魔王討伐2
突然の訪問に少し動揺したが、王様がなぜ頭を下げて俺に懇願しているのかは分かった。
確かに百年後の未来ではヒト族と亜人の戦争は収まっていなかったし、それがよりエスカレートしてしまったことで大陸全土にまで被害が広がっていた。
おそらくあの未来では賢者アーガスは戦争を止めるのにも、そして魔王を討伐するのにも失敗してしまったのだろう。
原因となった魔王が龍神か勇者に討伐されたとしても、あまりにも弾圧の期間が長ければそれは遺恨となって人々の心に残るし、本当の意味での問題解決とは言い難いからな。
……しかし、今のこの時代には未来の存在を知った、俺という存在がいる。
「頭を上げてくれよ王様。頼まれなくたって魔王は討伐するし、この国に遺恨だって残さない。……それにさ、一応神だとバレちゃってるから正直に話すけど、俺は今日までに起きた全ての問題に対し、誰かが間違っていたなんてこれっぽっちも思ってはいないよ」
なぜならこの世界は俺が生み出したものであり、魔族だってストーリー上勝手にエラーとして発生したものだ。
もはや最初から起きる前提のエラーがあったとしか思えない。
そんな中で魔王の仕様が悪いとか、人の身に余る力を持った魔王相手に暗躍を防げなかった王が悪いとか、その他誰々が悪いとか、そんなのはありはしないのだ。
もし誰かに責任を押し付けなくてはならないのだとしたら、それは全てを創りだした俺にあるといっても良いくらいである。
アプリの事を伏せながら大まかにそういった事を伝えると、王様はなぜかさらに頭を床に擦りつけながら声を震わせた。
これではまるで懺悔だな。
「なんと、なんと慈悲深き人の神なのか……。よもやこの私の罪を許すばかりか、魔族にすらその愛をお与えになるとは……」
うーん。
そういうんじゃないんだけどなぁ。
まあ、納得してくれたのならそれでいいか。
「分かってくれて嬉しいよ。ただかといって、このまま暴れまわる魔王を放置する事はできないけどね。……激しい戦闘になると予想されるから、なるべく被害を少なくするために城の守りの方は騎士達に任せたよ」
「当然でございます神よ。この私に出来る事であればなんなりとお申し付けください。それで私の罪が無くなる訳ではないとしても、御身に許された以上、最大限の仕事はして見せます……」
そう言って王様は再び頭を下げ、多少勘違いはあるものの話はまとまり退出していった。
いやぁ、疲れたわ。
しかしアレだな、職業補正の関係で俺の正体がバレるとは思わなかった。
あの王様が神である俺を政治利用するような人間とは思えないが、これからは正体を隠す方法を何か考えないといけないな。
一々畏まれたんじゃ気楽に旅もできないよ。
「終わったのかえ?」
「ああ、とりあえず話は終わったな」
「ふむぅ……」
紅葉は何故か腕を組み考え込む。
なんだ、ずっとゴロゴロしてるだけかと思ったら話を聞いていたのか。
「のう
「そうだなぁ……。そりゃこういう状況から甘い汁を啜り、利益を享受している人もいるだろうけど。だいたいの人は困っているんじゃないのかな?」
「やっぱり、そうなんじゃな……」
なんだ、いつものビビリ妖怪らしくない神妙な面持ちじゃないか。
一体どうしたっていうんだ。
「のう、儂ってずっと人間には煙たがられてきたじゃろ?」
「そうらしいな。過去に色々悪さしたんだから、それは仕方ないだろ」
「うむ。それに人間だけじゃなくて、
ふむふむ。
全く話が読めない。
「そうなのか。それは災難だったな」
「うむ、うむ。災難だったのじゃ。でも、この世界は違った。町の皆は妖怪なのに善くしてくれるし、
紅葉は額に脂汗を滲ませながらも、逃げたくなる衝動を抑えるように眉間に
なるほど、そう言う事か。
王様のあの深刻そうな態度を見て、こういう時こそ何もしないままだと心残りが出来ると。
そう言いたいんだな。
やっぱりこいつの本質は善良だな。
かなり怖がりなところはあるが、いざという時に大切な事を見極めようとする心がある。
とはいえ、魔王相手に紅葉の力が通用するとは思えない。
しかしだからといって、次元収納したままでは本人のためにもならないだろう。
……さてどうするか。
そこまで考えた俺は、ある事を思いつく。
そうだ、あの身代わり人形を持たせておけば安心じゃん、という事に。
さっそく取り出す。
「む、なんじゃそれは?」
「これは身代わり人形だ。陰陽師が使うアイテムの一種だな。これを持っておけば死ぬような攻撃を受けても、一度だけ無かった事になるらしい。……だから紅葉はこれを持って隠れ潜み、戦闘に参加しろ。そうすればより安全が確保できるはずだ」
それを聞いた紅葉は「おおっ!」と喜色満面の笑みになり、自分の死が遠ざかった事で嬉しそうにはしゃぐ。
この世界での俺は不死身だから必要のないものだったし、ちょうどいいタイミングで入手出来て良かったよ。
「いいか、だからといって無理に攻撃に参加しなくていいからな? あくまでそれは保険だという事を忘れるなよ」
「当然じゃ。儂とて無駄死にはごめんだからのう。無暗に突っ込んで死んでしまうなど、絶対避けて通りたい道じゃよ」
まあそうだよな、このビビリ妖怪がそう簡単に命を軽んじる訳がなかったか。
どうやら最後の言葉は要らぬ心配だったらしい。
こりゃ俺の過保護ってやつだろう。
よし、それじゃ作戦も纏まったようだし、そろそろアーガスと魔王の討伐に赴くか。
ちょうど隣の部屋でも会議が終わったのか、こちらの部屋の扉をノックする音が聞こえて来た。
いっちょこの大陸の未来とやらを、救って見せるとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます