魔王討伐4
賢者の熱閃魔法が飛び交い、剣聖の剣戟が舞い、俺の光弾スキルが雨のように降り注ぐ。
戦闘開始から数刻程が経つが、こちらの攻撃が何度も直撃しているのにも拘わらず、魔王の体力が削れている気配はない。
元々の耐久力に対し攻撃力との差が広がり過ぎているのか、もしくは何らかの魔法を駆使しているのかは分からないが、全く手ごたえが無いのだ。
もし相手がやせ我慢しているだけであれば、同時に『魔力強奪』スキルを併用している俺に魔力が還元されるはずだが、光弾が命中しても微塵も奪い取れた様子がない。
つまりダメージが無いという事だ。
「アーガス、これってヤバいんじゃないのかな?」
「……かもしれんな。しかし、ここで引くわけにはいかない」
「まあ、それはそうなんだけどね」
そう返答を返すが、さすがにこの男といえど焦りが徐々に見え始めている。
御供の複合職達は既にボロボロだし、このままでは手傷すら与えずに終わることになるだろう。
そうなれば、後方で足手まといにならぬよう待機している騎士達だけでは抑えが効かない。
騎士の中でも団長クラスや副団長クラスといった、トップクラスに強い方々ならばまともに援護もできるだろうけど、ここで消耗してしまうと俺達が倒れた時に一気に戦線が崩壊してしまう。
あくまでも彼らは第二陣として控えている、というのが今回の作戦だから援護は期待できない。
だが、上位職の力はそもそも魔王に及ばずともそれなりに迫るモノがあったはず。
なのにかすり傷一つないなんてのはおかしいし、明らかに異常だ。
だとすると、何かカラクリがあるのかもしれない。
ダメージを与えるなんらかの切っ掛け、もしくは無敵足りえる仕組みさえ分かればまともな戦闘になるのだが、はて……。
何か無敵たり得る理由があのるかと思い、ダメ元で『魔力知覚』を意識的に使ってみることにする。
奴が何の種族の魔王なのかは鑑定では分からなかったが、能力を使うには代償となるエネルギーが必要だ。
だからこそ魔力さえ知覚してしまえば、その根源たる異変が見えてくるのかも、という発想。
すると急に世界に新たな色、魔力の色のような色彩が目に映りはじめた。
なるほど、このスキルって意識的に使うとこうなるのか、便利だ。
「……何をやっているんだケンジ」
「ん? いや、ちょっと魔力知覚を使って相手の正体を探っているところ」
「魔力知覚だと? その力はハイ・エルフだけに伝わる種族固有の能力ではなかったのか?」
いや、知らんし。
というか俺の方こそハイ・エルフが魔力知覚を使えるなんて初めて知ったよ。
しかし今はその情報はどうでもいい、とにかく相手の正体を探らなければ。
そして知覚によって新たに視認した景色を元に魔王と景色を交互に見比べると、とある異変が見つかった。
なんと奴を包み込む瘴気の根源が、地中深くから溢れ出してきているのである。
それこそ本体が大地なんじゃないかと錯覚する勢いで溢れ出し、瘴気そのものが人の形を作って今もなお剣聖と戦闘を繰り広げていた。
なるほど、そういう事だったのか。
あの人型はただのデク人形であり、本体は地中に潜み人形を操っているだけだったと。
だからこそ地中から場の全体像を把握しているため、最初の奇襲にも気づけたし、ダメージも負わなかったという訳である。
俺の創造神としての違和感も、ここまで広い盤面で展開されると場所の特定ができない。
全体が瘴気で満たされている訳だから、どこもかしこも瘴気ばかりで認識のしようがないしね。
そんな中、囮となる人形の瘴気を意図的に濃くしておけば、個体として目立つのはあのデク人形という訳である。
「よし、無敵足り得る理由が分かった。あの魔王の本体は地中深くに眠る巨大な何かだよ。引き摺りだすには高威力の土魔法で大地を掘り起こすしかないけど、できる?」
チラリと横目で確認する。
ピンポイントで正体を見破った事で一瞬動揺したのが見て取れたが、アーガスはすぐに持ち直し不敵に笑って見せた。
「……お前という奴は、簡単に言ってくれるな。しかし可能だ。地形を変えるほどの魔法を使う以上、使用後に俺の魔力はほぼ空になるだろうが、やらなければどちらにせよ敗北は必至。ならばやるしかあるまい」
そりゃそうだ。
相手がいかに強大だろうとも、やらねば死あるのみである。
「エンチャントマジック・ブースト。マキシマムオーラ。グレーターエンチャント・ザ・アース。パーフェクトマジック…………」
アーガスは次々に謎のバフを重ね掛けし、魔法の威力を底上げし続ける。
あまりにもバフを掛け過ぎて、全身が光輝いているように見える程、凄まじいエンチャントの効果だ。
というか魔力さえ消費すればここまでの底上げが出来たのか、すごいな上位職。
相手への手ごたえが無かった故に、消耗を抑える為今まで本気じゃなかったのが丸わかりである。
その後様々な能力加算を行い、全ての魔法を駆使し終えたところでついに賢者アーガスの本気の魔法が発動した。
「…………正体を拝ませてもらうぞ魔王、アースクエイク!!」
発動した瞬間、地響きが鳴り大地が裂ける。
その裂け目の規模は城下町にすら及び、まるで天変地異のような有様だった。
しかしその甲斐あってか、大魔法が引き起こした大きな揺れはいとも容易く地中に眠っていたデカブツを引き摺り出し、正体を露わにする。
『ォオオオオ………』
デカブツの姿は漆黒の体表に鱗が重なり合い、角を生やした大トカゲ。
……そう、ドラゴンだ。
それも世界創造の頃からかなり見覚えのある、東洋の龍を思わせる細長いフォルム。
原始龍である。
「なるほど、原始龍が祖となった魔王だったのか。というと、初期の頃に魔神についた一柱かな?」
初対面のはずだが、こうして実物を見ると感慨深いものがある。
「おい、今の大魔法で既に俺の魔力はほとんど空だ。魔法の維持にも限界がある。……仕留めるなら早くしろ」
おっと、それは済まない。
とりあえず先手必勝という事で、攻撃を加えてみようか。
ここは出し惜しみ無しだ。
こちらも大魔力を込めた『聖剣招来』でお相手しよう。
「剣聖、そして御供の皆さん、今から全力で聖騎士のスキルを使う! 一旦引き下がってくれ!」
「任せな!」
ボロボロになりすぐに動き出せないメンバーを剣聖が拾い上げ、地割れに巻き込まれないようにしながらこちらへ引き返してくる。
……これで準備はオーケーだな。
「……まず一発、デカイのいくぞ! もってけ俺の全魔力、『聖剣招来』!!」
スキルを発動させると、全長10メートル規模の光剣が出現する。
命まで懸けた攻撃じゃないから以前本気で出した時よりかなり小さいが、それでもダメージソースとしては十分だ。
俺はそのまま剣を振り降ろそうとし、攻撃のモーションを見せる。
────すると。
『ガァァァアアアア!!!』
「うお、マジか! 向こうもブレスで迎え撃つつもりかよ!」
────振り下ろした聖剣と魔王、もとい原始龍のドラゴンブレスがぶつかり合った。
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