帰宅1
黒子とミゼットが自宅で異世界交流をしている最中、斎藤はそんな事もつゆ知らずにイギリスのエクソシスト、ハリー・テイラーから事のあらましを聞かされていた。
主に現状の妖狐たちに対する被害の報告と、その対策についてである。
ハリー自身も必中の一撃であるはずの銃弾を避けた斎藤がタダ者ではないと感じ、その力に期待しているのだろう。
語る彼の口ぶりは仲間に話しかけるように気安く、壁を感じないものであった。
◇
「……と、いう訳でだ。今はその
「ほ、ほほう……」
えー、現在わたくし斎藤健二は自身の置かれた状況に
日本とは違ってイギリスでは九尾が邪神と呼ばれていたりだとか、そういう細かいところはさておき、問題はあの九尾の眷属が俺を集中的に狙い都内で大暴れしているところだ。
いや、追っかけているおっさんというのが俺の事かどうかは知らないが、紅葉を通して妖狐姉妹と接点がある事を考えると十中八九俺の事だろう。
しかも奴らは既に人殺しという人間社会における最大の禁忌まで犯している。
幸いというべきかなんというべきか、ハリー曰く現在出ている死人は日本の癌とも言うべき悪人しか居なかったようなので、だからやっていいという事ではないが無害な一般人が巻き込まれる事は避けられた。
しかし奴らが思った以上に暴れているその報告を聞き、俺としてもあの姉妹を放置してしまった事に責任を感じざるを得ない状況である。
俺個人が恨まれるような悪さをした覚えはないので責任を感じるのは思い上がりかもしれないが、それでもここから先放置する事はできないだろう。
強い善性を持つ紅葉の姉妹だと思って少し油断していたが、今後相対した時は躊躇なく倒す覚悟がいるかもしれない。
ちなみに、この情報をくれたハリーというエクソシストは日本政府直属の異能者集団、その秘密結社に直接雇われて来日していたようだ。
ところどころに会社の買収の時に協力してくれた黒子お嬢さんの友人、
余談だが、彼自身の戦闘力は鑑定してみたところ驚く事に、レベルという概念が無い地球人であるのにも関わらず、戸神源三の爺さんを越えるレベルにまで昇華されていた。
こんな凄腕の傭兵がいるのにも驚いたが、もっと驚いたのは海外には吸血鬼なる怪異が存在するらしい事だ。
ただでさえ九尾や妖怪で実は地球もファンタジーだったんだなと思っていた所に、まさかの吸血鬼である。
いったい一般人の知らない世界の裏側で何が起こっているのだろうか。
話を聞くにそうそう吸血鬼と遭遇するような事はないし、一見すると人間と全く見分けが付かないとのこと。
さらにどこの国も魔術結社が神秘をひた隠しにしている事から今までバレなかったんだろうけど、ほんと色々と驚愕したよ。
「それで、サイトウはこれからどうする? 俺様はこの辺りの悪霊を排除しつつフォックス達の襲撃に備える訳だが、正直言って眷属の数次第では任務の失敗もありえると踏んでいる。……俺様の直感的にあんたの力を借りられれば、だいぶ戦いは楽になるはずなんだがぁ」
そう語るハリーは俺をベタ褒めしながらも、あまり強引な手段を取らずに提案する程度で勧誘してくる。
本人の直感とやらが本物だとすれば、たぶん今すぐ手を組めそうにない事は理解しているのだろう。
その態度からはまあ声を掛けてみるだけ掛けてみた、程度の雰囲気しか感じられなかった。
「いや、ちょっと今の話を聞いて緊急の用事を思い出した。悪いがすぐには協力できないな」
「だろうな。まあ、とりあえず聞いてみただけだ。それじゃな」
「ああ、情報感謝する」
そう言ってハリーは拳銃をコート内側のホルダーにしまい、飄々とした雰囲気で去って行く。
さっぱりとした性格の奴だったな。
「……さて、それじゃさっそく買い物だけ済ませて急いで自宅に戻らないとな」
急いでいる理由は何を隠そう、俺をつけ狙った姉妹達が暗躍しているというのならば、次に問題が起きるとしたら紅葉のいる俺の自宅だからだ。
なにせ彼女ら姉妹はお互いの居場所を感知できるからな、発見され追跡されるのも時間の問題だろう。
とはいえすぐにやってこれる程近くにいるとも限らないし、俺と近い戦闘力を持つミゼットがいれば大抵の妖狐に後れを取ることはないだろう。
しかし戦闘になる可能性がある以上、日本の常識を知らないミゼットが本気を出してどんなトラブルを引き起こすか分からないので、早めに帰宅する事にする。
「とりあえずコンビニで紅葉用にツナマヨとシャケ、昆布おにぎりあたりはカバーしつつ、ミゼットのためにハンバーグ弁当を買っておくか」
その後、レベルアップによって常人離れした身体能力で建物の屋根を伝い、近道をしながら要件を済ますのであった。
……というか深夜の街中で屋根を伝いながら近道って、我ながらやる事がとんでもないな。
大道路を隔てた建物と建物の間をピョンピョンしちゃってるよ。
レベルアップすげー。
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