迷宮出現3


 迷宮出現とその脅威度の報告を受け、当日にはガルハート伯爵領を出発した。


 レーナインさんは終始ミゼットを利用する事に抵抗を感じていたようだが、当の伝説の騎士である本人から是非利用してみろとの発言を受け、貴族として自分に出来る事をやると決めたようだった。


 また、グレイ少年は自分を鍛えてくれる存在がすぐに出立すると知り機嫌が宜しくなかったが、そろそろ王都に旅立っていた現ガルハート伯爵である両親が帰って来るとレーナインさんから言われ、しぶしぶ引き下がったようだ。


 なんていうかこう、ミゼットとはまた違ったケースのツンデレだよね彼は。

 師匠とも言える存在がすぐに旅立つのは本音で言えば寂しいのに、喧嘩を売る。

 かと思いきや両親が帰って来る事を知ったら機嫌を直す。


 うーん、これぞ子供といった感じである。


 それはそうと、既に旅立ってから3日程経過するのだが、創造神の神殿の方は順調だろうか。

 現在はミゼットと共にアプリの世界地図を見ながら移動中で、黒子お嬢さんの面倒を見なければいけない紅葉の背に乗る代わりに、世界樹付近に直行する飛行船に乗船するため、その地まで馬車で旅行中だ。


 馬車の御者はミゼットがこなし、俺は地図を確認しつつ現地の様子を窺うという役割分担になっている。


 馬車そのものはレーナイン元伯爵が自身の権限を以て、力を貸してくれるせめてもの礼として押し付けられたものだ。

 もちろん飛行船の代金も頂戴している。


 日程は馬車だとかなりかかるが、一度飛行船にのってしまえば2日程で世界樹までは到着するので、大した時間はかからない。


 到着後に迷宮の様子を見学がてら調査し、魔物の脅威度を理解したところで黒子お嬢さんの訓練の舞台に利用し、最後に攻略するつもりなのだが、どうにもそれまでの間を紅葉に世話させるというのが不安で仕方がない。


 特に創造神の神殿でやらかすような事など一つもないはずなのだが、あの妖怪は何かやらかしそうな、そんなオーラを纏っている。


 うーむ、これは一度飛行船に乗る前に様子を見た方がいいかもしれない。

 そのことをミゼットにも相談してみる。


「ケンジの意見に賛成ね。私もあの子にはちょっと危なっかしいところがあると思ってるわ。何か下手な事をしてそうだから、一度様子を見に行きましょう」

「だよなぁ~」


 意見が一致したので、今日は適当なところで野営をしつつ俺だけ神殿に戻る事にした。

 一応この周辺にも盗賊が出る可能性を考えたら護衛は残す必要があるので、ミゼットはここで馬車の警護である。


 伯爵家の紋章を掲げているご立派な馬車に攻撃してくる奴は少ないが、それでもこうして護衛も居ない高級な馬車が単騎で動いていれば、目につきやすい。

 下手に相手の頭が悪ければカモだと思われる可能性だってあるだろう。


 まあ、そういった輩は実際に居たし、既に襲撃してきた盗賊は少数ながら存在した。

 といっても、ミゼットが『聖剣招来・乱舞』という、聖騎士における奥儀ともいえるスキルでオーバーキルした後なんだけども。


 俺にすら未だ習得できていないこの乱舞というスキル、なんとそれはもう凄まじい威力で襲撃者の体を爆砕していったよ。

 もはや塵も残らなかったと言ってもいい。


 一撃の威力が必殺級の『聖剣招来』を、遠隔操作でファンネルのようにしながら複数攻撃するもんだから、並みの魔族が相手でもオーバーキルとなる威力だっただろう。

 それを人間に向けてやる事に多少罪悪感を覚えもしたが、まぁそもそも盗賊なんてそこらへんの魔物と変わらない人理を失った野生動物と同じだ。


 自分の糧の為に殺戮し、時には死んだ方がマシと思えるような奴隷生活へと他者を陥れる。

 正直、感情はともかく理屈として擁護する気にはなれなかった。


 これを擁護すると言う事は、自分の仲間と盗賊を天秤にかけ盗賊の命を取ったという事に他ならない。

 よって、慈悲はないのである。


 ぶっちゃけ盗賊というのは、一般的に悪とされているが下衆とは限らない魔族や魔王よりも質が悪いだろう。


「じゃ、行ってくる。たぶんすぐ戻ると思うけど」

「別にゆっくりしてきていいわよ。私はこう見えて聖騎士団の活動で野宿は慣れてるから」


 そう言って手をヒラヒラと振るが、こちらもそんな用事がある訳でもないのですぐに帰れるだろう。

 なにせ紅葉がトラブルを起こしていないか様子見するだけだしな。


 それに早めに世界樹の迷宮に向かわなければならないというのもある。

 世界地図で見た光景からは、世界樹そのものが迷宮の毒に侵されているような、言いようのない歪みのようなものが見受けられたからだ。


 なんというか、迷宮が世界樹を浸食し同化していっているのである。


 あまりにも希少レアすぎて俺の固有スキルとも言える『魔力知覚』でも、世界樹の配下である精霊達から緊急連絡が度々寄せられている。

 曰く、精霊神である世界樹が何者かの攻撃を受けているとの事。


 しかもその手段に前例が無く魔族の手による攻撃でもないため、どう対応していいか分からないそうだ。


 そりゃそうだろう。

 俺の見立てでは、そいつ魔族よりも厄介な亜神だし。


 1万年後の世界で見たあの生物がめちゃくちゃに合体した姿から連想するに、そいつは他者を吸収し融合を繰り返すような能力を持っているのだろう。

 だから今は世界樹を取り込む事に専念しているに違いない。


 そして迷宮を創造し新種の魔物を生み出した事から、創造神(プレイヤー)である俺と同等か、もしくはそれには劣るが似たような『生命創造』の力を持っているのではないか、とも考えているのだ。


 別にそういった能力がある事に文句をつけるつもりはないが、とはいえこれは無制限に使っていいものではない。

 アプリをダウンロードし、ゲーム感覚で世界を創造してしまった時の俺はともかくとして、今この世界が現実だと理解している俺からすれば、この力は世界の環境バランスを著しく破壊する物だと理解できる。


 絶対に使うなとは言わないが、どういう影響を持つか理解して使って欲しいところだ。

 相手にその良心があれば良いのだが、……たぶん態々目立つような場所に迷宮を作って無双しているあたり、こいつの精神は子供である可能性が高い。


 力や武器の振るい方は知らないけど、そのスペックはべらぼうに高い、みたいな印象を受けるのだ。


 なんともままならない亜神が生まれしまったものである。

 俺はもっとこう、平和に異世界を満喫したいんだけどなぁ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る