エルフの里3


 再会したベラル・サーティラにこの里の族長であるララ・サーティラの下へ案内してもらった。


 道中は自然と共存している里とは思えない程に文明的で、どれだけ卓越した魔法使いが多いのかを窺い知る事ができる。

 エスカレーターやエレベーターは当たり前で、照明もランプではなく魔道具による蛍光灯のようなもので室内が照らされているのだ。


 外見とは裏腹に、中身はかなり近代的である。


「すごいねこれは」

「そうね。ケンジが門兵と交渉している時に見て回ったけど、この里はガルハート領より数百年は魔法文明が発展してるわ」


 こと魔法文明として見るなら、エルフは職業という概念がない原初の時代から研鑽を積んできているからな。

 そりゃあ格が違うだろう。


「ついた。ここがお母さまのいる部屋よ。さっきまでは勇者と会談してたみたいだけど、今は時間を作ってくれたみたいね」


 そう言ってベラルはなんらかの通信魔法を駆使して、自らの母と連絡を取り合う。

 耳に手を当てて精霊と交信している事から、エルフには魂魄使いのスキル『魔力知覚』と似たような種族としての能力があるらしい。


 確かこの事はアーガスも魔王戦の時に言ってたな。


 そして木製ながらも門兵が守護する巨大な観音開きの扉を潜ると、中では外の雄大な景色が見られる巨大な吹き抜けの部屋が広がっていた。

 かなり大きな巨木の最上階にあたる場所なので、地上が物凄く遠く見える。


「ようこそおいで下さいました旅の────、いえ、神に選ばれし戦士よ。私は族長であるララ・サーティラ。このエルフの里はあなた方を歓迎致します」

「え? 神に選ばれた……? あなた達そんな御大層なヒト族だったの!? びっくりだわ……」


 母であるララの言葉にベラルは驚くが、むしろ驚いたのはこちらの方だ。

 言っちゃ悪いがめちゃくちゃ田舎であるこの里で、よく俺達の情報を仕入れる事ができたな。


 まさかミゼットが伝説の聖騎士である事を知っていたとは驚きだ。


「ふふふ、違いますよ。……私はあなたが今考えているような情報通などではありません。ただ見えるだけなのです。……あなたの纏う、膨大なマナの力が」

「……ッ!!」


 ……なに?

 魔力ではなく、マナだと?


 つまりそれは、創造神として持つ力の一旦を理解しているという事なのだろうか。

 いやはや、これは一本取られた。


 向こうがこのアバターの事を神格であると見抜いた訳ではなさそうだが、それでもマナを見抜けるとはさすがハイエルフ。

 原初の時代に初めて進化を遂げた上位種族なだけはあるな。


 亜神や上位職、または上位種族などは強いマナの影響を受けている事があるので、恐らく俺達もそれに該当する存在の一人として受け入れられたのだろう。

 だがどれに該当するかは分からなかったので、創造神の奇跡をその身に纏った者として「神に選ばれた戦士」と表現したのかもしれない。


 という事はアレか、この戦士という言葉はミゼットではなく俺に掛かっているのか。

 旅人に対しエルフ族の長という上位の立場でありながら、妙に丁寧な対応なのもそのせいかもしれない。


「さて、あなた方が私の下へ訪れた理由はだいたいベラルから聞きました。……なにやら迷宮の探索に興味が御有りだとか」

「ええ、そうですね。多少この迷宮の発生源に思い当たる節があるので。それと申し遅れました、俺は隣にいるミゼットと共に旅をしているヒト族、ケンジ・ガルハートと申します」

「ミゼット・ガルハートよ」


 この人に会うまではここまで話す気は無かったが、どうやら向こうからの信頼を大きく得られたようなので軽く迷宮の情報を与えてみる事にした。

 これは一種の詫びみたいなものだ。


 俺は迷宮を攻略する気は今のところ無く、黒子お嬢さんの修行に利用したあと最後に攻略を進めようとしている節がある。

 対する向こうはこちらを迷宮攻略の一員として迎え入れ、できるだけ早く問題を解決したいはずだ。


 この情報提供はつまり、その活動に加わる事ができない事への俺なりのケジメみたいなものである。


「迷宮発生の謎……、ですか」

「ちょっと、なんであなたがそんな事知ってるのよ。お母さまが必死に探っても空振りだったのよ。……いくら謎のヒト族だからって、それは大口叩き過ぎじゃない?」


 そう思うのはぶっちゃけ無理はない。

 当然の反応である。


「いいのですベラル。まずはこの方たちの話を聞きましょう。それに私は信頼できる方達だと感じています。……なぜなのかは分かりませんが、とても懐かしい匂いがするのです。遥か昔、私がまだエルフだった頃にヒト族の英雄ダーマと感じた、奇跡の匂いが。……きっとあなた方が里の危機に訪れたのは、創造の神の意思によるものなのでしょう」


 そう呟くララの顔は穏やかで、妙に確信めいたものであった。

 正体には気づいていないようだが、かなり良い線行ってるな。


 それだけあの頃の思い出が強く心に残っているという事なのだろうか?


 既に数千年も前の事であるのに、今も尚あの頃の思い出が鮮明に残っているとは……。

 俺が言うのもなんだが、人間とは不思議な生き物である。


「理解を得られたようで良かったです。それでは俺の推測をお話しましょう。────この迷宮の主であろう、終焉の亜神の話をね」


 場を見渡して慎重に語る。

 この亜神の存在を、能力を、そしてその意図を。


 だがこの時、俺を除いてこの場に居る誰もが気づいていなかった。

 この大樹の最上階の陰に潜む、微弱に瘴気を発する魔の者の存在を。


 さぁて、この話を聞いて向こうはどう出るのかな。

 まさかこの里にまで魔族の手が伸びているとは思わなかったが、微弱な瘴気のわりにはこいつ、かなり知恵が回るやつだ。


 なにせかの生きる伝説、ララ・サーティラや勇者の目すら誤魔化し切り、堂々と長の護衛である兵士に混じっている曲者なのだから。

 俺もこのアバターが創造神プレイヤーの物でなければ、決して気づく事は無かっただろう。

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