チート騎士少女
ミゼットを探すために出かけてから20分あまり、なんだかんだ眠そうにしつつも俺の手をしっかり握ってとぼとぼとついて来る紅葉と一緒に街を散策している。
ある程度の距離が縮まればビビリ妖怪の超感知能力でなんとかなると思っていたのだが、これが予想に反して中々引っかからない。
本当にあいつは、いったいどこをほっつき歩いてるんだろうか。
まさか財布も無しに電車に乗れる訳もないし、切符の買い方も分からないだろう。
それほど遠くには行っていないはずなんだがなぁ……。
限りなく低い可能性の一つとして、タクシーに乗って運賃が払えずに揉め事を起しているなんていう線もあるが、まあたぶんこれは無いだろう。
いくらミゼットでもタダで人が働くような事があるとは思わないはずだ。
タクシーの概念だって異世界に当てはめれば馬車と同じようなものだし、その事が分からない程馬鹿ではない。
あいつは馬鹿なのではなく、お転婆なだけだからな。
「とはいえ、これでは埒が明かないぞ……」
「
正直言ってしまえば、それも検討した。
しかし紅葉の言っている事は尤もだが、どうにも嫌な予感がしてこうして探し回っているんだよ。
何事も無ければ良いのだが、一度あのお転婆姫が動くと何かが起きそうな気がしてならないのだ。
例えば、警察官に職質されて力づくで逃げ出すとか、見てくれに騙されて囲んできたチンピラを逆に配下にして貴族のように悠々自適に過ごすとか……。
あのミゼットの性格を考えればトラブルはいくらでも思いついてしまう。
もし面倒な事になっていたら、今度ばかりはおっさんの正義の鉄槌を下すつもりである。
おしりペンペンの刑だ。
とはいえ正直この件に関しては俺にも非がある。
こういう事になる前に、事前に勝手な行動を控えるよう言い含めておく必要があったのだ。
という訳で、おしりペンペンの刑は情状酌量の余地ありと見做し100回に留めておく事にした。
そしてそんな脳内裁判を繰り広げていると、早々にお転婆姫探しに飽き始めていた紅葉が有力な反応を見つけた。
「む……」
「どうした、何か見つかったか?」
「ここら辺からあやつの匂いを感じなくもない……」
「よくこんな人込みの中から特定の人間の匂いを嗅ぎ分けられるな……」
現在場所は街の電気街付近。
いかにも日本に来たばかりのミゼットの好奇心をくすぐりそうな場所ではある。
しかし紅葉により詳しい話を聞くと、どうやら匂いは一つだけではなく、いくつかの塊になって動いているらしい。
このいくつかの塊のうち二つは男のものらしいので、早くも警察かチンピラに捕まったのだろうという予感が過ぎる。
め、めんどくせぇえ……。
いや、逆に考えるんだ俺よ。
ここでもし警察が相手ならば面倒な事態は回避のしようがないが、チンピラ相手に無双しているなら、ミゼットの好奇心による暴走を彼らが変わりに受け持ってくれているという事になる。
元々俺が対応するはずだった果てしないトラブルの種を全部チンピラに押し付けられるんだから、これは良い事なのではないだろうか。
そうだな、そうに違いない。
「こっちじゃ、こっち。このピコピコと煩い音がする建物の中から匂いがする」
「あれ、これって……」
ようやく人探しから解放されるという事で急に元気になった紅葉に案内されると、そこには俺が部下の宮川とよく通う事のあるゲームセンターがあった。
まさか金も無いのにゲームセンターに入ったのか?
てっきり配下にしたチンピラを連れて飲み食いしているかと予想したのだが、まさかゲームセンターがお目当てだったとは。
それから店内に入り辺りを物色していると、すぐにお目当ての人物を見つける事ができた。
なぜすぐに見つける事ができたかというと、そこではお目当ての人物、もといミゼットの周りに巨大な人だかりが出来てとんでもない見物人が集まっていたからだ。
「うぉぉおおおおおーーー! すげぇ、この外人の娘ついに60人抜きだぞ! 次誰だ、誰が挑むんだ!?」
「すげえ動体視力! 攻撃が掠りもしねぇ! 必殺技も目視でガードしてるぞ!」
そこにはゲームセンターの格闘ゲームの台の一角に陣取り、あり得ない程手慣れた操作でチャレンジャーを完封していくコスプレ騎士少女が居た。
コスプレ騎士少女の背後では二人の男が取り巻きのように少女をボディガードし、詰め寄る見物人に並ぶように促し人を整理している。
そして今、ついに61人目のチャレンジャーが目の前で敗れ去った。
「いや、悪いが完全に意味不明なんだが……」
なんでミゼットが格ゲーで無双してるんだ?
というか使用人のように恭しく付き従っているあの二人はどうしたんだ?
まさか姫パワーで洗脳でもしたのか?
あとでちゃんと解放してやれよ?
あまりにもあんまりな状況に理解が追い付かない。
しかし現にミゼットはあそこで無双しているし、そもそもこれで目的の人物は発見したので、とりあえず集団を掻き分けて連れて帰る事にしよう。
なんだか妙に疲れた。
余談だが、たぶん格闘ゲームが強いのは元々才能があったとかではなくて、キャラの動かし方さえ分かればレベル補正の影響で人間を超越している運動能力と器用さ、そして動体視力でゴリ押せるからなのだろうと推測する。
格ゲーキャラの動きなどハエが止まったように見切れることだろう。
でもそれ、土台からしてズルだからね。
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