エルフの里4
勇者との会談を中断してまで面会時間を作ったエルフ達の前で、俺は終焉の亜神の詳細を語った。
今分かっているのはかの亜神が他者を吸収し成長する、キメラのような能力を保有している事。
この能力についてさらに詳しく言えば、既に世界樹は能力により終焉の亜神に徐々に吸収されている段階であり、すぐにどうこうとはならないがいずれ解決しなければならない問題である事。
そしてその亜神は創造の神の創り出した正規の神格ではなく、また魔神のような魔の者でもないまるっきり新種の、それこそ自然発生したバグのようなものである事を語った。
最後にこいつの精神が子供である事も語ろうかと思ったが、ここまで清聴していた者にその事が推測できない者は居ないらしく、だいたい話した内容から検討がついているようだった。
さすがに優秀だな。
「まぁ、こんな所ですかね。……一部最初から理解していた者もいるみたいですが、俺からの情報は以上です」
そして語り終えた俺は締め括るついでに謎の魔族へとチラリと視線を飛ばし、向こうの出方を窺う。
まだ動く様子は無かったが、目が合った時に少しの動揺が見受けられた。
やっぱり瘴気の発生源はお前か、バレてるぞ。
というか今ちょっと笑っただろ、本当に俺から隠れる気があるのか?
だが、やはりこれで確信した。
どんな手を使ったか知らないが、エルフによく似た特徴を持つ魔族が一人紛れ込んでいるようだ。
また外見は少年のなりをしているが、この子供の魔力がスカスカなのも気になるな。
なんというか、例えるならばガソリンを入れる前の超高性能スポーツカーのような、燃料さえあれば爆発的な力を発揮する最新鋭のマシンみたいな、そんな印象だ。
いつでも全力で機体を動かせるが、瘴気の発生を抑えるためにワザと力を抑えているっぽい。
「なんという事でしょう……。もしその話を信じるのであれば、精霊神様は既にその亜神の術中に陥っているという事になります。まさか、事態がここまで緊迫していたとは……」
「おや、このヒト族の言う事を信じるのですか? 私には到底信じられませんね。あの精霊神様がなんの抵抗でもできずにいいようにやられっぱなしなど。仮にその原因が亜神級の神格を持つ者の仕業であったとしても到底信じられません。それに、その亜神は生まれたてなのでしょう?」
あまりの事態に慄くララに対し、突然意見を主張する兵士のフリをした少年魔族。
なんか急に存在感出して来たね君、顔がニヤけてるよ?
というかもうこれ、俺にバレてる前提で動いてるでしょ……。
こいつの目的がなんなのか知らないが、中々面白い奴だな。
このまま悪さをしないなら放っておいてやってもいいくらいだ。
「いえ、それがそうはならないのです。むしろケンジ様のお話を聞き、私の不安は確信に変わりました。実は里の者達を集め執り行った調査、そして私個人が使用できる原初魔法のどちらにおいても、精霊神様の苦しみのようなものが伝わって来るのです。……あなたは確か、……ええと」
「マ・ジーン、でございます。サーティラ様」
ララの記憶に残っていない兵士という時点で既になんらかの意識妨害魔法、または認識阻害を行っているのだろうけど、あからさまだな。
ここまで深く入り込んでおいて里に被害が全く無い所をみると、こいつの目的がますます分からなくなってきた。
しかし、少なくとも人間種への悪さが目的ではないだろう。
こいつの能力なら、俺が来る前にいくらでも里への攻撃が可能だったはずだ。
「え、ええ。そうでしたねジーン。普通に考えればあなたの疑問も尤もです。よく、進言してくださいました」
「いえ、これも仕事ゆえ」
「感謝致します」
そう言ってジーンは頭を下げて引き下がり、先ほどの意趣返しと言わんばかりにこちらにウインクを飛ばしてきた。
あ、どうも。
「しかし参りました。……さすがにここまでの事態となると、勇者には早急にあなたと手を組んでもらわねばなりません。当然、私ともです。エルフ国の女王としてこの里の長として、国全体を治めねばならない立場ですが、もはや躊躇している場合ではないでしょう」
