魔王討伐3
全員の準備が終わりようやく魔王を討伐することになった訳だが、正直言って勝てる見込みは半々といったところかもしれない。
アーガスの談によると、相手は賢者と剣聖二人がかりでも手傷を負わせるのが精一杯といった戦力のようだし、決して楽観視はできないだろう。
ただし勝算はある。
なぜならばここは王城の中であり、こちらの総力を尽くして魔王を討伐できなかったとしても、手傷を負った魔王が逃げおおせることはできないからだ。
騎士達では勝てないかもしれない。
しかし、消耗した相手ならば持ちこたえる事はできるだろう。
そうなれば後は増援が駆けつけてくれるまで持久戦を仕掛ければいいだけであり、甚大な被害は出るだろうが問題そのものは解決するという訳だ。
ただし、それは最悪のケースなので、できれば回避したい事柄でもある。
俺は不死身だし、紅葉は逃げ切れる。
だが賢者と剣聖が責任を放棄するとは思えない。
そうなれば彼らは死ぬまで戦うだろう。
だからこそ、なるべくならば勝たなければいけない戦いであることも事実なのだ。
そして文官に偽装した魔族、もとい魔王の潜む部屋まで赴くと、アーガスは事前に用意していた魔法を発動させた。
「アースウォール。エンチャントマジック・ブースト。……メテオスマッシャー」
膨大な魔力から解き放たれた土属性の連続魔法が決まる。
俺は魔法について全く詳しくないので何が起こったのか目で見た事しか判断できないのだが、アースウォールで個室の外側にある庭を強固な土壁で囲い、逃げ道を無くした上で空から小さな隕石を落として城の一角を爆破したらしい。
やる事がえげつないなおい。
一応この一角に人が居ない事は承知しているが、金銭的な被害が凄そうである。
するともうもうと立ち込める土煙の中、声が聞こえて来た。
「おやおや、誰かと思えばあなた方でしたか。これはまた、ずいぶんな歓迎ですね……。ああそれと、お久しぶりでございます」
小隕石が命中したにも関わらず、何事も無かったかのように出て来た謎の男。
見た目はただの人間にしか見えないが、この大惨事において服装に塵一つない事の違和感がすごい。
明らかに異常である事が窺える、そんな戦闘力だ。
プレッシャーもさることながら、城壁の一角が見る影も無く崩れ去る程の威力を浴びて、無傷はないだろ。
ちょっとだけ予想以上である。
こんなのどうやって倒せって言うんだ。
いやまあ、それでもどうにかして倒すんだけどね。
それから魔王は上位職の二人に余裕の笑みで挨拶を終えた後、ようやく俺に気付いたかのように視線を向ける。
「おや? お二人とは以前から面識がありましたが、あなたは初めましてですね? どうもこんばんは。それにしても、ふむ、子供ですか……。なるほど、そういう事でしたか」
何を理解したのかうんうんと頷き、やれやれといった表情を浮かべる。
たぶん何か勘違いしているぞこの男。
「私の存在が何故バレたのかと少々疑問でしたが、恐らく原因はこの少年の職業。……預言に関わるスキルによるモノですね? 創造神の加護により、人間という種族には厄介な能力が備わったようですから、こういった不思議な現象にはそれを当てはめるのが一番根拠となり得る。それに、以前にもそのような人間を見た事がありますからね。……まあ、すぐに殺しましたが」
惜しい、惜しいけどハズレだ。
俺は職業補正によりサーチしたのではなく、世界を創造した
一々教えてはあげないけどね。
「だがあなた方も人が悪い。ただ私を察知するためだけに、このような無垢な少年を連れ出し戦いに巻き込むなどと……。その少年、戦闘が始まれば確実に死にますよ?」
大丈夫です、死んでも生き返ります。
というか、この二人を相手にどこまでも余裕だな。
まさかこちらの心配をしてくれるとは思わなかったぞ。
だけどぺらぺらお喋りをしている間に、もう二人は臨戦態勢に入って準備を終えてしまっている。
実力があるからこそなんだろうけど、さすがに悠長すぎたんじゃないかな?
「寝言は寝て言いな。オラ、一発目いくぜ」
剣聖が正面から躍りかかり、御供の複合職が隙をついて背後を取る。
正面からは六本の剣が自由自在に動き回り、一つ一つが達人以上の巧みさを備えた剣戟が魔王を襲う。
背後からは同時に攻撃をしかけられているし、これはいくらなんでも避けきれないんじゃないかな。
「んんー。実に素晴らしい連携ですね。以前見た時よりもさらに洗練されているような気がします。しかし、やはり人の身では私に届かない」
魔王はこともなげにそう語り、指をパチンと鳴らすと一撃で背後の者達を吹き飛ばし、瘴気に満ちた黒い爆発で包み込んだ。
さらに剣聖の6連撃全てをステップで避け続け、ノーダメージで奇襲を回避する。
あまりにも戦闘のレベルが高度すぎて、正直どこで割って入っていいか分からないが、このチームでの俺の役割は中衛。
前衛である御供の皆さんと剣聖が戦線を維持している限り、無暗に前へ出る訳にもいかないだろう。
という事で、とりあえず瘴気の爆発によって傷ついた複合職の皆さんを回復魔法で癒しつつ、光弾で牽制を行う。
「ほう? 少年は聖職者関係のスキルも使えるのですね? ……その歳のヒト族にしてはずいぶんと優秀だ」
「褒めても何も出ないぞ」
いや、実は褒められてちょっと嬉しかったけどね。
俺だってチート気味とはいえ、何の努力も無しにここまでの力を身に付けた訳ではない。
リプレイモードでの死闘を延々と繰り返し、ようやく得た力なのだ。
まあ死の危険が無いという意味では温い事に変わりはないが。
「素晴らしい。きっとあなたはその領域に達するまでに数々の試練を乗り越え、努力を重ねて来たのでしょう。……しかしそれだけに惜しい。あなたが創造神の創り出したヒト族であるかぎり、決してさらなる高みに到達する事はできない。……決してね」
そう笑う魔王の表情はどこか自嘲気味で、世界に対する諦めの念が混じった声色であった。
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