小手調べ2


 俺が持ちかけた提案に王が同意し、小手調べという形で正式に模擬戦が決まったその数十分後。

 王城の隣に併設された騎士団の訓練場にて、俺とミゼットは対戦相手である騎士団の精鋭と向き合っていた。


 迎え撃つは未だフルプレートメイルを脱がず風貌の分からない騎士団長と、その精鋭。

 そして青い長髪と新緑のマントをたなびかせて構える英雄カーリィだ。


 ちなみに紅葉とシーエは今回不参加。


 三尾になった紅葉はこの世界基準でも一般的な中級冒険者くらいの力は十分発揮できるのだが、さすがに英雄が相手では分が悪い。

 それに、あらゆる面で紅葉に戦いは無理である。

 シーエに関しては能力的にはほぼ紅葉と同格であり、同様の理由で却下となった。


 よって、こちらはたった二人で3倍はあろうかという敵部隊と正面衝突しなければならない訳だが、まあそれでもこちらの勝利が揺らぐ事はないだろう。


「やれやれ、アーバレスト王にも困ったものだ……。いくら手練れとはいえ、たった二人を相手に近衛騎士達とこの私、そしてカーリィ様にまで力を借りて叩きのめさないとならないとは……。そうまでしてこの国の威厳を保つ必要があるのだろうか……」


 そう語るのは騎士団長。

 確かに人数的にも差が出ているし、向こうはほぼ最高戦力とも言える人員を投入してきているが、その考えは早計というものである。


 アーバレスト王の思惑を正確に読み取る事はできないが、俺からの提案に加え英雄カーリィの参加すらも認めた事を鑑みるに、恐らくこの勝負が自国側の圧勝で終わるとは考えていないだろう。


 なぜなら、仮にそれ程の戦力差で決着をつけてしまった場合、協力者である俺達に対するどころか紹介してくれたユーグリンの顔を潰してしまう事になるからだ。

 愚王でない限り、わざわざそのような配慮の欠けた采配はしないだろう。


「ねぇケンジ。あっちはあんな事言ってるみたいだけど、どのくらいまで本気出していいのよ?」

「う~ん、そうだなぁ……。俺は亜神の力は封印した上で、ミゼットも最大で聖剣招来くらいまでかな。ま、だいたい実力の五割くらいで考えて」

「わかった」


 騎士団長の盛大な嘆きを聞いたミゼットが俺に耳打ちする。

 正直五割でもやり過ぎな感じがするが、模擬戦とはいえ負けず嫌いな俺の相棒が安定して勝つためには、だいたいそのくらいまで解放すればいいだろうと思っている。


 そもそもの話、種族進化を起した英雄だからといって、誰よりも『戦闘力』が高いと言う事にはならない。

 確かに種族進化によって起こる基本機能の底上げもあるが、うちのお転婆姫であるミゼットと比べてしまえば個体差がありすぎて微々たるモノになるだろう。

 であれば、いくら英雄とはいえ戦う上ではヒト族にない力を秘めているというだけの、ただの大魔導士である。


 こと暴力という面でうちの相棒を超える人間はなかなか居ないだろう。


 そんな身内会議を繰り広げている間にも向こうも準備が整ったのか、見学席にアーバレスト王やユーグリンさんを控えた上で審判役の近衛騎士が到着した。


「それは両者、準備は宜しいか?」

「問題ない」

「こちらも問題ないです」


 騎士団長と俺の同意を確認し、ようやく審判が『はじめ』と掛け声をかける。

 さて、まずはどう出ようかな……。

 と、そう思ったところでうちの頼もしい前衛であるミゼットが、近衛騎士に向かって不意打ち気味に特攻した。


「ちんたらしてんじゃないわよ! 聖剣招来! せいやぁ!」

「なっ!?」


 そして一瞬で轢き倒される近衛騎士その一。

 あまりにもあんまりな第一号脱落者である。


 向こうも陣形を整えて万全の姿勢を見せていたのだが、うちの相棒も舐められた鬱憤うっぷんが溜まっていたのか、どうやら移動速度にだけ本気を出して特攻したみたいだ。


 もちろんダメージは手加減されている為騎士鎧がへこんだ程度で済んでいるみたいだが、あまりにも唐突すぎる行動と戦闘力に度肝を抜かれたのか、近衛騎士は対応できずに一撃でノックアウトされた。


 もともとミゼットが一千年以上前の聖騎士団のエースであった、という事も関係しているのか、相手の虚を突くのがうまい。

 どうやったら騎士が対応できないのか熟知しているようだ。


 今もさらに追い打ちをかけるべく速度で相手を翻弄し、第二第三の犠牲者を出そうとしている。


 あれ?

 これってもう、俺の出る幕がないような……。


「くそっ、なんてスピードだ! 対応しきれない! それに聖剣招来だと!?」

「馬鹿ね、当たり前じゃない! あんたらは聖騎士相手に気がたるみ過ぎよ! 新米からやり直しなさい!」


 困惑する騎士団長相手に新米騎士として受験しにきたミゼットが新米騎士とのたまう。

 これいかに。

 もはやどちらが受験生なのか分からなくなってきたぞ。


「はっはっはっは! これはいいなユーグリン。最初から分かってはいたが、お前の見込んだ戦士達は相当な手練れのようだ」

「そうですな。なにせかの少女はあの伝説の騎士『ミゼット・ガルハート』を名乗っているのですから、これくらいはやっていただかないと。さすがに本物だとは思いませんが、近衛騎士数名に後れを取るようでは、おとぎ話に対し失礼です」


 しかし模擬戦でのパフォーマンスとしては十分だったのか、満足気な表情で王とユーグリンさんが会話する。

 それにしても『おとぎ話』か。

 向こうも本物のミゼット・ガルハートだとは理解していないようだが、まだこの伝説が息づいているとは思わなった。


 もう千年ちょっと経っているので色々と脚色が凄い事になっていそうだが、内容にはちょっとだけ興味があるな。


「がんばれ女子おなごよ~! おにぎりのおのこに良い所を見せるのじゃぞ~!」

「当たり前よ! 改めて私に惚れ直させてあげるわ!」


 紅葉の声援が加わり、ミゼットの勢いが加速する。

 既にもう、俺の役目はミゼットの見学だけしかない。

 とても暇だ。


「…………つ、つよい」

「大丈夫かシーエ?」

「…………」


 暇なので腕組をしながら活躍を眺めていると、シーエが小刻みに震えていた。

 そうか、確かシーエはまだ俺達の力を知らなかったんだっけ。


 一度だけ創造神の神殿でミゼットが九尾に公開処刑される所を見た所はあると思うが、あれは死ぬシーンだけだったもんな。

 そりゃあ本領発揮しているところを見れば、こうなるのも仕方ない。


 ミゼットには俺ですら一対一ではEX職業抜きじゃ勝てないからね。



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