小手調べ3


 数分後、俺達の小手調べを名目に始まった騎士団員との戦いは、圧倒的なミゼットの猛攻により終局を迎えようとしていた。

 最初の方は騎士団長が結構粘っていたし、この流れはやばいと思ったのか英雄カーリィさんの妨害魔法等で色々試行錯誤していたみたいだが、どれも通じないと分かるとそのまま陣形は瓦解し、そして散っていったのである。


 それでもなんとか最後まで攻撃を凌いでいたカーリィさんも、そろそろ魔力切れを起こしてきているようだった。


「手ごたえ無いわね」

「な、何者なのですかあなたは……」


 片膝をつきぜぇぜぇと息を吐くカーリィさんに対し、特に感慨もなく見下ろすミゼット。

 両者の間には計り知れない力の差が存在するようであった。


 さすがにこれは勝負あったな。

 確かに肉体的な損傷は軽微だが、あまりにも精神的に追い詰め過ぎてしまったせいで、騎士団長やカーリィさんから血の気が失せてしまっている。


 騎士団長の紹介で受験しにきた少女の一人が大暴れし、国の最高戦力を蹴散らした挙句に無表情に剣を突き付けて見下ろす構図とか……。

 これがアニメや漫画の第一話だったら、視聴者からはこいつがこの世界のラスボスだと認識されしまう事だろう。


 それくらいに徹底して強く圧倒的な威圧感であった。


「何者も何もないわ。私はヒト族の聖騎士、ミゼット・ガルハートよ。ただちょっと、あんたたちより色んな経験をしてるってだけ」


 その言葉を最後に審判役である近衛騎士がミゼットの勝利を宣言し、小手調べもとい騎士を受験しにきた──という体で始まったが誰も信じていない──俺達のデモンストレーションが終わった。


 というか、俺達の勝利ではなく、あくまでもミゼット個人の勝利なんですね審判さん。

 まあ俺は何もしてないし、意識から存在が飛んでるだけだと思うけど。


 だが、このデモンストレーションが功を奏したのか、元々俺達に肩入れしていたユーグリンさんやアーバレスト王なんかには大うけしていたようだ。

 今も観客席から立ち上がり盛大な拍手を以て幕を閉じてくれている。


 あの調子なら、今後の騎士団のメンタルケアも十分にこなしてくれるだろう。

 今も観客席で試合の総まとめを伝えつつ、今回の試合は受験という形をとったちょっとした近衛への抜き打ち試験だったとか、なんとかいっている。


 上に立つ者として当然といえば当然だが、かなり口のうまい王様だな。

 事の成り行きを知っている騎士団長とカーリィさん以外は、本気で王様の話を信じているようである。

 中には自分達のためにここまでしてくれる王に対し、さらなる忠誠を誓うような者まで出てきている始末だ。

 ユーグリンさんもそうだったが、この国の上層部は有能な者が多いね。


 そんな事を考えていると、喜色満面のミゼットが腕をぶんぶん振りながら俺の下へとダイブしてきた。

 どうやら俺に活躍する場を見せられて嬉しかったらしい。


 俺はその突進を正面から受け止める。


「おっと、おつかれミゼット」

「ふふふ、どうだったケンジ? 惚れ直した?」

「ああ、とっくの昔からな」


 今回の相手はちょっと戦闘力的につり合いがとれてないので当然の結果ではあるが、上機嫌なのは悪い事ではないので素直に頷いておく。

 昔に約束した事もあるので今更ではあるが、ミゼットの求婚に対しては既に責任を取ると伝えてしまっているので、否はない。


「だけど英雄っていってもちょっと意外ね。もうちょっと手ごわいと思っていたわ」

「あー、それね……」


 これに関してはちょっと創造神プレイヤーである俺だけにしか知られていない理由がある。


 そもそも種族進化で急上昇する能力には、エルフであれば魔力、獣人であれば身体能力と、それぞれの種族に応じた個性が伸びやすくなっているのだが、ヒト族の進化の場合は少々特殊なのだ。


 この世界のヒトという種族は他種族に比べて欠点が無い代わりに、これといって長所がない。

 故に、その能力は特に個人の才能に左右される所が大きいのである。


 だからヒト族の種族進化先である英雄も同じように成長する能力が様々で、固定先がない。

 身体能力に磨きがかかり特殊な肉体強化の力を得る英雄もいれば、ハイ・エルフのように魔力が突出して高くなる傾向の英雄もいる。


 だからヒト族の場合、種族進化といってもその特性は一概にこうだ、とは言えないのである。


 カーリィさんがどういうタイプの進化を遂げたのかは分からないが、大魔導士として活躍しているところを鑑みるとたぶん後衛よりの成長だったのだろう。

 だからこそ前衛があっという間に壊滅してからミゼットと一騎打ちするには、少々物足りない戦闘力だった、という訳なのである。


「と、言う訳だ。だからもう少し騎士団に粘られていたら、五割のミゼット一人では厳しい戦いになっていたかもしれないな」

「へー、そうなのね。ならもうちょっと遊んであげても良かったかも」


 いや、それはそれで彼らのプライドを傷つけてしまう事になるし、今も尚メンタルケアしているアーバレスト王に悪いからやめて欲しい所だ。


 とはいえ、これで大まかな実力は分かってもらえただろうし、予定していた戦争への介入もスムーズに行われる事だろう。

 王都へと赴く一週間程度の旅の中で、ユーグリンさんからは主に「きな臭いと思われる敵国との戦いのど真ん中に投入致します」と告げられている為、出番はすぐにやってくると思われる。


 まあもっとも、そうは言いつつも俺が亜神の力で全てを終わらせる訳にはいかないんだけどね。

 どう決着をつけるかはその時次第ではあるが、向こうの魔神がこうして、わざわざ回りくどい手でこの世界に混乱を齎している以上、何かしらの思惑があるはずだからだ。


 俺の見解だと恐らく、その思惑とは『創造神の炙り出し』。

 何のためにそんな事をしているのかは定かではないが、もしそうだとするなら相手の手に易々と乗っかっていくのは悪手だと言える。


 だからあくまでも俺達は『ちょっと強い現地人』レベルの働きでこの戦争に介入しなければならないのだ。

 面倒なやり方ではあるが、向こうがこちらを創造神だと分かっておらず炙り出そうとしている以上、警戒しない訳にはいかないという事である。




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