直感少女2


「……と、いう訳なのさ。今じゃここの領主様も右往左往していてなぁ」

「ふむふむ。あ、この人にエールもう一本!」

「カーッ! 悪いね嬢ちゃん!」


 最初の町にてトラブルの予感がした私は、夜逃げのごとく転移を繰り返す事しばらく。

 二日程でこの国の侯爵家が治めているとされる隣町のキルケーまで来ていた。


 しかし現在、この町はどうにも慌ただしい。

 というか、町の住人に余裕がないというか、荒れているのだ。


 で、情報収集ついでに冒険者ギルドの酒場で飲んだくれていたおっちゃんへ、エールを奢りついでに世間話を聞いてみると、その原因と思わしき事を話してくれた。

 どうやら最近発見されたダンジョン付近から、手に負えない強さの魔族とやらが流れ込んできたらしく、その対応に追われ町が脅かされているらしいのだ。


 侯爵家の私有する騎士団相手でも正面から戦えるっていうんだから、そりゃあもう戦闘力はそんじょそこらのモンスターとは格が違うとのこと。


 へー、厄介だねー。


「それじゃおっちゃんも大変だったねぇ。冒険者なんでしょ? 魔族とも無関係ではいられない訳だ」

「いや、俺ら冒険者はまだマシな方だ。このキルケーを治める領主様は優秀な御方でな、無為に命を散らせない為にも、基本的に魔族の相手は自分達で勤めて下さっている。俺ら町の冒険者なんてのは、気楽なもんよ」


 とは、エールで顔を赤くしたおっちゃんの言。

 このキルケーの冒険者がどれ程の腕前かは知らないが、騎士団自らが盾になるとは中々ご立派なことで。


 そう感心していると、おっちゃんは目を細めて「だが、まあそんな魔族の脅威もここまでよ」と言い放つ。


「中々決着がつかない事に痺れを切らした領主様がな、その発見されたダンジョンの調査と魔族の討伐を含め、凄腕の冒険者を雇ったらしいんだわ。名を閃光のシーエ。二年ほど前から頭角を現した、S級の冒険者だ」


 確かにS級などという人類の最高峰の力を持つ冒険者であれば、問題なく魔族とやらも討伐できるかもしれない。

 しかし続いておっちゃんの話を聞くに、そのシーエとやらがタダの超越者ではないことが明らかになった。


 なんでも閃光のシーエとやらはとにかくお金にがめつい性格らしく、領主様でも手に余るような報酬がないとまともに取り合ってくれないのだという。

 その報酬の金額、なんとこの町の年間予算の二倍ほど。


 侯爵家というだけあっていくつもの町や都市を治めている手前、S級冒険者に対し金額そのものを支払えない訳ではなさそうなのだが、さすがに町を運営する年間予算レベルとなると話は変わって来るらしい。


 でも閃光のシーエはそんな事情には頓着せず、どうやら向こうも向こうで『ワタシは優秀なので、このくらいは当然』と宣っているらしい。

 まあ、実際S級だからその通りなんだろう。


 では別のS級冒険者に頼めば金銭的な問題も解決するのでは、と思わなくもないが、この魔族事件は急を要する事柄の為、その冒険者の異名にもなった閃光、つまりは移動速度が問題になってくるらしいのだ。


 まあ、つまりは応援に駆け付ける時間が極端に短く済むということなのだろうと予測する。


「へー、そうなんだ。まあ、まだE級に昇格したばかりの私には関係ないことだね。話を聞けて良かったよおっちゃん。それじゃ」

「おう、またな嬢ちゃん」


 そう言って冒険者ギルドに併設された酒場から離れつつも、私は葛藤する。

 なにせいつになく直感が警報を鳴らしているのだ。


 そのシーエとやらが町の事情に関わったら、必ず私もトラブルに巻き込まれると。


 だが流石の私でも、おじ神から魔神や魔族関連で討伐の依頼を受けてこの世界に降り立った以上、魔族と聞いて尻尾を巻いて逃げる訳にもいかない。

 どうにかして私自身がトラブルに巻き込まれず、尚且つ魔族討伐の手助けになるような案があれば良いのだけど……。


「ま、それは無理ね。こればっかりはしゃーなし」


 ちょっと考えてみた結果、このトラブルは回避不能のイベントだと考えるに至った。

 だって八方ふさがりなんだもの。

 おじ神の期待を裏切る訳にもいかないしね。


 という訳で、私はしぶしぶ、ほんとーにしぶしぶと、来たるべき魔族との決戦に向けて、せめて死なないだけの力を身に着けておこうとレベル上げに勤しむのであった。


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