迷宮出現1
黒子お嬢さんを預かってから既に2週間。
かなり集中してレベルを上げていたが、その成果もあり彼女の実力はみるみる内に上がって行った。
既に三尾である紅葉とも訓練の条件次第では善戦できるまでになっている。
元々紅葉の主な攻撃特技は狐火や巨大化といった単純なものしかなく、戦闘面での技術で劣るというのも大きな理由ではあるが、とはいえ格上相手に戦えるのは大きな進歩と言えるだろう。
そんな彼女の現在のレベルは25程。
いくら経験値獲得速度に補正が掛かっているとはいえ、凄い成長スピードだ。
その上、三尾に進化した紅葉がレベルに換算すると35程であるのを考慮すると、これで善戦できているというのが冗談の様な数値でもある。
いかに戸神黒子という人間の体得した陰陽道が優れているのか、という問題にも繋がって来るな。
尤もそんな急成長の反動か、今は2週間の修行に疲れ果て神殿の一室でぐっすりと熟睡中だ。
期限が限られた修行の中では、この強引なやり方も仕方ない事とはいえちょっと急ぎすぎたな。
今は休ませてあげるとしよう。
ついでにせっかくだから、彼女の休憩時間を利用してガルハート領に戻る事にする。
修行をぶっ通しで続けた反動が1日2日の休憩で癒えると思えないので、既に休暇を1週間渡しているのだ。
その期間を利用して、レーナイン・ガルハート元伯爵の下へ向かい世界の様子を伺うとする。
「という訳だから、ちょっと俺ガルハート領に戻るわ。紅葉は黒子お嬢さんの面倒をしっかり見ておくように」
「でも儂、おにぎりが無いと生きていけないかもしれん」
「大丈夫だ。ちゃんと考えてある」
不安に怯える食いしん坊の前に、どっさりと先ほど買ってきたコンビニおにぎり達を押し付ける。
いつもの昆布、シャケ、ツナマヨとは別に、秘密兵器としてハンバーグ付き、エビマヨ等新しいジャンルのおにぎりが詰め込まれている。
これだけの物量があれば1ヶ月は優に暮らせるので、いくらこの食いしん坊でも1週間では食べきれないだろう。
このおにぎり達を何故か搭載されている神殿の冷蔵庫に入れておけば、万事解決という訳だ。
もちろん黒子お嬢さんの分も別途用意して詰め込んでおくので、心配には及ばない。
「ぉ、ぉふ……。このおにぎり達を対価にして
お、お前の求婚やっすいな……。
たかが一ヶ月分の食料で堕ちる妖狐とはいったい……。
あとなんで疑問形なんだ。
揺れてるのか、揺れているっていうことなのか。
というかそもそも俺はお前に求婚していないぞ。
まあとにかく満足してくれたようで良かった。
これで1週間、安心して外の様子を確かめてこれる。
一応外出の挨拶を黒子お嬢さんに告げ、紅葉をサポートにつけてから──役に立つかは定かではない──ミゼットを連れてガルハート領に戻った。
既に聖騎士祭とやらが領で行われているのか、以前にも増して町は活気づいている。
所狭しと街道が人で溢れかえり、一部ではケガをした冒険者もちらほらと視界に映り込む。
どうやら聖騎士祭とやらで負傷した人もいるようだ。
祭りの詳細は知らないが、武力を競い合う何かが行われているらしい。
「へぇ~、初めて見たけど案外まともな行事なのね。勇者一行の選抜にも影響するっていうから期待してたけど、参加者のレベルを見たらその期待以上である事が分かるわ。そこそこ強い奴が何人か混じってる」
「そうなのか?」
正直俺には気配を読むとかそういう達人の能力は備わっていないので、相手がどれくらいの強さかなんて鑑定しなくちゃ分からない。
本物の達人や戦士は立ち振る舞いとかで力量を判断できるらしいが、いったいどういう原理なんだろうか。
そんな事を雑談しながら伯爵家の屋敷へと向かい、門番をミゼットの顔パスでスルーして室内へと上がり込む。
とりあえず再びこの地へ訪れた事をレーナインさんに連絡しないといけない。
何人か使用人っぽい方が俺達の世話に現れたので用件を伝え、待合室で待機しているとすぐにレーナイン伯爵がグレイ君を連れて現れた。
「あ! メスゴリラ!」
「誰がゴリラよ馬鹿子孫!!」
「いでぇ!?」
そして目を合わせるなり喧嘩を売るグレイ少年も相変わらずだな。
まあ、その後一瞬にして撃沈したが。
「お帰りなさいませご先祖様。そしてケンジ殿。……ちょうど私からもお知らせしたい用件があったところです」
「そう。それはタイミングが良かったわね」
「ええ、とても」
そう語るレーナインさんの顔色には難色が示されており、何やら問題を抱えている事が分かる態度だった。
以前にも謎の怪奇事件について勇者が動くだのなんだとのと知らされていたが、それに関連した何かなのだろうか。
話を聞いてみない事には分からないが、まあ十中八九その件だろう。
あれから勇者が動いたが、成果が上がらなかったのだと見て良い。
今回の件で以前推測した終焉の亜神が関わっているとするならば、いくら人類最強と設定された勇者の力を以てしても、一筋縄で行くはずがないからな。
「……ふむ」
「真剣ね、ケンジ」
「まあな」
終焉の亜神の詳細を語った事は無いが、俺のただならぬ雰囲気を感じ取って彼女の方も気を引き締めた。
そしてミゼットはレーナインさんに振り向き、口を開く。
「そう。では単刀直入にあなたに問うわ。今起きている問題は魔族、または魔王と同等以上の脅威なのね?」
「…………ッ! さ、さすがはご先祖様。凄まじい洞察力でございます。9割方その見解で間違いございません」
事情を知らないはずだが、ミゼットは確信したように脅威度を判定する。
いや、確かに俺の考えではその通りなんだが、相変わらずとんでもない直感だな。
この力ばかりは、今まで出会ってきたどんな人物よりも優れている。
亜神を含め、ミゼットの直感力に匹敵する力を持つ者はそうはいないだろう。
「それで、どこまで分かっているのかしら?」
「既に状況の深刻さを理解されているようですので、私の口から結論だけ申し上げます。……ガルハート領から遠く離れた世界樹方面の土地にて、『
そんなモノこの世界にあったか?
いや、魔大陸とかも迷宮といえば迷宮みたいな所があるけど、世界樹に発生という情報からイヤな予感しかしない。
一体何が起こっているんだ……?
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