帰宅3


 ミゼットのちょっとした問いかけによりアプリの存在が露見してしまう所だったが、なんとか誤魔化すことが出来た。


 だがよく考えてみれば、このアプリについて情報をおおやけにするつもりはなくとも、黒子お嬢さんだけを俺の創造した異世界に招待し修行させれば、九尾という超常の存在に対して手っ取り早く対抗手段を得る最も効率の良い修行場になる。


 いま現在、九尾という危機が目に見える形で迫っているのなら、それも選択肢の一つとして捉えておいた方がいいかもしれない。


 まあそれでも、このアプリの情報を黒服達が居る前で無暗に公開する事は躊躇われるけどね。

 こんなヤバい情報をどこの誰とも知らない付き人に知られてしまえば、色々と問題が起こるだろう。

 とりあえずこの話は一旦棚上げだ。


 俺は一度咳払いをし、なんとかミニ黒子ちゃんの破損理由を捏造するべく思考を巡らす。

 そしてあらかた考えが纏まった所で次元収納から人形を取り出し、魔王のブレスによって無残にもボロボロになってしまったミニ黒子ちゃんの遺体(?)を出現させた。


「えーっと、そうですねぇ……。まずこのミニ黒子ちゃんなんですが、少々手ごわい妖怪との戦闘でこのような状態になってしまいました。その妖怪はやはりかなり狡猾で、見ての通りこうして致死の一撃を受ける事につながってしまいました。私も弟子のミゼットや他の人間の力を借りてそいつを倒すのがやっとだったくらいです。なのでこうして借り受けた人形をダメにしてしまいましたが、あらかた脅威は去ったと見ていいでしょう」


 異世界という部分だけを誤魔化し、あたかもこの世界のどこかに存在する大妖怪と激戦を繰り広げて来たかのような言い回しでのらりくらりと話の要点をずらす。

 いや、ずらそうとして失敗している感もあるが、勢いでごまかす。


 すると既に脅威は去ったと感じた黒子お嬢さんは一息吐くも、再び怪訝な表情を浮かべてこういった。


「で、ですが魔王というのは……」


 あー!

 やっぱりそこ食い付くよねー!

 そりゃそうだよ、俺だって同じ立場だったら気になるよ!

 なんだよ魔王って、俺だってこの世界における魔王の存在なんて知識にないわ!


 しかし悩んでいても始まらない。

 なんとか適当な言い訳を考えなくては。


「……そ、それはアレです。そいつが魔王と名乗る妖怪だった、という事ですよ」

「ああ、なるほどっ!」


 正直、かなり苦しい言い訳だと思ったのだが、黒子お嬢さんは何か思い当たる節があったのか納得した表情で相槌を打った。


 あれ、なんか上手く行ったっぽい……?

 なんでだろう?


「私にも経験があります。力の強いあやかしは自身の事を神や悪魔などと呼称して、人間に必要以上の畏怖を求めるものなのですよね。お爺様との修行がてら、長年妖力を蓄えて人間を陥れて来た古い妖と対峙した時にも同じような存在に遭遇した事があります。ああいうタイプの存在だった、ということなんですね!」


 ああ、なるほどそう捉えたのか。

 確かにそれなら辻褄が合う。


 そんな妖怪が居る事そのものが初耳だったのだが、その手の専門家である戸神家のお嬢さんが言うならそうなんだろう。

 なにせ妖怪退治を稼業にしている人だからな。


 なにはともあれ、とりあえずミニ黒子ちゃんの件は誤魔化しが利いたようなので一件落着といったところだろうか。


「とりあえずこの破損してしまったミニ黒子ちゃんは預けておきますね。修理する事が可能かもしれませんし」

「あ、いえそれは斎藤様ご自身の手で持っていてください。その人形は霊力を与えれば自動的に自己修復するように作ってありますので、毎日傍においておけばそのうち再起動すると思います」

「えっ……」


 お、おい、嘘だろ。

 この人形自然に生き返るのかよ。


 いや確かに、自動修復してくれる身代わり人形なんて便利以外の何物でもないけど、愛が重すぎる、愛が。


 持っていてくださいっていった時の黒子お嬢さんも、ちょっと頬を染めて上目遣いなのが不安だ。

 物凄く霊力、というか魔力を与える事によって、自己修復以外に機能が追加されたりしないよね……?


 たとえば魔力同士が絡み合ってなんらかの契約が成立とか、そういうやつ。

 い、いや考え過ぎか。

 そうだよな、考え過ぎだよ。


 まさか彼女がそんな重要な事を隠している訳がないもんな、うんうん。


「わ、わかりました。それでは毎日霊力を分け与えておくことにします」

「はい!」

「それでは相談も済んだ事ですし、ひとまずご自宅まで付き添いましょうか? ボディガードがいるとはいえ、最近は九尾の眷属が大暴れしていて陰陽師として深い因縁がある黒子お嬢さんは危険でしょうし」


 黒服さんには申し訳ないが、九尾の眷属がその気になればちょっとやそっとのボディガードなど時間稼ぎにもならない。

 その事を良く知っているだろうし、俺が付き添った方が安全なのではと言った次第である。


 プライドを傷つける事になったとしても、結果お嬢さんが無事でいる事の方が彼らも安心できるだろうしね。


「あ、その事なのですが……」

「ん?」


 帰宅の話になったとたん、どう話を切り出そうか迷っているかのような雰囲気を出す。

 いったいどうしたのだろうか。


 すると今度は先ほどまで黙っていたミゼットが口を開き、理由を述べた。


「ああ、クロコなら私とおしゃべりしている間に、この部屋に泊まる事に決まったわよ。護衛の黒服は正直護衛として力不足だから、いてもいなくても同じね。令嬢の事は私達に任せて帰っていいわよ」

「えっ?」

「す、すみません斎藤様。ついついミゼットさんがご血縁の方だと思い、彼女が言うのであれば問題ないかなと思ってしまいました……」

「えっ?」


 えっ?

 う、うそーん……。



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