対九尾戦線1
EX職業の概要を端的に言うならば、それは亜神の力だ。
ズラリと並ぶ『聖神』『獣神』『智神』『戦神』といった、全て神の名を冠する上位職業を超え得るだろう力。
そして同時に、まだ俺の世界には存在していない亜神の項目。
その全てがこのEX職業という始まりの創造神から与えられた力の本質だった。
ただしこれはまだ世界に存在していない状態でないと表示されないらしく、既にアプリ世界に存在している亜神最強の『龍神』やそれに匹敵する『魔神』は選べないようになっている。
恐らく、人間の上位職と条件は同じで、世界に一柱しか顕現する事はできないのだろう。
本当なら龍神か魔神あたりが戦力としても一番頼りになるのだが、選べないものは選べないのだから駄々をこねても仕方がない。
素直に諦めるとしよう。
しかし、これはそういった縛りを考慮してもあまりあるボーナスだった。
流し見た感じだとどのEX職業も甲乙つけ難く、一長一短はあるとはいえ亜神の名に相応しい性能ぶりのようだ。
例えば聖神の初期スキルである
元々、ホーリーサンクチュアリは聖女とその周囲の人間に強固な結界と持続回復のバフを掛ける、という生存に特化した防御スキルなのだが、これを初期スキルで超えてくるとは中々どうして、バランスが壊れている。
度々勇者や世界を救ってきた歴史的なスキルであるため、アプリの【ログ】にもホーリーサンクチュアリを使用した聖女の偉業は幾度となく報告されているし、俺がアバターを利用して降り立つ前の世界では一つの伝説となっていたくらいなんだけどなぁ……。
まあ、それはさておき今大事なのは俺の残り一つとなった枠をどうするかだ。
こういう時こそじっくりと考えて居たいのだが、あいにく時間がないため熟考する事ができない。
「……実際にその力を目にした事がある訳でもない、考えていても仕方ないか」
たぶんハズレ職業は存在しないと思うし、単純に戦闘力の高そうなので選んでも問題はないだろう。
そう判断してから覚悟を決め、特に深くは考えず『戦神』をタップした。
しかしタップし残り一つの枠を埋めた戦神の表示がおかしい。
いや、おかしくはないのだが、なぜかもう一度タップできる仕様になっていた。
しかも必ず無くてはならない『レベル』の表示がない。
……んんん?
もう一度タップしてみる。
「あ、取り外せた……」
って、そんなバカな。
一度決定した職業が取り外せるってなんだよ、軽すぎるだろ。
好き勝手にとっ替えひっ替えできるとか、EX職業はアルバイトかなにかなのか……。
先ほどまでの俺の悩みはなんだったのかと問いたくなる。
だが、これでレベル表示がない理由が分かった。
こうして完全に定着させず何度でもEX職業を入れ替えられるから、熟練する事ができないという仕様なのだろう。
始まりの創造神は詫びだと言っていたが、世界のバランスを壊さないようによく考えられてるなこの仕様……。
「まあ、いっか。とりあえず戦神のままにしておこう。初期状態でもありえないくらい体力パラメーターにバフが掛かってるし」
初期状態で現レベルの聖騎士より体力補正があるとかバグかよと言いたいくらいだが、強いならそれでオッケー。
何の問題もない。
ただ、こうなるとアプリのボーナスをEX職業に適用するのは無理ってことになる。
まあ、そちらは適当に聖騎士や悪魔あたりに経験値を割り振っておくとしよう。
スマホ画面をポチポチと操作し、報酬その二を適用させる。
うむ、やはりたかが基本職レベル50くらいの経験値量では、たいして複合職のレベルは上がらなかった。
「さてと、それでは最後に仲間を呼び戻そうか。どれだけ強くなろうとも、土地神として長い歴史を持つ九尾に一人で対抗するのは確実に無理だしな」
次元収納から紅葉、黒子お嬢さん、ミゼット、デウスが召喚されていく。
なんだか紅葉の顔をしっかりと見るのは久しぶりだな。
収納する時は急いでいたからよく見ていなかったし。
あっ、こいつほっぺたにご飯粒ついてやがる……。
さては俺達が頑張っている時も神殿で食っちゃ寝てを繰り返し、ニート生活を謳歌してやがったな……。
「うむ! 久しぶりの現世じゃな! ビンビンに
「うむ、じゃねぇし。お前ずっとぐーたらしてただろ、太っていてもしらんからな」
厳しい修行とか絶対やってなかっただろ、嘘つくんじゃねぇ。
その顔についてるご飯粒の存在で私生活がバレバレだかんな。
まあ、いい。
紅葉は最初からパワーで押し切るタイプではないので、連れて行くにしても純粋な戦力にするつもりもない。
今回の九尾攻略のきっかけの一つに、なんらかの形でなればいいな、という程度である。
しかしそんな呑気な紅葉とは打って変わって、黒子お嬢さんの表情は優れない。
……やはりここまで九尾の影響が濃いと、最悪の事態を想定してしまうのだろう。
俺ですらこれが異常事態だって分かるレベルだしな、無理もない。
よって、ここは曲りなりにも大人である俺が励ましてやらなくちゃならない場面だ。
「……斎藤様」
「大丈夫大丈夫、心配しなくても源三の爺さんは生きてるよ。一癖も二癖もあるあの爺さんが、たった二週間も凌ぎきれないなどと、そんな馬鹿な話は無い」
もし二週間も防ぎきれないのであれば、期限は一ヶ月だ、などと言わなかったはずだ。
自分の実力を過信するような阿呆でもないし、あの爺さんがその間くらいならば大丈夫だ、というなら本当に大丈夫なのだろう。
俺のそんなあっけらかんとした態度に感化されたのか、黒子お嬢さんの顔色も幾分かマシになってきた。
よし、それでいい。
ちなみにミゼットはいつもの超直感によって状況を理解しているものの、相変わらず強気な態度を崩していない。
たぶんこのくらいの修羅場は何度も潜り抜けているのだろう。
異世界はこっちよりも国の存亡を掛けた闘いとか、普通にある世界だしなぁ。
場慣れ、というやつだろうか。
で、最後はデウスだが……。
「マスター、その力は……」
「お、やっぱり亜神ともなると、同格の存在の力は分かるか?」
終焉の亜神も世界に存在する神の一柱。
俺がこうして新たな力を手に入れた事にもすぐに気づいたらしい。
さすがだな。
だが、今はまだ詳しい状況説明を行っている場合ではない。
とりあえず強くなったとだけ認識してもらい、着いてきてもらうしかないだろう。
「さて、準備をしている時間も惜しい。詳しい説明もなくさっそくで悪いが、打って出るぞ」
そう宣言し、俺は彼女らを引き連れてアパートの部屋を出た。
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