戦争終結1


 マナ枯渇の問題がどうにかなるかもしれない。

 そう勇者に大見得を切った俺は、詳しい説明はまた後程と前置き、とりあえず今はこのグンゲル対アーバレストの戦争を終わらせる事を提案した。


 確かに彼の世界の問題は大きなものであるが、今すぐに滅びを迎えるとかそういう話ではない。

 あと十年とか、百年とか、そういうスパンでの話だろう。

 であるならば、まずは今現在の問題であるこの戦争を止めるのが最優先だと判断したという訳だ。


 いまこうしている間にも被害は広がっているし、今回の戦争はアーバレストが俺やミゼットという強力な戦力を投入した事によってかなり本腰を入れて抵抗を始めている。

 いままでは大した被害なく戦争は撤退を迎えていたらしいが、今回ばかりはグンゲルに巣くう魔神の手先をどうにかしないかぎりは収集がつかないだろう。


「ああ、話はわかった。なら俺がグンゲルの将軍あたりのところにあんたらを転移させるから、まずはそいつの首を取ろう。なに、いくら魔神の手下とはいえ突然現れた俺達に対応できる程の力は無いはずだ」


 とは勇者リオンの弁。

 俺達としては願ったり叶ったりであるので、その提案に否やは無かった。


 どうやら話ぶりから勇者リオンは侵略してきた者達の事をある程度知っているらしく、魔神の手先やその他敵対勢力の大まかな事情、配置、戦力等々を把握しているようだった。

 これは情報源としても素晴らしく頼りになる奴だな。


「それじゃ時空結界で位相をズラし、敵将軍の後ろあたりに配置するからしばらくじっとしていてくれ。一定以上の強力な力を持った存在を転移させるには、相手が抵抗していない状態が最も楽だからな。抵抗されると失敗する可能性がある。────いくぜ、時空間転移!」


 そういって彼を含む全員の空間を勇者の魔力で覆うと、一瞬にして景色が切り替わる。

 目の前には敵将軍であろう壮年の男性と、それを護衛する騎士達の後ろ姿がある。


 恐らくこの壮年の男性が今回の戦争を企てた指揮者だろう。

 魔神の手下であろうその証拠に、異世界産の通信機であるシーエと同じ首輪を所持していた。


 ……さて、それではさっくりとこの世界から退場してもらう事にしよう。


「ミゼット! いくぞ! 聖剣招来!」

「ええ、任せなさい! 聖剣招来・乱舞!」


 俺とミゼットが聖騎士の能力により背後から特攻すると、まさか不意打ちをもらうとは考えもしていなかったであろう将軍に攻撃が突き刺さった。

 彼は言葉を発するまでもなくミゼットと俺の聖剣に貫かれ、オーバーキル気味に体を蜂の巣にされてしまう。


 ……ちょっとやり過ぎたかもしれない。


 周りを見ると騎士達が動き出そうとしているのが目に見えたが、どうやら勇者が空間に作用する結界のようなものを展開しているらしく、見えない壁に阻まれて近寄る事ができずにいる。

 さすが勇者、仕事が早い。


 ちなみに紅葉達はここに転移した瞬間に姿を隠し、隠形を発動させているようだ。

 もう俺の感知能力では微塵も気配が掴めない。

 こういう場では下手に姿を見せると紅葉の実力では人質に取られかねないので、行動の選択としては最善だ。


「ば、ばか、な…………」

「すまないな。こうする以外にこの戦争を収めることはできなかった。恨んでもいいが、自分達が争いを起した以上は責任を持って死んでくれ」


 俺がそう告げると、体中を蜂の巣にされた将軍は白目を剝き力尽きる。

 別に人を殺すのが初めてという訳でもないからショック等は無いが、彼らもマナ枯渇というどうしようもない現象によって切羽詰まっていたのだと思うと、やるせない気持ちにはなるな。


 全く、他世界の創造神は何をやっているんだ。

 一度会ったらぶん殴ってやりたい。


 そう思っていると、力尽きた将軍の首をミゼットが聖剣によって切り離し、声に魔力を乗せて戦場に向かって高らかに勝利宣言を開始した。

 結界に阻まれて動けない騎士達も、ミゼットの聖剣招来・乱舞と、勇者の力を真に当たりにして既に戦意を喪失しているようだ。

 戦力差的にも、もう勝負はついてしまったと、そういう諦めの表情が垣間見える。


「よし、これで一件落着か────、ん?」


 そうこうして一件落着と思ったところで、ポケットに入れていたスマホが振動している事に気付いた。


 ────ピピピ。

 ────ピピピ。


 おや?

 創造の破綻の回避というには早いと思うが、一体なんなのだろうか。


【ストーリーモード中の特定行動『戦争終結』を達成したことにより、アチーブメントを獲得しました。またアチーブメントを取得した事により、新機能『創造神の神殿:レベル3』が解放されます】


【創造神の神殿:レベル3】

異空間に存在する創造神の大神殿。

新機能として、大神殿の祭壇にて使徒選定の儀式、【コントラクトモード】を執り行う事ができるようになりました。

あなたが頼りにしている存在に、是非特別な力を与えてみてはいかがですか?

きっと今後の冒険に、大いに役立ってくれる事でしょう。

目指せ、使徒マスター!


「なんだ、このセールストークみたいなのは」


 ……とはいえ、長らくご無沙汰だった久方ぶりのアチーブメント獲得である。

 リプレイモード、クリエイションモード、タイムマシンと続き、今度はコントラクトモードか。


 神殿の表記も大神殿と改まっているし、どうやら予想以上に大きなバージョンアップを果たしたらしい。



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