パソコンは覗くな


 あれからもうしばらくして、ゲームセンターで伝説の70人抜きを果たしたミゼットを連れ帰り、自宅で一息ついた。

 現在はなぜこういう事態になったのかを本人から詳細を聞きつつ、今後チンピラA・Bのような被害者を出さないために無暗な外出を控えるように言い渡しているところだ。


 ちなみにおしりペンペンの刑は本当に実行した。

 早くも本人の黒歴史となっているようである。


「で、去り際までお前を野次馬から守ろうとしていたあのチンピラは何だったんだ?」

「あ~、あれね~」


 話を聞くと、どうやら彼らはこの街の案内を自ら申し出た殊勝なコボとゴブだったらしい。

 なんでもゲームセンターに寄る前はミゼットが行きたくなった飲食店、「ふぁみれす」なる所で朝ごはんを頂戴したらしい。


 気前よくお金も出してくれるし中々使い勝手が良かったとの事。

 もしかしたら執事の才能があるかもしれないから、もしガルハート領に持ち帰れるならそれもアリだとかなんとか。


「なるほどな」

「そうなのよ~」


 ……いや待て、何かがおかしい。

 そうなのよ~、じゃないだろ。


 俺は今チンピラA・Bをどうして巻き込んだのか話していたはずだ。

 それがなぜ、いつの間にか人材発掘の話にすり替わっているのだろうか。


 さてはこやつ、全く反省してないな……?


「お前なぁ……」

「や、やぁねぇ~。ち、ちゃんと反省してるわよ? まだこの世界に不慣れだったから、ちょうど良いと思って引き込んだ事は認めるけど。……今度からは一人で外出はしないわ」

「はぁ、まあ今はそれで良いか」


 特に今は九尾の眷属が問題を起こしているようだから、なるべく戦力を分散したくない。

 出来る事なら高レベルの聖騎士としての力は存分に借りたいところだし、自由行動するにしても行き先は把握しておきたいのだ。


 これがいつも通り、平和な状況だったならある程度は勝手にしてくれてもいいんだけどな。


 そして事のあらましを聞いた俺は、まだ寝不足だった紅葉を布団に封印し、ぬくぬくと丸まりながらヨダレを垂らして寝ている猫なのか狐なのか分からない妖怪を尻目に現状を語った。


 大事なのは2点。

 1点目がこの世界で紅葉の眷属、というか紅葉を眷属としている親玉が大暴れしている事。

 2点目がその対策のために、この世界で力を持った者達が俺達を引き込もうとする事だ。


「へぇ~、こっちではそんな事になってたのね。モミジって案外凄い奴なの? でもしょせんは天獣人の祖みたいなレベルでしょ、ケンジと同格の存在がいるかもしれないこの世界で、天獣人の祖一人二人ではどうにもならないわ」


 そう思うのも無理はない。

 紅葉は一見すると妖怪ではなく異世界の獣人族に見えるし、あちらの世界でレベルを上げた俺がこの世界の標準だと思っているミゼットにしてみれば、何の脅威にも映らないだろう。


 しかしそれは間違いなのだ。


 何を隠そう、恐らくこの世界でレベルという概念を持っているのは異世界人であるミゼットと、アプリの保有者である俺だけなのだから。

 これは己惚れでも何でもなく、職業補正による力の差として認識しなければならない。


 今更戦うのが怖くて──いや、実際めちゃくちゃ怖いが──、現実から目を背ける訳にはいかないのだ。


 別に九尾なんて知るかっていう態度でもそれを突き通せばそれで筋は通るのだろう。

 なにせ俺は外部の人間であり、元々は一般人なのだから。


 しかし自ら陰陽師家と関わり、曲りなりにも紅葉という仲間を家族として受け入れている手前、もう都合の良い無視はできない。

 というか、無視したらしたで、たぶん自分の首が締まる事になる。


 故に俺はミゼットに九尾の脅威がどれ程のものかという現実を伝える事にした。

 正直なところ俺も良く分かっていないが、鑑定さん曰く最低でも亜神級だという確認は取れている。


「ちなみに紅葉の親玉は向こうの世界での亜神級に匹敵する」

「げぇっ!? ……嘘でしょ?」


 見た目だけは麗しい女の子とは思えないほど汚い驚き方をしたミゼットは瞠目する。

 いや、これが嘘のようで本当の事なんだよなぁ……。


 いまオフトンで眠りこけてる幼女では想像もつかないが、今まで鑑定さんが嘘を吐いた事はない。

 亜神級でも龍神や魔神や世界樹と、色々と強さの格差はあるが弱いなんてことは間違ってもないだろう。


 困ったもんだ。


 とはいえ、何も暴力だけで解決すると決まった訳ではないのだけどね。

 そもそもなぜ九尾が暴れているのか俺は事情を知らないし、話してみればなんてことはなく、和解しましたというケースがあったりするかもしれない。


 だから一方的に攻め入るのは俺のやり方ではないし、筋も通らないと思っているのだ。

 問題は相手に話をする気があるのかどうかな訳だが、……少なくともあの二尾とかいう妖狐は一方的に攻撃してきたな。


 うーん、話し合いは難しいか?

 だが、彼女とて最初は攻撃を躊躇っていたし、紅葉を連れ帰る事を第一優先として動いていたのは事実。

 姉妹によって気性が違うとは聞いていたので、もしかしたら任務としては俺を害する事は禁じられていて、短気な性格から個人的な判断をしたのかもしれない、という線もある。


 この辺は悩みどころだ。


 あ、そうそう。

 最後に付け足しておかなければならない事があった。


「それと、俺のパソコンは絶対に覗かないように」

「え? ぱそこん? って何?」

「……いや、何でもない」


 おっと、これ以上はいけない。



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