使徒1
ミゼットの発言により、魔大陸の亜神達の動きが活発になったという報告を真に受けた貴族達は、先ほどとは打って変わって蜂の巣をつついたように騒ぎ出した。
この時代でも魔神というのは人類最大の敵、禁忌、等々のタブーとして扱われているらしい。
伝説の聖騎士云々のところはやけに反発していたのに、いざ自分達の危機になれば信じるんだな、という感想が湧いて来る。
損得勘定が得意な貴族らしいといえば貴族らしい。
だがこの騒ぎも王の一喝によって一旦は静まった。
王曰く魔神の件については、それこそその話が本当であればそんな情報を知り得るミゼットも本物という事になる。
故に今すぐに慌てる必要は無い、とそう結論付けたのだ。
魔神が動くと聞いていた王にも動揺があっただろうに、大した胆力である。
というか、他世界の情報を秘匿する為とはいえジーンに濡れ衣を着せてしまった事が申し訳ない。
あとであいつに出会ったら謝罪しなければいけない案件だなこれは。
そんな感じで盛り上がった会議だったのだが、最終的に話は本筋である俺達の褒賞に戻った。
まあ戻ったといっても、金も爵位も時代を超えていく俺達には必要ない物であったので、悩みに悩んだ挙句、次の会議に持ち越そうとかそういう結論に至ったらしい。
たぶんこれは、魔神の動きが活発になった事により、自国の危機を感じた王ができるだけ長い時間俺達をこの国に縛り付けるための方便なのだと思うが、さすがにこれ以上この国でちんたらしている訳にもいかない。
戦争で得たかった敵の情報については勇者という繋がりが出来た事により解決したし、もはや大国アーバレストに居続ける意味はないのだ。
「という訳で、とりあえずこの国を抜け出そうと思う」
「賛成よ。もう居る意味もないし」
「ワタシも賛成。勇者の伝手と、この新たな力があれば無敵」
「んぁ? 儂はどっちでもええかなぁ」
ただいま王城に用意された個室──新米騎士だったのものが既に国賓扱い──から創造神の神殿に飛び、皆に方針を伝えている所なのだが、幸せに暮らせればそれで満足な紅葉以外は全員賛成となった。
ちょっとシーエの新たな力があれば無敵という謎の自信には首をかしげるしかないが、まあ確かにデウスとなんらかの契約をして共闘関係にあるならば、普通の生き物相手には無敵だろう。
よってスルーする事にする。
「よし、それでは賛成多数という事で国から脱走する事に決定だな。……で、なんだが。この国を出る前にまずは戦力の増強を開始しておこうかと思う。理由は今後勇者と共闘する上で、今のままでは戦力的に不安が残るからだ」
せっかくアチーブメントを獲得して新機能が追加されたのだ、使わないという手は無いだろう。
どんな機能であるかはまだ神殿のパソコンに居候している天使ノーネームに聞いた訳ではないので、詳しい事は分からない。
ただアプリのメッセージ的には指名した人物を俺の使徒として強化できるような内容であったので、期待はしていもいいと思っている。
「さて、それでは方針も決まった事だし質問してみるか」
バージョンアップによってさらに立派になった据え置きのパソコンに向かい、キーボードを使って天使に質問を開始した。
【創造神】
コントラクトモードの解説を頼む。
また、使徒に選択できる人数には制限はあるか?
【天使:NoName】
お久しぶりです創造主よ。
新たに解放されたコントラクトモードですが、創造主に対し一定以上の忠誠度、好感度、友好度を持つ存在に対してにならば、人数に制限なく使徒として選択する事ができます。
また使徒となる際、種族と職業共に大きな進化を果たしますが、一度使徒になってしまうと契約を解除する事が永遠にできません。
それはつまり、使徒があなたを裏切り傷つける存在になったとしても、契約が解除できないという事に他なりません。
一時的に命令を与える事はできますが、効果時間・拘束力共にそれは絶対的な物ではないのです。
お選びになる際は慎重にお願いします。
ちなみに、現在大神殿内部で選択可能な存在は『ミゼット・ガルハート』、『紅葉』、『デウス・エクス・マキナ』となっております。
……と、いう事らしい。
つまり信頼関係にある者であれば、特にデメリットなく力を与えられるという事なのだろう。
ただし、最低限の信頼がないと選定できないというセーフィティーラインは設けてあるが、その力が悪用される事を防ぐ機能までは搭載されていないし、命令もその気になれば破れると。
理解した。
「なるほど、だいたい分かって来たな」
さて、そうなると誰をまず最初に使徒にしようか。
候補としては全てを捨ててまで俺に付き従ってくれているミゼット、そして悪意という概念に縁がない紅葉あたりだな。
それと、残念だがシーエはまだ無理だ。
危険度云々の問題もそうだが、そもそも友好度の問題で選択できないと出ているし。
デウスもまだ彼女から離れたくないようであるので、今すぐに使徒にする必要もないだろう。
そんな事を考えながら唸りつつ、結局俺はとりあえず紅葉を使徒とする事に決めた。
こいつを最初に選んだ理由はとにかく生存確率を上げる為である。
紅葉のやつは逃げるのは得意だが、戦闘力を持っていない。
故にガチンコの戦闘になったとしても自分の身を守り通すくらいの力が無いと不安で仕方が無かったのだ。
その事を皆に説明し、紅葉に意見を求めてみる。
「ふぅ~む。儂は
ああ、そうか。
こいつは元々九尾の眷属、もとい使徒みたいなものだからその繋がりがどうなるのか不明なのか。
天使ノーネームは契約可能だと言っているし、上書きしてしまう可能性もあるんだな。
ただ紅葉は特にその事を気にしている風でもなく、眷属から抜けるのは家出と同じレベルものらしい。
どんだけ認識が緩い。
とはいえ九尾には娘を頼むと言われている手前、さすがに亜神との戦いに紅葉を三尾のまま引っ張り出すのは気が引ける。
かといって紅葉は役に立つからお留守番はナシだし、必要な事として割り切って欲しいので契約は続行する事にした。
あとの問題は……。
「ちょっと! なんでモミジが最初に眷属になるの!? 私を先にケンジの使徒にしなさい! 殴るわよ!?」
と、珍しく目を真っ赤にして涙目で訴えてくるミゼットが居る事だ。
今も胸倉をつかんでぐわんぐわんと揺さぶってきている。
ま、まあ別にどっちも使徒にするつもりだったし、別にどっちが先でもいいんだけど、何か譲れないものでもあったのだろう。
特に問題はないので、そういう事ならミゼットから契約を開始する事にしようか。
「わ、わかった! ミゼットが最初だ! 一番最初の使徒にするから!」
「……分かればいいのよ」
という事で、ミゼットが使徒一号として君臨することになったのである。
最後に小声で「今までちょっと甘やかし過ぎたかしら? 今日からはもうベッドに押し倒したほうが……」とか言っているのが聞こえて来たのは聞こえない事にした。
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