新たな旅の目的
創造神の神殿にてお互いの自己紹介を終えた翌日の事。
朝起きると、なぜかシーエがすまし顔で俺の個室の前をうろついていた。
こう、ドアを開けると廊下の前で顎に指をあてた犬耳幼女──女である事は寝る前の自己申告により発覚した──がうろうろしている感じである。
一体何が目的なのだろうか。
「どうした? 何か用かシーエ?」
「……む?」
俺が声をかけるとそれに気付いたシーエがそろりと近づき……。
つんつん、つんつん、と脇腹をつついて謎のチェックを開始する。
おいやめろ、くすぐったい。
というか何だそのチェックは、何の意味があるんだ。
「な、なんだ?」
「健康状態は優良。現在のところ目立った肥満は無し。しかしもう十五年もすれば肉体は衰え、お腹が出てくる可能性もあり。……気を付けるといい」
「お、おう」
一体何の忠告だよ。
しかし確かに今のアバター年齢である十五歳にもう十五年足されると、現実の俺の肉体である三十二歳に近づく。
現実では俺もおっさんで、ここ数年で少し腹が出てきている事を気にかけても居た。
これは案外正確なアドバイスとも言え……、ってそうじゃない。
「忠告はありがたいが、俺に何か用があったんじゃなかったのか?」
「む? そうだった。仲間の実験体への健康チェックはいつもワタシが担当していたため、ついクセで」
シーエは至極真っ当な感じで「こうなるのも致し方なし」みたいな顔をしていたが、俺は実験体じゃないからな?
なぜかこの犬耳にすごく打ち解けられている気がするが、まあ警戒されるよりはマシであるためとやかく言う気は無い。
肥満の話は余計だけどな!
「それと用件に関して。まだ朝も早く周りも寝静まっている頃合いのため、タイミング的に今しかないと思っていたところだった。……ちょっと話があるから、ワタシの部屋まで同行して欲しい」
「なるほど相談があったのか。わかった」
シーエが俺に相談があると言えば、十中八九は向こうの世界にある組織とやらの任務に関する事だろう。
それに関してはこちらも望むところだ。
そうしてそそくさとシーエの個室に移動していると、今のバカ騒ぎで目が覚めたのか、シーエにKOされて以降ぐったりと伸びていた紅葉が目を覚ました気配がした。
こう、あいつが起きるとすぐに分かるんだよな。
なにせ起きたらすぐに部屋から「のじゃのじゃ」とか聞こえてくるから。
気配察知の優秀さ故か、物音にも敏感なのでこうして俺が目を覚ますと向こうも目を覚ます事が多い。
これはどういう事かというと、俺が起きるイコール、朝の食事の時間という方程式が成立しているからだ。
つまり食い意地が張っているだけである。
その点ミゼットは自分の体調が完全回復するまではめったな事じゃ起きないし、強制的に起こそうとすると寝ぼけたままミゼットパンチを繰り出す事も多い。
故に、今も寝静まったままだろう。
デウスは論外だ。
あいつは寝るとかそういう事をしないからな。
何を考えているのか分からないが、昨日は夜遅くまでミゼットの部屋にて自分のマスター探しのアイデアを募集していたらしい。
あいつは亜神の中でも少々特殊な方向性で進化した存在であるため、俺との契約が承認されないのであれば、代案として自らに相応しいマスターが見つかる旅に出るとかそういう事を言っていた。
おそらくその事についてミゼットと議論を交わしていたのだろう。
これは俺にも一抹の責任がある為心苦しいのだが、個人的にはデウスはもっと広い世界を見て回った方がいいと思っているため、口出ししていない。
前のチャプターでは父親視点での存在意義を認める事で暴走を食い止めはしたが、いつまでも俺にくっついているのは自由を束縛しているようで成長の流れ的にも良くないだろう。
あいつの力は亜神として目を見張るものがあるが、それでもまだ世界を知らない子供である。
一旦親離れをして、俺という存在以外にも新しい価値を見出していくべきだと思うのだ。
故にデウスとの契約は俺以外の者と結んで欲しいと思う所存である。
……と、話が逸れたな。
こうして考えているうちに既にシーエの話は終わり、個室での会議は終了しようとしていた。
下の階で「のじゃのじゃ」とか「おにぎりはもう食べてもいいのでは?」とか言っているニート妖怪が怪しげな動きを見せている為、そろそろ話を纏めないといけないな。
「ふむふむ、なるほど。つまりシーエの組織は創造神を最終目標としながらも、現時点では掴まりやすい亜神の一柱を探していて、向こうの世界からやってきた脅威に対抗するよう注意を促そうとしている訳だな?」
話を聞いた感じは、だいたいこんな感じの内容だった。
なぜ創造神が最終目標なのかとか、脅威がこの世界に向かってきている理由とかは聞き出せなかったが、それ以外は有用な情報が多い。
特に脅威となる存在が向こうの世界の亜神数柱がメインとなっているとすれば、これはもう世界を跨いだ大戦争だ。
あまりにもスケールがデカ過ぎる。
幸い俺にはアプリを通じて龍神や世界樹に神託を授ける手段があるので困らないが、あと一歩相談を受けるのが遅かったら色々ヤバかったかもしれん。
これはファインプレーだぞシーエ。
ちなみに本人はまだ他に話したい事があるのか、顎をさすりながらうんうん唸っているのだが、この幼女にも組織の組員としての権限以上の事は話せないのだろうし、無理はしなくていい。
この情報だけでも行動方針を決めるには十分すぎる程だ。
「そう。実はこの世界には大きな脅威が迫っている。故に、ワタシはあなたに亜神探しをして欲しい」
「分かった。そうしよう」
これにて話し合いは一旦お開きとなり、解散となった。
実に有益な情報を得られたな。
……しかし向こうの世界の亜神が既に戦争を仕掛けてきているとは、これはまた驚きだ。
これは新しい旅の目的が出来たな。
そう思いつつも俺はスマホを取り出し、最強の亜神である『龍神』に神託を施すのであった。
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