戦争終結2
グンゲルの将軍を打ち取った翌日。
俺達は一旦アーバレストに帰還し、そこで王国の重鎮達との会談に呼ばれていた。
というのも、今回の戦争に決着をつけた俺達にはそれなりの褒美が必要になるため、アーバレスト王から褒賞の段取り等の説明を受けなければならないからである。
もっとも、勇者リオンの加勢によって戦争を終結させる事ができた手前、全てが俺達の武勲と言われるとそうでもない。
多分彼が加勢しなくても結果は変わらなかったと思うが、それはそれ、これはこれである。
だが、彼はこの世界で面倒なしがらみが増えるのはごめんだと言い、自分の存在が表沙汰になるのは嫌だというのでこの国に真実は公表はしていない。
彼が加入した事は今後の魔神や破壊神といった他世界の亜神に対する大きなカードにはなるので、どちらかといえばそちらの方が重要なくらいだ。
今は彼との関係を良好な物にしたいので、自分の存在を黙っていて欲しいというその願いを聞き入れた。
正直他世界の勇者の実力には目を見張る物があり、ミゼットですら一対一では手に負えないまさに一騎当千の戦力を持つ者なのである。
こちらの世界の勇者とどちらが強いかは定かではないが、味方としてついてきてくれるというのであれば否はない。
ちなみに余談であるが、グンゲルに加勢していた魔神の手先は他にも居たのだが、俺達に加勢しているのが自分達の世界の勇者だと認識したとたん顔を青ざめさせ、抵抗らしい抵抗もせずにすぐ投降した。
どうやら彼我の戦力差を一瞬にして悟ったようである。
どんだけビッグネームなんだよあっちの世界の勇者……。
まあ、手間が省けるのは良い事である。
これなら戦場に出て居なかった魔神の手先も迂闊な事はできまい。
「……ふむ。では、君達はこの国の爵位等は必要ないというのかね? こういってはなんだが、君達の働きは一騎当千というのも生ぬるく、もはや天下無双というのが相応しい働きであった。もし我が国アーバレストの貴族達の反感を買うのが嫌だというのであれば、王であるこの私自らが貴族を黙らせるが?」
と、俺が勇者との邂逅に想いを馳せている時、王がそんな事を言い出した。
もちろんこの会談は俺達の褒賞を事前に取り決めるためのものであり、謁見の間で行われる褒賞式にて王の威厳を示すためのものなのだが、それでも俺が貴族になる訳にはいかない。
創造神である俺が一つの国に肩入れする訳にもいかないという理由も勿論あるが、どちらかというと時代をスキップして未来へと旅立ってしまう俺たちが貴族をやるのは不可能だから、という一点に尽きる。
という訳で何度も辞退しているのだが、真実を言う訳にもいかないので言い訳があやふやになり、向こうも納得して退く事ができずにいるみたいだった。
そんな感じで俺がさてどうしようかと頭を捻っていると、今度は横で腕組をしていたミゼットが物凄い睨みを利かせて王に進言する。
「アーバレスト王、私達には私達の事情があるのよ。こう言ってはなんだけど、私達はこの時代にいつまでも留まれない。あなた達が本気で信じているかどうかは分からないけど、私は今この時代では御伽噺になっている本物の伝説の騎士。聖騎士ミゼット・ガルハートなのよ。……って、言っても無駄だろうけど」
真実を言う訳にはいかないとかいう俺の配慮を吹っ飛ばし、ミゼットがそうぶっちゃけるがやはり効果は薄いようだ。
それどころか、今の発言が重鎮達には王に対する不敬だと捉えられたのか、ここに居る一部の貴族からは「貴様、王に向かって何様だ!」とか「御伽噺はしょせん御伽噺、実在などする訳がないだろう!」とかいう声が聞こえてくる。
まあ、無理もない。
しかし王はさして気にした様子もなく、何かを考え込んでいるようだ。
いや、王だけではなくミゼットの力を身をもって体験した騎士団長や英雄殿、そしてユーグリンさんも同様らしい。
「そう、か……。確かに、人類の守護者であり神の使徒とされるかの聖騎士、ミゼット・ガルハートを一つの国に縛り付ける訳にはいかないか」
「王よ!? そんな戯言を信じるというのですか!?」
この流れに驚愕した一人の貴族が騒ぎ立てるが、アーバレスト王はやれやれといった風体で溜息を吐きその貴族を諫める。
「違う。信じる信じないの問題ではない。よく考えろ愚か者。彼女が本物の聖騎士ミゼット・ガルハートであろうと、そうでなかろうと、既に伝説に準じた相応の力を示しているのだ。彼女の聖剣は雨のように戦場に降り注ぎ敵将を打ち取った」
一拍置き、そして、と王は続ける。
「そして何より、我々が苦戦し手も足もでなかったこの戦争を一撃で収束させたのだ。これ程の力を持つ者をそなたはどうやって引き留められるといのだ? 暗殺でもするか? 一つの国には留まらず、再び時を渡ると言っている存在に対し、自らの国を危険に晒してまで? ……そなたは少し頭を冷やすべきだ」
「ぐ、ぐぬ……」
伝説の有無については半信半疑ではあるだろうが、俺が一つの国に留まらないと言った真意を王は理解しているのだろう。
そう、この国に留まらないと言う事は、他の国に渡って自国を脅かす戦力にもならないと言う事に他ならない。
であるならば、意に反した余計な刺激を加えるべきではないと踏んだのだろう。
実に優秀な王だ。
たぶん、どこの誰とも知らない俺が唐突に頭角を現した事も、一つの国に留まらないという理由の裏付けになっているはずだ。
もし最初から権力が目当てでどこかの国に縛られるようであれば、今まで無名だというのもおかしな話だからね。
「しかし、一つ疑問がある」
「なによ?」
「伝説の聖騎士であるはずのミゼット嬢が、何故この戦いにだけは我が国に力を貸し、そしてこの時代に現れたのかね? 私はその事だけがどうしても疑問で仕方がない」
ミゼットはその王の問いに対しチラリと俺に目線を送るが、さすがに他世界の侵略者達の事までペラペラとしゃべってこの世界に混乱を生む事はできない。
勇者との約束もあるし、首を横に振って誤魔化すように指示を行う。
「……そうねぇ。強いて言えば、近々魔界の亜神達の動きが活発になるから、かしらね。この戦争にも少なくともその影響があったわ。詳しい事は言えないけど、小国であるグンゲルがこの国に抵抗出来た理由もこれで納得できるでしょ? とはいえ、グンゲルもアーバレストも魔神の被害者だわ。これ以上の戦いは不毛だから、必要以上に恨まない事ね」
と、他世界の情報を伏せた上で、全ての責任をこの世界の魔神であるジーンに被せてそう言った。
ちょっと彼には可哀そうだなと思ったのだが、世界樹の迷宮で散々ジーンにコケにされた鬱憤が晴れたのか、ミゼットの顔は実に晴れ晴れとしていたのだった。
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