直感少女1


 私が異世界に渡ってから既に一週間と少しが経った。

 あれから車に轢かれそうになった私が消えた事で、学校や友達、家族の反応がどうなっているのかは分からないけど、そこらへんはきっとおじ神が上手い具合にやってくれているはずだ。


 命を救ってくれた当初から思ってたけど、あのおじ神は神様なのにどこか庶民的というか、こういう細かいところを放っておかないタイプの神様に思えるんだよねぇ。

 なんというか、ウチのお父さんと似た感じの空気感を感じる。


 こう、社会人風っていうの?

 いや、色々と疲れたサラリーマン風っていうのかな?

 まあいいや、だいたいそんな感じ。


 とまあ、そんな私ら人間と距離感の近いおじ神だからこそ、私も気兼ねなく信用することができたんだけどね。


「ところで……、っと。ふぅん。これが今の私のステータスって訳ね。おじ神の用意したスマホってば、ちょー高性能ね」


 私は安宿の一室で起動したスマホの画面を覗き込み、中島咲と表記された自分の名前をタップする。

 すると名前の下に現在の能力値やスキル、また職業レベルが事細かく表記され、今の私がどのくらい成長したのかパッと見で理解できるようになっていた。


 ちなみにここ一週間低級の魔物をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返したおかげで『レンジャー』のレベルも十二まで上昇したようだ。


 とはいえ剣術レベルは相変わらず二で、傷ついた冒険者を救うためにGPを全て費やした回復魔法に至っては三止まりではあるのだけども。

 ただレンジャーレベルの上昇に伴ってか、隠形だけは初期値であった一から二まで上昇したので、成長が何もなかったわけではない。


 そうそう、それとGPを全て費やしたといえば、スマホを弄っているうちに様々な条件下で徐々にGPが溜まっていく事が発覚した。


 例えばこうしてゴロゴロとベットの上で横になっているだけでもGPは小数点以下の極小単位で増えていくし、特に負荷がかかる鍛錬を行えばそれに応じた速度でGPは増えていく。

 つまりおじ神から授かった唯一のチート能力であるGPというものは、そのまま人生の経験という形で私が蓄積したものと比例していく増えていくらしい。


 ……という事を、スマホに表示されたGPをタップし、常に観察していることで数日前にようやく発見したのだった。


「で、現在の獲得GPは『25.36246』ポイントね。つまり、25ポイント」


 10ポイントでスキルか職業レベルのいずれかを一つ上昇させられる事を考えると、一週間の成果としては中々破格の獲得量なのでは……。

 でも職業レベルは戦闘を経験すると意外に早く上昇するので、やっぱりGPを消費するならスキルに使う方が良いと思う。


「でも、悩むわぁ~」


 新しいスキルを取るか、それとも今までのスキルを集中的に伸ばすかを考える。

 そもそも、初日に魔物に襲われた商人の一団と出会い、そして彼らに助力してからというものこれといって大きなトラブルは発生していない。

 であればこのまま温存というのも一つの手だけど、私の直感がそう上手くはいかないって囁いているのだ。


 正直、私の直感は当たる。

 なんで当たるのかは分からないけど、とにかくたいした根拠もなく結構当たるのだ。

 実際に自分の死期すらも予見した訳だし、信ぴょう性は高いはず。

 であるならば、その直感に従ってGPを消費するのもまた一興という訳。


「よし! 君にき~めた! 頑張れワープ君! 君がこれからの私の冒険を豊かにするのだぁ!」


 私はスキルポイントを20消費し、短距離転移をレベル二で獲得する。

 どうやら時空間魔法でも膨大な魔力と詠唱を駆使して同じような事ができるらしいのだが、まだレベルの低い私では実用に耐えるだけの魔力が足りないし、なによりソロで冒険をしているのに長々と詠唱をしていては戦闘に差し支える。


 であるならば、短い距離ながらも転移という一点において、魔法ではなく瞬間発動できる異能として手にした方が建設的だと思ったのだ。


 どうやらこのスキルは『勇者』とかいう、今の私にはどう足掻いてもGPで獲得できない超常の職業で獲得できる付随スキルのようなんだけど、まあ能力の一部だけであるなら格安で習得できるのが私のいいところよ。


 まあ私っていうか、おじ神の力なんだけども。


 ちなみに勇者をレベル一で入手するための消費GPは10万とちょっと。

 とてもではないけどやってられない。

 というか、おじ神は勇者をまともに習得させる気ないでしょ。


 そして新たな力を手に入れた私は、今も尚直感にビリビリと伝わるトラブルの気配が近づいて来るのを感じ、短距離転移にていそいそとこの町から脱出するのであった。


「そう! 何を隠そう私はまだレベルが低いのよ! こんなヤバイ気配のトラブルが近づいて来ていたら、逃げるに決まってるっしょ! 女子高生の生存能力なめんな!」


 バイバイ某のトラブルさん。

 私は次の町へとお暇させてもらうよ。





 …………うそだろ。

 俺の指示で誘導し、サポート要員として用意した戸神家との接触イベントを察知した中島さんが、短距離転移で逃亡した。

 それも接触する寸前のタイミングで、である。


「いやいやいや、なんなんだあの女子高生は。中島さん勘が良過ぎだろ」

「ホントね。中々鋭いセンスを持っているじゃないの。ある意味、紅葉や私といい勝負だわ」


 ミゼットも少々の驚きと共にスマホを覗き込む。

 そうか、そんなにヤバい次元の鋭さか……。

 これは先が思いやられる。


 というかだ、あの娘の直感は悪い予感だけじゃなくて、『何か大きな転機』そのものを察知しているようなのである。

 だからそれが良い出会いなのか悪い出会いなのかは別として、自分の手に余るイベントが起こりそうになると自然と回避行動に移るらしい。


 確かに今の中島さんと黒子お嬢さんの実力差は天と地ほどの差があるし、今すぐに出会っても彼女の手に余る人材なのかもしれないんだけどさ。

 だが、逆にこちらの思惑から早々に逃げられたという事実は、ある意味安心感を覚える。


 言い換えれば、ジーンの奴が何かしらの妨害を企てたり、また他の悪意のある者が彼女に近づこうとしても自衛が出来ると言う事に他ならないからだ。


 しかし、それはそれとして、いずれ一人では解決できないような問題が降って湧いて来る事も考えられる為、黒子お嬢さんには神託を通じて追跡を続行して頂く事になるんだけどね。

 まあ、戸神家のメンバーも、あちらはあちらで異世界での冒険をボーイミーツガール風味に楽しんでいるみたいだから急がなくてもいいだろう。


 きっと次に黒子お嬢さんや鬼道君が追い付くころには、中島さんもレベルアップを果たしているに違いない。

 そうなれば、今度は逃げるような事もなくなるはずだ。


「だが、前途多難だな……」


 彼女が向かおうとしている次の町で起きているとある問題を【ログ】で確認しながら、俺は呟くのであった。

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