迷宮攻略3
月日は流れ、凡そ黒子お嬢さんを迷宮に連れて来てから2週間後。
源三の爺さんから彼女を預かって既に異世界時間で2~3ヶ月は過ぎただろうか。
命を懸けた実戦、それも強敵との連戦という事もあり、彼女のレベルは見違える程に高まっていった。
その実力の程はなんと、異世界人レベル45。
これは俺が幼き日のミゼットと別れる原因となった魔族戦、聖騎士になりたての俺が所有していたレベルに迫る数値である。
あの頃の俺は三つの職業を合わせた総合レベルが60程であったが、たった2ヶ月でここまでの成長を遂げた彼女の努力には計り知れないものがある。
それが例え、経験値獲得系のスキルを所持していたとしてもだ。
既に日本最高の陰陽師と名高い、戸神源三の爺さんを遥かに上回る実力といっても良い。
もっとも、レベルは上がれば上がるほどにその勢いが低下していくため、ここからはそうそう容易く強くなる事はない。
なぜならばレベルは自分よりも強い相手との死闘により劇的に上昇する傾向にあるため、既に迷宮周辺の魔物達と互角に渡り合える程になってしまった彼女には、この狩場は真の意味で適性となってしまったからだ。
ある意味自分にとって不適正な狩場で、俺達のサポートを受けつつパワーレベリングするのが効率的なのに対し、実力に見合った適性の狩場では経験値獲得の勢いに難が出てくるだろう、という意味である。
まあそれでも成果は上々だ。
この分なら修行を一旦切り上げ、今からでも迷宮を攻略し日本に戻ってもいい頃合いだろう。
「封魔の陰陽道一の型、式神結界!」
「ガァアアア!!」
「口寄せの術!」
世界樹の根を吸収したせいか、洞窟内に蔓延るドラゴンの形を模した植物達にトドメの一撃を与えた。
彼女の元々持っていた陰陽術には感知妨害系・移動妨害系・攻撃妨害系といった、サポートに纏わるありとあらゆる技術が存在している為、たった一人であっても同格の敵ならば複数相手取れるポテンシャルを秘めている。
自分が相手をする敵以外を結界で封じ、一対一の状況を作り出してから口寄せの術というスキルで圧倒する。
これがこの異世界に来てから戸神黒子という陰陽師が編み出した必勝パターンである。
弱点は全ての行動が魔力依存な事であったり、その魔力を供給する術が無い事、そして一撃必殺となる切り札が無い事であろうか。
ようするにガス欠になったとたん敗北してしまうという意味である。
俺のように他者から魔力を吸収する『魔力強奪』を持っていたり、ミゼットのように魔力がなくても肉弾戦がそもそも強かったり、ジーンのように魔力が底なしだったりしない限り、この弱点は今後もついて回ることだろう。
「よし、そこまでだ黒子お嬢さん。もうここまで来れば修行は頃合いだろうから、そろそろこの迷宮を攻略するよ」
「はい、斎藤様! ……ところで迷宮の攻略とは?」
ああ、そうだった。
まだここが仮想世界であると認識している彼女には、迷宮の主である終焉の亜神の事を伝えずにいたんだったな。
とはいえ、どう説明したものか……。
「なんだいなんだい、やっぱり君は僕らの事情を知らないまま世界を渡って来たんだね? 道理で見た事の無い変な職業をしていると思ったよ。全く、僕にだけ黙ってこういう事をするんだから、父も人が悪いなぁ……」
……ん?
今こいつ、黒子お嬢さんが世界を渡った事を認識していなかったか?
まさか既に異世界人である事を看破しているとでも言うのだろうか。
だとしたらこいつはとんでもない天才だ。
人間にしか与えられていない職業という補正、そのうち一つの補正スキルである鑑定を所持しているという事になるんだからな。
魔族は元々、マナという創造の奇跡を不正な形で利用できる手前、その術を無制限に極めれば理論上確かに職業補正の横取りは可能だ。
元々鑑定スキルを覚えるのは基本職である錬金術師だし、上位職や複合職に比べて扱いやすくはあるだろう。
だが、だからといってそれをそうも簡単に再現できるものだろうか。
以前からパネルを操作して魔物の特徴や弱点をピンポイントで看破していたが、もしかしたら全て鑑定スキルを駆使しての作業だったのかもしれない。
……はっきり言ってとんでもないなこの魔族。
それに父って誰だよ、ジーンの父ちゃんはもっと凄いのか?
