謎が深まる閃光のシーエとかいう幼女はともかくとして、それに反比例するかのように理性的なデウスに詳しい話を聞いた。


 なんでも、デウスの目的はこの世界から突如として姿を消した創造神であるおじ神の行方を捜すことだそうで、そのおじ神の力の残照を感じる私に興味を持ったのがはじまりらしい。

 だからできる事なら少しの間だけでも、手がかりとなる私の傍で調査をさせてくれという話であった。


 そう言われれば私も否やとは言えない訳で、しょうがないなーという形でこうしてしぶしぶ領主様と対面しているという訳なのである。


「ふむ。まあ閃光のシーエ殿の付き人とあれば、疑うことの方が失礼というものであろう。それに今は戦力が一人でも多い方が良い、歓迎するぞナカジマとやら」

「ふふん」

「あっ、ハイ。どうも宜しくお願いします」


 なぜか私の代わりにふふんとドヤる幼女。

 眠たそうな目をした控えめな印象とは異なり、この幼女かなりの自信家だ。

 侯爵とかいうカリスマオーラバリバリのおじさんを前に恐縮している私とは大違いである。


 それもそのはずで、この城みたいな屋敷のホールでお抱えの精鋭騎士たちに囲まれながら、こんな「誰や君」みたいな扱いを受けたら誰でもビビリますって。


 というかこの侯爵サマ、オーラだけならおじ神よりだいぶ強そうじゃない?


 で、でもおじ神は一応創造神な訳だし、弱いはずはないんだけども。

 ひ、人は見かけによらないって本当のことなんだね……。


「うむ。では、さっそくだが本題に入ろう。騎士団長!」

「はい。ではこれより先は現場の責任者である私から説明をさせてもらいます────」


 そこから騎士団長さんが説明を受け継ぎ、長々とした前置きのあと話していた内容はこうだ。


 いまから数年ほど前、この世界には未知の世界へと通じるダンジョンが相次いで発見されることとなったらしい。

 その未知の世界の先では、この世界とは異なる法則である『職業持ち』や『スキル持ち』などの人間が確認され、この世界では確認されていなかった魔物や魔族が存在しているのだそうだ。


 もはやこの世界から見てそこは異世界、いや他世界といっても過言ではなく、各国の上層部が連携し極秘の任務として調査を続けてきたらしい。

 その結果、その他世界の調査を継続するために集めた精鋭がダンジョン内部で謎の魔族に襲撃され、今に至るということだったようだ。


 というか、こんな事ぽっと出の私に話しても大丈夫なのだろうか。

 それに職業持ちやスキル持ちが『確認され』というのはどういう事なのだろうか?

 あの、私そもそも、その確認されちゃった側のチート持ちなんですけども……?


 あれ?

 もしかしてこの話をしたら、私掴まって実験台にされちゃう系?


 あれぇぇええええ!?

 おじ神、あんたなんてモノ寄こしているのよ!?


 こんなヤバイ能力タダでくれちゃって、なんも裏が無いのは変だなーとは思ってたけど!

 いや、別に裏とかないし黙っていればいいだけなんだからデメリットよりもメリットがずっと強いけど!


 特に裏切られた訳じゃないけれど、なんだかドッキリを受けた気分である。


 もしかしておじ神の言っていた魔神がらみって、このダンジョンの先にある他世界での出来事なのだろうか。

 この能力と関係が深そうだし、あり得る話だ。


「────と、いう事なので、よろしく頼むぞ閃光のシーエ殿。そして冒険者ナカジマ殿」

「任せて、負けるはずもなく」

「あ、えっ? あ、宜しくお願いしますぅ……」


 と、なんだかんだで話を聞き逃している間に説明が終わっていたらしく、私は恐縮しながらもしぶしぶと頷くしなかったのであった……。


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