帰宅4


 ミゼットと黒子お嬢さんが意気投合してしまった事によりお泊り会が始まりそうな気配であったが、さすがにボディガードを帰らせてハイお泊り、という訳にはいかない。

 俺の方で準備が出来てないのもあるが、そもそもこのお嬢さんの黒服達だって役目を考えれば受け入れがたい案件だろう。


 そう思った俺はそういう事はご両親の許可を取って来てくださいと説明し、後日また準備が出来ている時にお泊り会を開くと約束して今日のところは帰らせた。

 正直黒子お嬢さんもその辺の常識は普通にあったので大変恐縮しっぱなしで、何度も「出過ぎた真似を申し訳ありません」と謝っていたぐらいだ。


 次からはこういう事はないだろう。


 まあそもそも、本人が泊まっても大丈夫そうだと思っていたのはミゼットが俺の親戚とか血縁の人間だと勘違いしてたからだし、身内が良いと言っているならいいんじゃね、って思ってしまったのが発端だ。

 この場合叱るべきはミゼットの方だろう。


「という訳で、ミゼットちょっと正座」

「え~」

「え~、じゃありません」


 ミゼットは不満たらたらだったが、なぜ勝手に部屋にあげていたのか聞いてみると、本人的には俺と親しい異世界人(ミゼット視点)の背景に興味があり、もしかしたら潜在的な俺の敵かもしれないと思って裏を探っていたのだという。


 最初は聖盾招来で足止めしていたし、部屋にあげてから不審な行動があれば即座に首を刎ねるつもりだったとのこと。


 ってちょっと待て聖騎士のスキル使ったのかよ!

 そりゃ血縁と思われてもしょうがないわっていうかそういう問題じゃなくて、こりゃ先に常識を教えておかないとダメだな。

 この国で無暗に力を使うのは禁止って言っておかないと、とんでもない事になりそうだ。


 怪しい行動があれば首を刎ねるといっていたのにも冷や汗をかいたが、この辺に関してはミゼットが黒子お嬢さんを俺の事について探っている国の暗部だと勘違いした事が原因なので、一言「違う」と言って場を納めた。


 なんでも電話を受け取った時に来訪の連絡があったらしいので、その点に関しては日本の常識を知らないミゼットが居る中で留守にしていた俺に非が無いとも言えない。

 そういう事情もある事から強くは言えないのだ。


 これが黒子お嬢さんじゃなくて、九尾の眷属だったらこの対応で何も間違っていなかった訳だからね。

 足止めした事も、情報を探る事も、怪しい行動を感知して首を刎ねるのも、仕方ない事だ。

 という訳で、今回は俺の責任も半分という事で決着させ、明日からは常識を教えることと相成った。


 そしてその日はこってり1時間ほどこの世界の説明を行い、深夜2時になったあたりで明日に備えて眠る事になった。

 紅葉もとりあえず知っておいた方が良い事は多いので一緒に聞いていたが、異世界の情報に興味津々のミゼットとは違いあまり興味がないのか、聞いているフリをして暇そうにテレビを見ている。


 この社畜妖怪、小言や忠告を聞き流すのが上手すぎるわ。

 ミゼットに説明している途中、ちゃんと聞いているのかと確認するタイミングでピクリと反応して真剣な表情になる。


 なんだその真顔、お前さっきまでテレビ見てヘラヘラしとったやないかい、とエセ関西弁で問い詰めたくなるが、本人は眉毛をキリリッとさせていかにも反省してますオーラを出すので、叱りずらい。

 完全に場慣れしてるわ。


 たぶん何百年も姉や母親の九尾に散々同じような小言を言われてきたのだろう。

 もはや説教を受け流すプロフェッショナルのような貫禄を放っていた。

 説教を聞き流す覚悟において一種の凄みを感じる。


 だめだこいつはとは思いつつ、まあぶっちゃけ紅葉は積極的に動くタイプじゃないし、面倒事は空気を読んで避けるから問題ないかと思い直して放置する事にした。



 ────そして翌日、朝の9時半。

 ────目が覚めると、ミゼットが部屋から消えていた。


「はぁ!? おい!? ミゼットは!?」

「んぁ?」


 久しぶりの柔らかいベットによって、寝坊から飛び起きた事で俺の腹の上で爆睡していた紅葉がゴロンと床に転がる。

 そして部屋の扉を確認すると、鍵が開いてた。

 テーブルに立て掛けられた聖騎士の剣と、書き置き。

 これは、あれか……。


「あいつ、勝手に外出したのか……」

「すぴ~~~」


 テーブルに聖騎士の剣を立て掛けて行っているので、昨日俺が話した日本のルールについてちゃんと理解した上で外出しているのだろう。

 これで銃刀法違反で捕まるような事はないし、外出してはいけませんと言った覚えもないが、そうきたか……。


 幼少期から好奇心旺盛だったミゼットの性格を考えれば当然の行動といえば、そうなるのだが、大丈夫だろうか。

 というか、あいつ剣は置いて行ってるけど鎧は無いな。


 ……という事は、聖騎士鎧着たまま外出してるのか!?

 鎧も禁止っていっときゃ良かった!


 一応テーブルに書き置きがあったので読んでみると、「ちょっとこの世界を見学してくるわ! 昼までには帰ると思う。 ミゼットより」とのこと。

 これはもう嫌な予感しかしない。


 だが今から出かけた所で特に探索スキルがある訳でもない俺に奴を見つけられる保証はないし、さてどうしようか……。

 別にミゼットが問題を起こすと決まった訳ではないが、日本円すら持っていないあいつが外に出て不安になるなという方が難しい。


 仕方がない、紅葉起こすか。

 こいつなら感知範囲も広いしすぐに見つけられるだろう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る