終焉の亜神1
迷宮攻略に対し本腰を入れてからさらに数日程が経った。
そろそろ迷宮の最深部だと思っていた俺の思惑は大正解だったようで、今は最下層だと思わしき巨大な広間で迷宮の核となる終焉の亜神の気配を感じていた。
広間には世界樹のものであろう巨大な根の先と、それを浸食しつづける奇妙なマナの動きが感じられる。
マナの流れは世界樹の持つ豊富な力を核である終焉の亜神に送り届けているようで、光の粒子となって徐々に最奥へと流れて行っているようだ。
たぶん勇者達がいつまでたってもこの亜神を倒せないのもこれが影響しているのだろう。
なにせ相手は世界樹から無制限に栄養を補給し続けるのだ、攻撃しても回復してしまいキリがない。
それは謎の超魔族であるジーンも感じているようで、彼にしては珍しくこの戦法を取る相手に対し敬意を表しているようだった。
「へぇ、生まれたばかりの
まさにその通りだ。
そしてそれは、俺達にも同じ事が当てはまる。
故に終焉の亜神を力でねじ伏せるのは有効的な手段とはいえず、さらに状況を悪化させるだけだと俺は悟った。
よって、最も有効な手段はあの亜神の攻撃的な姿勢を解除させるように誘導させる事なのだ。
あの亜神が訳も分からず力を振るっている以上、討伐したくなる気持ちは分かるけどね。
その事を意識つつ仲間に自分の作戦を伝える。
「俺達の現在の目的はこの迷宮の核である
「どういう事かしら? この迷宮主を倒さなきゃ問題は解決しないわよ?」
結論から先に述べたが、やはり肝心の理由を聞かないと納得できないらしい。
これは当然の判断であるし、俺からの説明が足りない以上、誰かが必ず疑問に抱かなきゃいけない部分だ。
ミゼットは俺の事を全面的に信頼はしている、本心では何も不安には思っていないだろう。
しかし、だからといって作戦に対する意思疎通を怠るのは戦士の対応として失格だ。
こいう面を見ると、やはり彼女は聖騎士として一流の高みにいるのだと実感できる。
「チッチッチ、少しは頭を使いたまえよ聖騎士殿」
すぐに理由を話そうと口を開けると、ジーンが手で待ったをかけ自分に任せろと言わんばかりに語り出した。
こいつは性格がひねくれているが、無駄な事はしないタイプでもある。
何か理由があるのだろう。
ミゼットもジーンと喧嘩をしているなかでだんだんとその事が分かって来たのか、すぐに怒りはみせず淡々と聞き返す。
「何か言いたげね。良いわ、あんたの話を聞いてあげようじゃない」
「それはどうも。何、簡単な問題さ。君は信頼する彼の作戦を知りたいのだろう? だったら考えてみると良い。現時点で勇者には及ばない戦力であるこのメンバーで、彼は勇者ですら討伐しえない迷宮主の問題を解決すると言ったんだ。それはつまり────」
そこまで語ると、ミゼットにも合点が行ったようである。
「────ああ、なるほどそういう事ね。だから攻略は目的であっても、討伐が目的じゃないって事」
「そういう事さ。さらに付け加えて言うなら、相手は亜神であり僕のような魔族ではない。つまり、世界の敵ではないのさ」
ふむふむと頷き納得するミゼット。
そうか、ジーンは最後に自分が世界の敵である事を再認識させる為にワザと自分から説明に乗り出したのか。
……俺が魔族じゃないから討伐しないです、なんてジーンの前で言う訳にはいかないからな。
こいつなりに気を使ってくれたのだろう。
だが、それはお門違いでもある。
この際だから、ちょっと言わせてもらおうか。
「別に魔族だのなんだのと騒ぐつもりはないぞ。そもそも世界の敵だとか言っているのは世間の勝手な言い分だ、俺がそう言っている訳ではない。これだけは覚えておけよ」
「────────ッ!!」
そう釘をさすとジーンは目を見開き固まった。
一体何を驚いているんだ、そもそも敵だと思っていたらここまで仲良くしていないだろうに。
マナの不正利用で怒っているのはアプリであって俺ではない、ここ重要。
「は、はは、そうかい。それが──の考えなんだね」
「まあ、そういう事だ」
最後の方で独り言をぼそぼそと呟いていたので聞き取れなかったが、納得してくれたようなので良しとする。
「あの、ですが討伐しないでどうやってボスを攻略するのですか?」
ああ、黒子お嬢さんはこの話に置いてけぼりだったな。
すまんすまん。
つい異世界人設定で話を通してしまった。
「まあ、ようするに特殊イベントみたいなものだな。ゲームでもよくあるだろ? 戦闘して時間経過するとなんかイベントが始まって次に進むやつ」
「あ! 聞いた事あります! 我が家でゲームをしている鬼道さんからも聞いた事があります!」
おいおい鬼道君、格式高い陰陽師の本流でゲームに明け暮れているのか、修行は大丈夫なのか?
いや、別にいいんだけどね。
だって彼も高校生だ、そりゃあ息抜きも必要だ。
そもそも30代にもなってゲーマーである俺が文句を言う筋合いはどこにも無かった。
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