閑話 その頃の創造神探し
中島咲が異世界でトラブルに巻き込まれそうになっている頃、一方地球では斎藤健二の頼みによって動き始めた九尾一族が、他世界の創造神を探し出すために暗躍していた。
九尾一族特有の嗅覚を辿り、海を渡り西へ東へ……。
自らの一族を救った男へ恩を返す為、九尾一族の長である玉藻御前と、特に何がという訳でもないけどなんだかのりのりな紅葉が大活躍を繰り広げているらしい。
今もそんな紅葉が慣れない電子機器を使い、姉の八葉にスマホを操作してもらいながら今日のできごとを報告していた。
「もしもし
「おお、紅葉か? 何か手がかりは見つかったか?」
「う~む、あまり? いや、やはり大当たり? 分からんのう~」
「そうか。まあ時間はまだあるから急がなくていいぞ。いつもありがとうな?」
そう、今日のできごとを報告しているだけで、必ずしも成果が上がっている訳ではない。
紅葉としては自分の働きをちゃんと褒めてくれるおにぎりの
ちなみに、ちゃんとした報告は九尾と八葉が定期的に上げているため、斎藤も特にいう事はなく作戦にも支障はないらしい。
「それでのう? 儂、今日も大活躍じゃった」
「おう。どんな凄い事をしたんだ?」
「『いぎりす』で創造神とやらの事を嗅ぎまわっている事が、吸血鬼? とかいうのにバレてのう? 急に襲われたんじゃけどもね~」
既に九尾から報告を受けているとはいえ、かなり重要度の高い情報を紅葉無双として楽しそうに語り始める。
尚、このイギリスに存在している怪異である吸血鬼にバレたという情報だが、これは最初から尻尾を掴ませ相手を泳がせるためにわざとバラしているに過ぎない。
今の十尾となった紅葉が本気で情報を隠蔽して活動した場合、たとえ自らの一族の者であっても手がかりが見つかることはないからだ。
「そうかそうか、よくやったぞ紅葉。偉い! 相手が慌てて襲ってきたということは、今回はアタリだな」
「うむ~。
褒めてオーラを全開にしてニマニマするのを電話越しに察した斎藤はすぐさまベタ褒めし、実際これで大きく捜査が進んだと再確認し、安堵する。
だがしかし、と斎藤は考えた。
こちらに九尾という亜神が日本に存在していたように、吸血鬼という怪異が向こうの創造神となんらかの繋がりを持っていた場合、そして創造神がなんらかの事情で他世界を放棄せざるを得ない事情を鑑みて、イギリス側の勢力にも過去の九尾に勝るとも劣らない強大な亜神が存在しているのだろう。
と、彼はそう考えているのである。
そしてそれは九尾も同じであった。
「いちゃついているところすまんが、少し変わるぞ愛しきバカ娘よ。のう、聞こえておるか婿殿」
「ああ、聞こえているぞ。大方そっちも気づいているんだろう?」
「そうだ。余がかつて日の本で君臨していたように、こちらでも吸血なんたらとかいう
このまま調査を進めれば、いずれその者とカチ合うことになるだろう。
そしてそれは、同格の力を持つ亜神同士の戦いとなり、少なくない被害をこちらにもたらすかもしれないと言うことであった。
九尾はそう懸念していた。
故に。
「つまり、ここからは俺とミゼットもそっちに出向いて、用心棒として働く、ということで合っているか?」
「そうだ。もとより負ける気など毛頭ないが、眷属にケガ人が出るのは好ましくないのでな」
そう九尾は言う。
しかしこれは半分程の虚勢が混じっており、元々調査隠密に長けた種族故の彼女らの戦闘能力は、純粋な怪異と比べて幾分か低めに見積もられている。
逃げ隠れするだけなら十尾となった紅葉がいれば天下無敵とはいえ、同格の亜神となれば正面切っての戦闘では分が悪いと踏んでいたのであろう。
「分かった。だがちょっとまってくれ。俺がそちらに着くまでの間、相談しておきたい用心棒がいる。それまでは余計な特攻はせず、待っていてくれ」
「ふん。用心棒だと? 余と婿殿が揃って、この世界に打ち勝てるような
いや、そうでもないんだよなあ、と斎藤は思う。
もちろん戦力で言えば守護神となったミゼットと紅葉、九尾、自分が揃って亜神一柱に立ち向かうのはイージーといえばそうなのだが、事情はそう簡単ではない。
かつて戸神家が九尾の専門家であったように、筋を通さなければならない相手がいるのだ。
今回はそう、かの男、ハリー・テイラーを含めたエクソシストなんかが該当するだろう。
斎藤はそう考え通話を切り、かの男とコンタクトを取るためにまずは戸神源三の伝手を辿るのであった。
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