魔王討伐6
空から数多の光剣が降り注ぎ、余裕をもってブレスを放とうとしていた魔王に次々と命中し、行動を阻害する。
一つ一つの威力もさることながら、その圧倒的な弾幕によって反撃の隙を与えない超攻撃的な戦法は確実に相手の体力を削っていく。
いったいこの土壇場で何が起こっている……?
すると流星群のように降り注ぐ光剣の中から、一人の少女が舞い降りて来た。
息をつく暇のない弾幕によってもうもうと立ち込める煙の中、俺の目の前に着地した少女はその美しい金髪の髪を
あれ、この顔どこかで……。
「助けに来たわよケンジ! ここからはこのミゼット様があなたの力になるわ!」
「ミ、ミゼットお嬢様!?」
現れたのはなんと、5年の時を経て成長したミゼット・ガルハートだった。
確か聖騎士になったと聞いていたが、どうしてここに?
いや、それよりもあの聖剣招来の数はなんだ。
今の俺ですら再現できないぞあんな超弾幕。
「……違うわケンジ、私はもうお嬢様じゃないの。あなたの剣にして盾となるため聖騎士となった、ただのミゼットよ。家も立場も関係ない。それだけの為に私はここまで来た」
「…………」
「だからこれからはお嬢様じゃなくて、……『ミゼット』と、そう呼んでちょうだい。私はそれだけで、あなたを守り抜く一人の騎士として命を懸ける事ができる」
お嬢様、……いや、ミゼットは覚悟を感じる瞳でそう語る。
……なるほど、俺は少し彼女の事を見誤っていたようだ。
5年の歳月はただの暴走幼女だったあの頃のミゼットを大人にするには、十分過ぎる月日だったという事だろう。
そう思った俺はもう、どこまでも真っすぐなその答えに彼女がなぜここにいるのかとか、一体どこまで強くなったのだとか、そんな事はどうでもよくなった。
何があったのかは聞かない。
なぜなら俺はずっと傍に居なかったし、5年前に姿を消してから彼女は一人だけでここまでやってきたのだろうから。
どんな想いで苦悩し壁を乗り越えて来たのか、それを聞く権利を持たないのだ。
しかしそんな彼女が俺のために駆けつけ、力になるために名前を呼んで欲しいと願うのであれば、どうするかなど決まっている。
俺はただ、こう答えるだけだ────。
「この大陸を救うために、そして俺の目的のために力を貸してくれ、ミゼット!」
「ええ、任せてちょうだい!」
呼ばれた瞬間、ふわりと花が咲くような笑みを見せる。
そして光剣と光盾を出現させ、背後を守るような位置取りで魔王に振り向いた。
見たところ剣の出力は控えめであり、盾の出力は最大限。
既に俺がどうして欲しいか分かっているかのようなその対応に、思わず苦笑いする。
きっと時間を稼いでくれなんて言わずとも、最初からそのつもりなのだろう。
なんて心強いパートナーだろうか。
「ケンジ、私の事は気にせずに思いっきり大技を決めちゃって。大丈夫、例え相手が誰であろうとも、あなたの剣は決して折れない。絶対に守り抜いて見せるから」
「分かったよミゼット。それじゃ、宜しく頼む」
上級職にすら匹敵するかもしれない華麗な剣技と出力を兼ね備えた聖騎士のスキルが、再び魔王を襲う。
最初の不意打ちが効いていたのか、奴の体表には降り注ぐ攻撃によりあちこちに傷がついていた。
これだけダメージが蓄積していれば、向こうもすぐにブレスなどの大技に転じることはないだろう。
その隙を突かれたらたまったもんじゃないだろうしね。
さらに、正体を引き摺りだすために魔力を使い果たしてくれたアーガスはともかく、そろそろ剣聖も復帰してくる頃だろうし、安心して職業の融合を待つ事ができる。
完璧な布陣だ。
今すぐ戦闘に参加できないのは口惜しかったが、それも少しの辛抱だった。
復帰した剣聖とミゼットがタッグを組みながら魔王との戦闘を繰り広げる中、ついに職業の融合が成功する。
「これが、特殊な複合職『悪魔』の力か。……なるほど、こりゃ確かに一筋縄ではいかないな」
パラメーター的には攻撃力と魔力に超特化といったところだろうか。
聖騎士が満遍なく強化されるのに比べ、確かにピーキーではある。
補正の総合力では聖騎士に大きく軍配が上がるだろう。
ただし、この職業における真の特異性はそこにはない。
問題はスキルの方だ。
覚えたスキルの名は『死の宣告』。
6の数字から始まり1の数字で終わる、相手からすれば絶望へのカウントダウンだ。
あまり力が開きすぎていると即死ではなく大ダメージで終わるだけのスキルらしいが、それでも相手の防御力を無視して痛恨の一撃を与える事になるだろう。
一発撃つのに魔力を大量に消費するし、さらに秒読み中は他のスキルが使えないといったデメリットはあるものの、今の状況では後衛職として最適解に近い能力である。
「それじゃ、発動させてもらうぞ。カウントダウン『6』……」
剣聖が魔王の体表に傷をつけ、反撃をミゼットの聖盾招来で防ぐ。
「カウントダウン『5』……」
このままではまずいと思ったのか、一撃の威力を重視した隙の多いブレスではなく、散発的な小規模魔法に切り替え戦闘を行い始める。
中々知恵を絞って戦っているが、決定打にならない故に時間稼ぎの絶好の的だ。
また、時間が経った事で魔力が小回復したのか、アーガスの奴も援護に回り始めた。
「カウントダウン『4』……、『3』……、『2』……」
進む秒読み。
あと少しだ、あと少しで切り札が決まる。
耐えてくれ三人共。
そして、ついにその時はやってきた。
「カウントダウン『1』……、『0』……!! スキル発動、『死の宣告』!!」
彼らが未だ激しい戦闘を繰り広げる中。
正真正銘、最後の切り札が発動した。
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