閑話 黒子育成計画
斎藤がミゼットを連れ帰り作戦会議を行っている一方で、イギリスから招いた
「それで、お主の目から見てあの男はどうであった」
「ん~、そうだなぁ……。一言で言えば明らかに異質、だよな、やっぱり。一見虫も殺せない平凡な男のように見えて、その実とんでもない魔力を秘めてやがったぜ。ありゃおっかねぇわ。それに身のこなしからして、実践慣れもしている。色々とチグハグな印象を受けたぞ俺は」
ハリーはそう言って困惑げな表情を浮かべるが、確信を持ったように答えを出す。
「……それに、爺さんの目から見ても一ヶ月前とは別人のような実力差があったんだろう? ありゃ何かタネがあるぜ。何もない所から、急に力は生まれねぇ」
源三はその回答に深く頷くも、どこか優れない顔で目を瞑る。
それもそのはず。
斎藤の異質さにある種の希望を抱き、もしかしたら九尾の問題もなんとか解決してくれるかもしれないと考えていたものの、もはや時間的な猶予が無いのだ。
あの異質な男が成長しなんとかするよりも、孫娘である黒子が死ぬのが先かもしれないと考えるとどうにも如何ともしがたい気持ちになるのである。
とはいえ、斎藤との繋がりは元々予期せぬものであり、これにばかりに頼るのは虫が良すぎる話でもあるため、責めるのはお門違いだ。
故に、今でも妖怪退治の依頼については最大限の成果を上げている彼には手放しの称賛を捧げたい程であった。
「そもそもこの国はどうやって
「…………その通りじゃ」
このハリーの懸念は尤もであった。
いくら命をかけた大術式が過去から現在に伝わっているとはいえ、そんなものの一つや二つで九尾と黒子の実力差が埋まる訳ではない。
しかし現状では手の打ちようがないため、他にどうしようもないのだ。
日本を代表する陰陽師家としても、それこそ自分達にも再封印は不可能です、なんて言えるはずがない。
そうしてしまえば今まで築き上げてきた権威は失墜するし、ましてや妖怪退治専門の代表格である戸神家が投げ出したとあれば、他の者にはどうする事もできないだろう。
唯一他国にいる組織や異能者の力を借りられればなんとかなるやもしれないが、傭兵一人を雇うのとは違い、国として軍を借りてしまえば政府自身も大きな借りを作ってしまう事になる。
そのような事態を避けるために、国も自力でなんとかできないかと模索しているところなのだ。
もちろんどうしようも無くなれば力を借りるだろう。
それが例え日本一の異能集団と名高い戸神家や、政府お抱えの秘密結社に取り返しのつかない大被害が出た後であっても。
異能者達を大勢失って後に先進国として機能するかどうか、というのはさておき、存続するだけならばなんとかはなる。
とはいえ、それは最終手段だが。
「ゲンゾウの爺さんよ。あんたは孫を甘やかし過ぎた。このツケはデカいぞ」
「……それも、分かっておるよ」
ぐぅの音も出ないし、出す気も無い。
この家の当主を引退したとはいえ、全ての責任は自分にあると彼は考えた。
なにせ今存命している日本の異能者達の中で、最も『九尾の狐』に対し影響力と時間があったのは彼自身なのだから。
それをなんとかできなかったのは、全て自分自身が甘かったせいだと思っているようだ。
「まぁ、とはいえだ」
「ああ、そうじゃな。とはいえ、じゃ。……全てはまだ、確定してはおらん」
「そうだ。未来はまだ誰の手にも渡っちゃいねぇ。なら出来る事をやりながら、なんとかするしかねぇだろうよ」
つらつらと問題点を述べていた二人ではあったが、それでもやるべき事はやる。
一応これでも日本を代表する陰陽師と、イギリスを代表する
この二人が、そうそう簡単に諦めるような事があるはずも無かった。
そして源三とハリーは、同時に九尾への対抗案を出す。
「ふむ、そうじゃなぁ……。ならば────」
「そうだな、とにもかくにも力不足。それだったら────」
────今からでも、力のある者に稽古をつけてもらえばいい。
二人の結論は一致していた。
確かに、今の黒子では九尾にはまるっきり対抗できない。
完全に力不足だ。
だが力不足なのはあくまでも黒子であり、この二人ではない。
そもそも、最高峰の陰陽師と最強の傭兵は、九尾に対抗するだけならば対抗できると踏んでいる。
主に時間稼ぎとしてだが。
人間には身体的な能力が違えども、古くから伝わる技、そして道具がある。
伊達に今まで、力で上回る妖怪相手に仕事をしてきた者達ではない。
能力差を埋める手段など腐るほど持っているのだ。
だったら、自分達で時間を稼げるだけ稼ぎ、問題のある黒子の実力はこれから集中的に鍛えればいいだけの事と考えるのも自然な流れだった。
幸い目星はついている。
二人が今の今まで気にかけており、そして謎の急成長を遂げている脅威の男、斎藤健二。
この男に黒子を託し、鍛え上げようという魂胆なのである。
「なに、確かにこれは賭けじゃが、分の悪い賭けではない。……なにせ、お主もいっておったように、あの男には儂らに隠している秘密があるからのぉ」
「ああ、それは明らかだな。間違いない」
達人たちはニヤリと笑い、斎藤に黒子を預けるだけのエサを用意すべく、今後の算段を練るのであった。
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