勘弁してくれ、こんな魔王すら軽く超えてしまう超生命体に、さらに強い父ちゃんが居たとか寒気がするわ。
まさかその父ちゃん、魔神とかじゃないだろうな。
ありえそうで怖いわ。
するとそこで、俺が寒気を覚えている間に痺れを切らしたのか、横から声が掛かった。
「全く、まだクロコに何の説明もしてなかったのケンジ?」
「まあ、言うタイミングも無くてなぁ」
「はい? なんの事ですか斎藤様?」
面目ない。
タイミングも無かったし、言う気も無かった。
とはいえ何の説明もなくボス戦は気が引ける。
「仕方ないわね、なら私が説明しておいてあげるわ」
「はいはーい、君より僕が説明した方が手っ取り早いよ!」
「ちょっと!?」
「今回は早い物勝ちさぁ~。悔しかったら頭を使って僕を出し抜くんだね~」
しかしミゼットが説明しようとしたところでジーンが割って入り、勝手に説明を始める。
ホントに仲が悪いね君ら。
いやむしろ、これは仲が良いのか?
なんかこうしてみると、ジーンがワザとミゼットにちょっかいをかけて成長を促しているように見えなくもない。
本人にとってはいい迷惑だろうけど、ジーン程に頭がキレる、言い方を変えれば歪んだ性格のやつが本気で嫌がらせをするなら、もっとエグい手はいくらでもあるはずだ。
なのにあえて真正面から競争をけしかけている事を鑑みると、これは一種のお手本なのではなかろうか。
彼なりにミゼットを観察し、真っすぐなだけでは足りないという事を教えているのかもしれない。
いつも言ってたもんなこいつ、武力だけの人間など腐る程いるとか、頭を使えとかなんとか。
俺は正直な所ミゼットはそのままでも良いと思うのだが、ジーンのどこかに納得のいかない部分があったりしたのだろう。
「……と、言う訳でね。この迷宮の核となる最強の敵が待ち受けているのさ!」
「あ~! 分かりましたよジーンさん。これは所謂、ゲームのラスボスというやつですね!」
「その通りだよ! 先生は物分かりが良い子は嫌いではありません!」
と、そんな事を考えているといつのまにかジーンが適当に解説し、ここが仮想空間であると認識している黒子お嬢さんにとって都合がいいように、ゲームという形で説明を終えてしまった。
中々上手い手だ。
「くっ、悔しいぃ~!!」
「まあ、あいつはこういうのが得意な奴だから、そう気を落とすなミゼット」
「むぅ~!!」
片やミゼットは自分よりも上手に説明してしまったジーンに敗北し、頬を膨らませ地団駄を踏む。
土台ああいうタイプの奴と張り合うのは無理があるので、気にするだけ無駄だろう。
色々と手を尽くしてくれているジーンには申し訳ないが、俺にとってはミゼットはこのままで良い。
元気で真っすぐというのも、捨てがたい大切な個性だからな。
……さて、それではそろそろ全員の認識が一致したところで、いよいよ迷宮の攻略に乗り出すとしますか。
2週間の修行中にだいぶ攻略は進んだので、予想ではそろそろ核となる終焉の亜神が潜む層まで辿り着くと思うんだよね。
当然勇者の方が先には進んでいるが、未だ迷宮が崩壊していない所を鑑みて、恐らく終焉の亜神本体に苦戦していると思われる。
世界樹を取り込み切ってもいない終焉の亜神に対し、勇者レベルの存在が敗北し吸収される事は万に一つも無いが、それでも倒すには至っていないのだろう。
よって、勇者と手を組んで攻略に励んでいるララ達には悪いが、先にこの問題を解決させてもらおうじゃないか。
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