終焉の亜神2
終焉の亜神の気配がする最奥の間まで辿り着いた。
当初は厳重に支配した世界樹の根が入口を覆っていたが、ジーンが何かを操作するとあら不思議、終焉の亜神に支配されていた根が自ら動きだし、こちらの思惑に沿って道を開けたのである。
「なるほど、マナの不正利用か」
「ご明察だよ。まあ、人々には瘴気って言われている力だけどね」
恐らくだが、世界樹を浸食する終焉の亜神の力は俺と同質かそれより劣るくらいの生命干渉の力。
ということは、それは同時にマナの利用を意味する。
なぜなら
であるならば、同時にマナを外側からハッキングし、不正利用できる魔族がその道を極めれば、終焉の亜神が閉ざしたこの世界樹の根を逆にこじ開ける事も可能なのだろう。
もちろんただの魔族では不可能だし、この色々とぶっ飛んでいる性能の魔族であるジーンならではの解決方法であった。
あくまでもマナに不正に干渉するだけなので、自ら奇跡を起こす事はできない。
しかし、現存する奇跡を捻じ曲げて自らの利益にする事は可能だと言う事か。
使い方によっては、素晴らしい能力である。
「だけどおかしいわ、この先の空間には勇者達が先行していたんでしょう? でも、人っ子一人見当たらないわ」
そうなのである。
この迷宮にある最奥の空間と思わしき広間には、ぎっしりと部屋全体に根が張り巡らされている以外、何も存在していなかったのだ。
終焉の亜神という存在がどこまで世界樹と同化しているか分からない以上、どういう見た目をしているのか分からないので人影が見えなくても仕方ない。
だが勇者は少なくとも人間だ。
その勇者の姿が見えないと言うのは、いささか疑問である。
「いや、彼らはたぶん転移でエルフの里に帰還したんだと思うよ。世界を駆け巡る転移能力は、勇者の十八番とも言えるスキルだからね。やっぱり人間は不便だよね、食事も休憩も必要なんだから」
「ああ、なるほど。それもそうね」
え、そうだったっけ?
あ、いや、そうだったかもしれないような、気もしなくもないような。
いかん、自分自身が勇者の職に就ける訳ではなかったので、アプリの解説を疎かにしていた。
そういえば勇者の代表的なスキルには、テレポート能力があったような気がしてきたぞ。
ミゼットがしきりに納得しているのも、この世界では勇者といえば転移、という代表的な能力を理解しているからだろう。
よかった、自分から疑問を呈さなくて。
俺が上級職についてあまり興味がなく、ニワカであることがバレるところだった。
いや、違うんだよ。
ちゃんと複合職とか、基本職とかのスキルは頭の中に入っているんだ。
ただやっぱり上級職ともなるとね、そうそう自分に機会がないものだからてっきり。
そんな意味の無い自問自答を繰り返しながら、先ほどまで激戦が繰り広げられていたであろう最奥の間へと足を踏み入れた。
部屋といっても、その規模はかなりデカい。
学校の体育館3つ分は優に納められるであろう、そんな規模だ。
「なんだか神聖な感じがしますね……」
「それはそうさ。なんたってここは、仮にも創造神の奇跡と同等の力で作り出された世界樹の祠、ともいうべき場所だからね」
「え? そうぞうしん? あの……?」
何の事か分かってない黒子お嬢さんに対し、ジーンはなんてことのないように手をヒラヒラと振る。
最初から理解されない事を承知で、とりあえず説明したってところだろうか。
まあ、一から説明している場面じゃないしな。
そうして辺りを警戒しつつも全員が入室すると、天井付近から声がかけられる。
よく見るとそこには人型のロボットのような、無機質な肉体を持つ人形が宙に浮いていた。
形のフォルムは一応女性だろうか。
質感が無機質でさえなければ、かなりの美人だ。
ジーンは最初から気づいていたのか特に驚いた様子は無かったが、正直俺は超びっくりしたぞ。
「おはようございます、ニンゲンの皆様方。ようこそ私の遊戯室へ」
「うぉっ!?」
「なっ!? 出たわね!!」
俺と同様に驚いたミゼットが即座に抜刀し、構えを取る。
黒子お嬢さんは突然現れた謎のロボに困惑し、今までと違う無機質な相手に戸惑いを隠せないようであった。
なにせ今までは木の質感をしたドラゴンやモンスターばかりが相手で、意外とコミカルな見た目をしていたからな。
急にSFチックな奴が出て来たら、ゲームデザイナーの感性を疑うだろう。
この驚き方はそういう驚き方だ。
「はい、出ました。それで、あなた達はどなたでしょうか? ……先ほどの、ユウシャとかいうニンゲンの方々は私を見るなり襲い掛かってこられましたが、あなた方もそういった目的で?」
終焉の亜神は悠々と空中に浮かび、そう問いただしてくる。
実際俺達は戦闘を望んでいる訳ではないし、相手もそういう意図を嫌っているように見えるが、……そう見えるだけで、こいつの狙いは最初から戦闘だろう。
その証拠に、こうやって質問をしながらも再び入口を根で塞ぎ、片手をチェーンソーのように変形させグルングルン火花を散らしている。
「というか、チェーンソーってお前……。世界観違うだろうそれは」
「チェーンソー? これはそういう名称の武器なのでしょうか? 剣よりも攻撃力がありそうなので、私自ら生み出した装備なのですが。ふむ、ニンゲンの方の知恵も、侮りがたい部分があります」
どうやらあのチェーンソーのアイディアはこいつが自ら生み出した、もとい何も無い状態のところから攻撃しやすい形に転用した剣の姿らしい。
なんというか、純粋な殺意から来る発想って色々怖いね。
そんな取り留めも無い事を想像していると、今度は向こうから動き出す。
「まあ、なんでも宜しいです。私はデウス・エクス・マキナ。なぜかこの世界に生まれ落ちた、良く分からない生き物です。なんで生きているのか、もしくは死んでいないのか、その辺の事があまりよく分かりませんので……とりあえず世界を食べてみる事にした次第です。それではごきげんよう」
ごきげんよう、とか言いつつ、今度はもう片方の腕をレーザーガンのような形に変形させ、ノーモーションで攻撃を開始する。
問答無用かよ。
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