まあ、そういう判断になる。
しかしこちらも予定が詰まっているので、はいそうですかと流される訳にはいかない。
既にダブルブッキングしているのに、ここでトリプルブッキングしてしまったらもはや俺の手には負えないからな。
おっさんの体は一つしかないのだ。
「いえ、それはできません」
「……理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」
当然の疑問だ。
「まず大前提として、俺達はこの迷宮の攻略を優先していないからです。もちろん最後には攻略しますが、それよりも先に調査しなければならない事があるため、勇者殿やララ・サーティラ殿の一行に加わり最深部を最短で目指すといった行動が取れないのですよ」
「…………」
ララも俺の発言には思う所があるのか、この事態に何をと言いたげではある。
しかし先ほど俺から伝わった情報の価値を思い出し、恩の大きさを感じて無理強いする事をためらっているようだ。
だが向こうも向こうで引けない事のようでしばし膠着状態へと陥るが、……ここで予想外の人物から援護射撃が来た。
「サーティラ様、私は彼の意見に賛成ですね。なにせ彼は誰も知り得なかった迷宮の謎を理解した唯一の存在。案内役としても申し分なく、戦力としても上等でしょう。しかしその彼が共に行動できないと言った手前、そこには何かしらの思惑が必ずあるはずなのです。もしかしたら、二手に分かれて行動しなければ攻略できない何かがあるのかもしれません」
そう饒舌に語るのは、スカスカ魔族ことジーン。
なんだなんだ、お前こっちの味方か。
思惑はわからんがいいぞ、もっとやれ!
「……確かに、その線は有り得ますね。……しかし」
「そうですね。確かにまだ不安は残ります。なにせ彼らはたった二人。仮にこの作戦が正当だったとしても、勇者ではない彼らが二人だけの戦力で迷宮に潜るのは気が引けます。……そこで、こうするのはどうでしょう。彼ら二人に、私が同行するというのは」
いいぞもっとやれ、と思っていた時期が俺にもありました。
やり過ぎだからそれ、どんだけこっちに執着してるんだよこの魔族。
むしろ魔族だとバレている手前、俺と同行する事はデメリットでしかないだろうに。
こいつの思惑が不明すぎる。
「そうですね、その案でいきましょう。……ではジーンよ、里において優秀なあなたの力を、存分に神の戦士達の役に立てなさい」
「ははっ!」
案が通っちゃったよ。
まあ、思考になんらかの妨害が掛かってたらそりゃそうだけども。
こうして俺達はなんとか迷宮攻略の大義名分を手に入れた訳だが、最後に余計なやつが付いて来る結果となってしまった。
不安でしかないんだが、大丈夫か?
というか話の途中でミゼットが「え、こいつ付いて来るの? というか明らかに怪しくない?」みたいな視線を俺に寄こしていたので、後で説明してあげよう。
そう考えつつも謁見の間のような吹き抜けの大広間から退出し、勇者と面会する機会もないまま謎の魔人と迷宮攻略へと向かう事になった。
「なんだかなぁ」
「説明しなさいケンジ。こいつ明らかに怪しいわ」
「うん、そうだね……。まあまず間違いないのは、こいつは魔族だって事だな」
「……なんですって?」
詳しい話は後でするから、今はちょっと疲れた頭を休ませてくれ。
このヘンテコな魔族のせいで色々警戒する要素も増えたし、万が一敵に回った場合はその対処もしなくてはならない。
しかし付いて来る事になった当の本人は終始笑顔であり、いまにも飛び跳ねそうなくらいご機嫌なようだった。
そして誰にも聞こえない声で、何事かを呟く。
────いやぁ、やっぱり僕には気づいちゃうんだね、父よ。
────なんだか、とっても嬉しいなぁ。
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