帰宅2
偶然知り合ったハリーさんとの邂逅を終えて自宅に戻ると、扉の前からやけに賑やかな会話が聞こえて来た。
それもミゼットと紅葉が二人で会話しているような雰囲気ではなく、もう少し大人数の人の気配を感じる。
俺のスキルに気配察知なんていう便利なものはないが、いつも二人と一緒にいるから会話のテンションなどで雰囲気が違う事くらいは分かる。
いったい何があったのだろうか。
まさか九尾の眷属が部屋に居る訳でもないだろうし、他に思い当たる人間がいない。
少し怪訝に思いながらも扉を開けると、中には黒服を従えた黒子お嬢さんがミゼット達と談笑していた。
「……ええ!? それではミゼットさんは斎藤様のご血縁の方ではなく、お弟子さんだったんですか?」
「そうよ、これでも神の一柱に数えられる存在からの戦闘の手ほどきも受けているわ。ケンジからも色々とね?」
「す、すごいですね! 日本国籍の方ではないみたいですし、海外の神というとその地域に根付いた土地神の一種でしょうか? 土地神は人々の信仰や龍脈の関係で生まれると言われていますが、そんな存在から手ほどきを受けたなんて、さすが斎藤様のお弟子さんです!」
……いや、なんでこうなった?
色々とツッコミたい衝動に駆られたが、一番気になるのは未だ異世界の聖騎士鎧を装着したミゼットが黒子お嬢さんに普通に受け入れられている所だ。
いや、おかしいだろその装備!
もうちょっと違和感持ってくれよ!
日本国籍じゃないなら海外の方ですか、っていう次元じゃないから!
完全に中世の人じゃん!
……と思いつつも、話が変な方向にこじれてないようなので、これはこれでいいかと思い直す。
「あら、ケンジじゃない。おかえり。クロコとの話が面白くて気配に気づかなかったわ」
「さ、斎藤様!? お、お邪魔させて頂いてます! 実は急遽確認したい事がございまして……っ!」
「ただいま」
あまりの光景に扉を開けてポカンとしていると、まず最初にミゼットが気づき黒子お嬢さんが続いた。
あまりにも自然に「あ、おかえり」みたいに言うからついこっちも自然に「ただいま」と言ってしまったが、黒子お嬢さんの急遽確認しなければならない事とはなんだろうか。
なんだかまたトラブルの臭いがするぞ。
「ところで紅葉はどこだ? あいつも部屋に残しておいたはずなんだが」
「ああ、そういえば隠れさせたまま出してなかったわ。モミジ~、もう出て来ていいわよ~」
ミゼットにそう言われると、何もない空間からヌッと頭だけ出現させ、生首のような状態で紅葉が顔を表した。
隠れていたなら仕方ないが、正直その現れ方はちょっとどうかと思うぞ。
色々とホラーだ。
「む、おにぎりの用意ができたと見える……」
「おう、ちゃんと食事は余裕をもって揃えて来たぞ。黒子お嬢さんが居る前で申し訳ないが、俺達はまだ食事をとっていないので先に食事にさせてもらいます。お話はその時に聞かせてください」
「え、ええ! 分かりました!」
どうせ電子レンジで温めてテーブルに並べるだけなので簡単だ。
とはいえおっさんの部屋にこれだけの人数が集まると、ちょっと狭いな。
まあ押しかけて来たのは向こうだし、多少の事は勘弁してもらおう。
というか正直なところ、金には余裕があるんだし新しい物件を探すのも悪くないな。
よし、この事は視野に入れておこう。
そして食事をテーブルに広げつつ、黒子お嬢さんが来訪した理由を聞く。
「それで、どういったご用件でしたか?」
九尾の眷属が最近大暴れしているとはいえ、来訪する理由としては弱い。
なにか今確認しなければならない大切な事があると思うのだが、俺にはその心当たりがないんだよな。
強いて言えば、ハリー・テイラーとかいうエクソシストがいってた「眷属による謎のおやじ狩り」の対象となっている事だろうか。
とはいえ、俺が直接狙われていると理解する材料が揃ってないだろうしな、その線はないだろう。
俺の真剣な表情を見て空気を読んだのか、先ほどまで楽しく談笑していたミゼットも眉を
「ええ、実は斎藤様と面会した前回から、ミニ黒子ちゃんの反応が弱弱しいのです。式神を通じた連絡によると、なにやら戦闘不能に陥るレベルの致死の一撃を受け、身代わりになって破損していると……。しかもその後また連絡が途絶え、以後通信できていない状態なのです……」
「あっ……」
そ、そういやそんな事あったなと思い、スマホアプリを開き収納物を確認する。
すると収納物の中にはこれでもかというくらいに目立つ赤文字で【ミニ黒子(状態:瀕死)】となっていた。
って、瀕死ってなんだよ、生きてる見たいに言うな。
この人形に救われたのは紛れもない事実ではあるが、やっぱりどこか呪われているのではないだろうか。
だって【破損】ではなく【瀕死】だぞ。
表記おかしいだろ。
ただ黒子お嬢さんが懸念している事はだいたい理解した。
以前こちらに紅葉を召喚した時には収納した状態のままミニ黒子ちゃん(状態:瀕死)を出現させてしまって、そこから現代に不要な装備として次元収納にしまいこんだのだ。
その時一瞬ミニ黒子ちゃんを現世に出現させてしまった事で黒子お嬢さんが破損を察知し、また次元収納した事で以後の連絡が無くなったという事なのだろう。
タイミング的にも辻褄が合う。
しかしどうやって説明したもんかな、まさか異世界で魔王と大陸の命運をかけて戦っていました、なんていう訳にもいかないだろうし。
俺がうんうんと唸っていると、今度は痺れを切らしたミゼットが口を開いた。
「なんの事かよくわからないけど、ケンジならついこの前まで魔王と戦ってたわよ。戦闘中に大ダメージを受けてたみたいだから、その時に破損したんじゃない?」
「なっ!? ま、魔王ですか?!」
「ブッフォォ!」
お、おい直球過ぎだろ!
この世界に魔王が存在するか分からないし、居たとしてもどのような扱いになっているか分からないが、いきなり魔王と戦いましたって言ったら絶対変な誤解が生じるって!
といっても、まだこっちの世界の常識を知らないミゼットに非は無い。
話を聞いていたらこういう反応になるのは必然だし、なるべくしてなったと思うしかないか……。
「身代わりのアイテムを創れるなんて私の知識には無かったけど、そういう事ができるって事はあなたはたぶん錬金術師なんでしょ? レベルはいくつなの?」
「……は? レ、レベルですか?」
「ちょ、ちょおーーーっとストップ! 待ったミゼット、その件に関しては口を慎んでくれ。ここは俺に任せてくれないか」
「え? ……うん、いいけど?」
危うく色々と喋りかけてしまう所だったので、とりあえず俺が会話の主導権を握るという事で無理やりケリをつける。
さて、色々大変な事になってきたぞ。
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