エルフの里1
ガルハート領を旅立って5日後、俺とミゼットは無事に飛行船に乗り継ぎエルフの里までやってきていた。
その道中にやはり紅葉がトラブルを起こしていたりと一悶着あったものの、だいたい狐火でおにぎりを温めようとして燃えただの、ツナマヨが少ないから元気が出ないだのとそういう事だったので事なきを得た。
確かにトラブルといえばトラブルだが、なんていうかこう、こいつは本当にブレないな。
ちなみに黒子お嬢さんは休憩中にも修行を進めており、なんとさらに1つだけレベルを上げていた。
リプレイモードは俺が居ないと使えないのに、紅葉相手の模擬戦でよくやるものだ。
熱心な態度に感心しきりである。
……という訳で、そんな5日間を過ごしつつ現在は初めてやってきたエルフの里にて情報収集をしている所だ。
世界樹の麓の周りに立ち並ぶ巨大な木々を利用したこの里は意外に文明的で、パッと見では気づかないが魔法を利用して作られた木の幹のエスカレーター、またはエレベーターのようなものまで存在していた。
こう、幹に足をかけると自動で手すりと共に動く階段を形成してくれるのである。
俺が職業補正として理解している範囲の魔法で、このような便利魔法はなかったはずだが、はて……。
いや、実をいうと心当たりが無い訳でもない。
この世界には職業という人類の救済措置が取られる以前から、原初の魔法ともいうべきものが存在していたからだ。
その使い手の代表的な存在が、このエルフの里の長である生きる伝説ララ・サーティラ。
俺がアプリで創造した世界にて、初めてエルフからハイエルフに進化した特殊な人間である。
あの時は空飛ぶクジラの脅威に立ち向かうために、原始時代におけるヒト族の男性ダーマ・ラルカヤと共に神に奇跡を願い、英雄とハイエルフへの進化という初のブレイクスルーを起したんだったっけな。
こう思うとなんとも感慨深い人間種である。
向こうは俺個人の事など一切関知していないだろうけど、それでもこちらはつい先日のようにハッキリと覚えているとも。
なにせ向こうとこちらでは時間の流れが違うからね。
数千年前の原初の時代なんて
「それで、迷宮に向かう前に一応この里の長に挨拶に向かえと?」
「そうです。あなた方が何者かは存じ上げませんが、お二人の魔力からして手練れである事を理解しています。しかし、あの迷宮は今代の勇者ですら攻略しえなかった難攻不落の要塞。そこを下手に刺激して魔物を活性化させてしまえば、取り返しのつかない事になりかねません」
ごもっともである。
こう俺に語り掛けてくるのは里にて迷宮入口の門番を任されている男性エルフさんで、素性を明かさない俺達を怪しみつつも力量を把握し、どうしても通りたいならば族長であるララ・サーティラの許可を得てから通行しろと言ってきているのだ。
理由はもちろん、下手な刺激はかえって危険を齎す可能性があるから、というもの。
もちろん理に適っている。
なにせ相手は俺が迷宮の謎に勘付いている事など知りはしないだろうしな。
とはいえ俺もここで引き下がる訳にはいかないので食い下がるが……。
「だが、そのララ・サーティラ殿は今勇者一行との会談中で、手が離せないんだろ? しかも会談が終わる時期は未定。話し合いの結果次第では勇者の邪魔になるから通行禁止になるかもしれないと来たんじゃぁ、永久に通れないじゃないか」
「しかし……、そうなる可能性も踏まえて安全管理をしなければあなた方にも被害が出ます」
うーん、俺も無理を言っている自覚はあるが、向こうの理屈で通行禁止になりうると聞かされては計画がとん挫してまう。
もちろん向こうは俺が死なないチート野郎で、いざとなったら仲間を収納して日本へとんぼ返りできる奴だなんて知りもしないだろうから、妥当の反応なんだけどね。
困ったなぁ。
ミゼットもこういう交渉事は面倒くさいのか、門番との話し合いは俺に任せてそこらへんを見物している。
知り合いもいなければ頼れる人は一人もいないというこの状況、完全に詰んでるな。
……と、その時、後ろから声がかかった。
「うんん~~~~~~? あ~、あんた、ど~~~っかで見た事ある魔力してるなぁ~~~。どこだったっけなぁ、う~ん」
「あ、ベラル様! 巡回お疲れ様です!」
「あ~はいはいどうも、お疲れ様~」
後ろから声を掛けて来たのは金髪が美しい、門番とは明らかに身分が違うと分かる衣装を纏ったエルフの女性であった。
あー、俺もどっかで見た事あるわこの人。
まぁ、どっかっていうか、日夜リプレイモードにて神殿内でのレベル上げに貢献してくれている、経験値様じゃないですか。
いやー、お久しぶりですホント。
ご無沙汰しております、いつも美味しい経験値をどうもありがとう。
「あれ? な、なんでそんな気安く手を振ってるのよあなた! その馴れ馴れしい態度、やっぱりどこかで見覚えある!」
「お久しぶりです。ベラルさんもお元気そうで何より」
そう、声をかけてきたのは100年前にて賢者アーガス・ロックハートと魔族討伐にて同行していた弓の達人、ベラル・サーティラであった。
たしか100年前に別れた時は、母であるララ・サーティラに俺の報告をするとかなんとかで、一旦里に戻ったんだったな。
ついでに言うと、向こうが此方の事を認識できていないのは仕方のない事だ。
なにせただのヒト族に見える10歳の少年が、100年経ったのに15歳の姿で登場していたのだから。
普通は気づかない。
むしろ魔力に見覚えがあるといって怪しんでいる手前、記憶力は良い方なのだろう。
「あー、えーっと。……あなたのお名前は?」
「ケンジですよ。今はケンジ・ガルハートと名乗っております。以前は賢者アーガスと共にお世話になりました」
ペコリとお辞儀をする。
「ぶふぅっ!!? な、な、な、ナンデ!? ナンデナンデ!? そんなバカにゃ!?」
「ど、どうしましたベラル様!? この者達は一体!?」
「どうしたもこうしたも無いわ! ありえない! なぜあんたがここにぃ!」
俺の名前を聞いた途端、先ほどまでの余裕を全て放り投げてまるで舞台の悪役かなにかのような台詞を吐く。
自分でもヘンテコな存在だと思っているけど、他人から見たらそりゃあ驚くだろうね。
むしろ俺の事を理解したアーガスや、全て受け入れたミゼットの方が特殊な例だったというだけであってね……。
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