他大陸へ2
船に乗り込んでしばらく、早2週間程が過ぎた。
もうすぐ隣大陸にある目的地の大国に着くはずだ。
この長い船旅で主に魔王討伐のための作戦会議、もといそのおさらいのようなものが日夜繰り広げられ、向こうでこちらが動き易くなるための工作員として働くメンバーの方々から、実際に突撃を行う実動隊のメンバーまでが勢ぞろいで話し合いを行っていた。
その結果分かった主な作戦内容としては、まず工作員の方々が賢者アーガス率いるメンバー全員の入国、その手続きの偽装工作を行う。
これは魔導対策本部が動いたと思わせないための布石らしい。
次に王都に乗り込んだ実動隊が高位冒険者に偽装して、向こうの都市で既に下準備を終えている魔導対策支部から王城への入場許可、その招待を得る手筈になっている。
恐らく他国の高位冒険者が、国への士官を求めて来たとかそういった段取りを考えているのだろう。
また、この招待を使っての入場に関しては既にいつでも起用できる段階らしく、大陸を跨ぐほどの距離がある故に大国としては1年程の猶予を見積もっていたらしい。
つまりアーガスが俺を本部に招待しようとしていたギリギリの時間だ。
このことから、最初からこの男はこちらを作戦に組み込むつもりでいたのが明白となった。
いつから計画を練っていたのかしらないが、もし訪問しなかったらどうなっていたのだろうか。
きっとあの手この手を使って協力関係を結ぶつもりだったのだろうけど、色んな局面で布石が多すぎるなこの男は。
そして最後になるが、王城への入場後は俺の魔族感知能力を駆使して魔王を見つけ、戦闘に突入するといった流れになる。
これで魔王を見つけられませんでしたなんてなったら計画が破綻する事になるが、アーガスはその事については何の心配もしていないらしく、こちらの能力の精度を確信していた。
まあ確かに創造神として覚えた違和感が今まで外れた事がないので自信はあるが、よくこの大事な局面で他者を信じられるよ。
俺だったらビビって尻込みするね。
という訳で今回の流れはこんな所だ。
この船以外にも工作員や戦闘員はバラバラに展開して隣大陸を目指しているらしいが、概要は同じようなものだろう。
別の船には剣聖とかいう近接戦闘特化の上位職が乗船しているとも聞いたが、今のところは詳細不明。
そのうち顔合わせする事にはなると思うので、その時にどの程度の人物なのか鑑定をしかけてみたい。
「うぅ~、もうダメなのじゃ。この船とかいう乗り物は儂を殺しにかかってきておる、うぷ……」
「もうすぐ目的地だからそこまで頑張れ紅葉」
「む、むりぃ……。お、おえええええぇぇぇ!」
ダメだ、めちゃくちゃ酔ってるわこの妖怪。
それから船の甲板で海に向かって吐く紅葉の背中をさすっていると、数刻もしないうちに目的地である大陸が見えて来た。
ついに到着らしい。
乗組員は到着すると何食わぬ顔でアーガス達の身分を詐称し、偽のギルドカードを持って入国していく。
ちなみに俺の分の偽物は存在していなかったが、こちらは元々無名なので偽装する必要はないらしい。
「さてケンジ、……そしてモミジだったか。これからお前達を含め王都に向かう訳だが、先に討伐部隊の自己紹介をしておこう。これからはこのメンバーが一塊となって行動し、王城へ招待される予定だ」
そう言って紹介されたのは実行部隊チームの筆頭となる責任者アーガスと、そして腰に6本もの剣を携えた謎の男、そして乗船するまでに今回の事を色々と教えてくれた御供の皆さんだ。
全員で5人、つまり俺と紅葉を入れて7人だ。
かなりの大所帯のように見えるが、基本紅葉は戦力外だし荷物持ちみたいな役割を担っている雰囲気でいくらしいので、実質招待されたメンバーは6人。
冒険者チームとしてはちょうど満席といったところだろう。
すると剣を6本携えた男が話かけてきた。
顎をさすり、なんだか品定めをするような雰囲気がある。
「……お前がアーガスの言っていた子供か。確かに、ちょっと若すぎるな。しかしこれだけ若いうちから魔族事件の解決に一役買ったとなれば、そりゃぁこの偏屈な賢者様も気に入る訳だ。宜しくな、えーと、……ケンジだったか?」
「宜しく。ところでそういうあなたは?」
向こうは俺の事を知っているようだったが、あいにくこちらは全くの初見だ。
まあ、アーガスの紹介では最高戦力の一人だとは窺ってはいるので、だいたいの予想はついているけどね。
未だ気持ち悪そうにしている紅葉の背中をさすりながら聞き返すと、男はこりