小手調べ1


 王商ランド・ユーグリンさんとの交渉により、この大国アーバレストへの協力姿勢を見せた俺だが、ある程度話が進んだ所でこちらからも要求を通させてもらう事にした。

 その要求というのは少し変わっていて、決して俺達の存在を公にしない事である。


 なぜこの様な要求を通したかというと、それは相手側に俺達の動きを悟らせない為だ。

 敵を騙すにはまず味方からということわざの通り、内部情報がなんらかの手段で魔神(シーエ情報)の手に筒抜けになっている以上、味方である貴族や兵士なんかのどこから情報が洩れるかわかったものではない。


 故にこうしてこちらの情報に蓋をしてもらう事になった訳であるが、しかしどうしても話を通さなければならない相手というのもいる。


 それはもちろん、この国の王だ。


 まあ、当たり前といえば当たり前の事であるが、如何せん王族に紐づいた商人であるユーグリンさんが『明らかに怪しい敵幹部の首輪を所持した一行』を戦力として数える場合、国のトップである王その人に何の連絡もせず勝手に軍へ潜り込ませる、なんていう事は決してできないという訳である。


 よってユーグリンさんのコネを通してその日のうちに王都へと連行されしまい、一週間ほどの馬車生活の後、王城へと通されてしまうのは必然の流れであった。

 ちなみに今は王城の会議室らしき所で、何やら強そうな騎士と女性魔法使いをバックにした王と会談中である。


「ふむ……。確かにこの奴隷がしているのは彼らと同じ魔道具のように見えるな。どう思う、カーリィ」


 そう語るのは四十代中頃に見える茶髪の男性、この大国のトップであるアーバレスト王だ。

 そして恐らく、カーリィと呼ばれたこの女魔法使いが種族進化を起し英雄として覚醒した、軍のエースだろう。


「ええ、間違いありませんね。この私の知らない魔術文様が刻まれている魔道具など、そうそうありませんから。しかしだからといって他国からの間者、という線も薄いでしょう。この女騎士と青年は私ですら底の見えない魔力を秘めております。だというのに、あのユーグリンが無警戒で私共に紹介したところを鑑みると……」

「……で、あるか」


 英雄カーリィの言葉に唸った王は腕を組みしばらく熟考する。

 いや、それにしても世界を創造してから結構経つけど、この世界の王様とこうして直接会うのは二度目だな。


 一度目は賢者アーガスと共に訪れた帝国で縁があったのだが、よくもまあこれだけお偉いさんとの顔合わせイベントが多発するものだ。

 俺は創造の破綻を回避するために動いている節もあるが、どちらかというと本質はアプリの力で創造したこの世界を満喫したいという想いが主軸である。


 だから王様みたいな強大な権力者に目を付けられて、冒険の自由を束縛されるような事は避けて通りたいのが本音なのだが……、まあ、それはミゼットと出会った時から既に今更か。

 あの時もなんだかんだ言ってガルハート伯爵家にお世話になったし、結局これもストーリーモードの楽しみの一つなのだろう。


 そんな感想を思い浮かべてボケーっとしている間に、ようやく考えが纏まったのか王様はようやく口を開いた。


「うむ。であるならばユーグリンの申し出通り、この者達を一時的に新米騎士とし迎え入れるという事でよいな? 騎士団長もそれで問題はないか?」

「それが宜しいでしょう。配属先は後々検討しますが、王のみならずかの王商ユーグリン殿と、そして宮廷魔術師にしてアーバレストの英雄カーリィ様が御認めになったのであれば、身柄について私が口に挟む余地はありませぬ」


 そう言ったのは強そうな騎士さんこと騎士団長。

 室内であるのにも関わらずフルプレートメイルで完全武装している事から容貌が窺えないが、どうやら話に決着がついたようである。


 しかし王のみならず、騎士団長や英雄が認めるこのユーグリンのおっさん、やっぱり相当なやり手だったんだな。

 今は俺達の横で控えて大人しくしてるけど、もしかしたらそれなりに戦える戦士どころか、超一流の戦士なのかもしれない。


 商人としての目利きと戦士としての力を兼ね備えたという点では、俺が今まで出会ってきた最強の賢者アーガスを彷彿とさせる有能っぷりを感じるな。

 中身ただのおっさんが評価しても大した価値など生まれないが、それでもやはり大したものである。


 だが、そうして話が纏まろうとしていたところに待ったをかける声があった。


「ですが、一つ懸念点があります」

「ふむ。申してみよ」

「はっ。……先ほど身柄については問題ないとお答えさせて頂きましたが、その実力までは未知数。確かに魔力はカーリィ様もお認めになる程に卓越したモノがあるのかもしれませんが……」

「ほう、なるほど……」


 そう言葉を続けるのは先ほどまでノリノリで賛成していた騎士団長さん。

 まあ、言わんとしている事は分からないでもない。


 俺達の身柄はユーグリンさんが保証し、魔力は大魔導士でもある英雄カーリィが、そして配属先は王が決めた事なので覆る事はないだろう。

 しかし、実際の戦闘で活躍するために必要なのは、身柄でもなく魔力でもなく戦闘力である。


 だからこそ、こうして俺達に実力を示させようとする流れを作っているのだろう。

 そもそもこれは、自分の部隊に配属される以上当然の配慮なので俺に文句は全く無い。


 むしろ今の台詞を聞いたミゼットがピクリと反応し、「やんのかオラ」みたいな視線をぶつけ始めているのが申し訳ないくらいである。

 うちの子が大変失礼しましたとお詫びを入れたい。

 よし、ミゼットが爆発する前に、ここは敢えてこちらから話にのってやろうじゃないか。


「発言失礼します。ええ、そういう事であれば小手調べというのはどうでしょうか騎士団長様。騎士団長であるあなたとその他精鋭、その部隊と私共が模擬戦を行うのです。そうすれば、ちょうど騎士団員への自己紹介代わりにも使えるでしょう」


 あまり目立つ力を使おうとは思わないが、騎士団長のコネで入団試験っぽいのを受けに来た期待の新米という形であれば、情報が漏洩しても大した脅威にはならない。

 むしろ俺が最も他世界の亜神に隠さなければならないのは創造神プレイヤーであるという事と、EX職業の力だ。


 それさえ気を付けていれば、ちょっと強い新米騎士の情報漏洩等どうという事もあるまい。

 公になってはいけないのは、こういった『強さ』と俺達の『来歴』である。


「小手調べですかな? しかしあなた方がいくらユーグリン殿のお認めになった者達であっても、さすがに我が精鋭部隊と正面衝突では勝負になりませんよ……」

「あら、面白そうですね。それは良い案です。そういう事であれば私も参戦させていただくとしましょう。あなた方の力は私も気になっていたのです」

「なっ!? カ、カーリィ殿!」


 よほど自分達の力に自信があったのか口ごもる騎士団長だったが、むしろ戦力の増加という意味で英雄まで小手調べに参戦してきた。

 あまり強力な力を使う訳にはいかないので、さすがに英雄相手に無双する事は出来ないと思うがこれはこれでアリだな。


 せっかくだし、彼女には今にも暴れそうなミゼットの腕試しに付き合ってもらうとしよう。

 未だ英雄には一歩届かないミゼットと、種族進化を果たした英雄の力。

 何かミゼットがブレイクスルーをする為の切っ掛けになればいいなと思う。


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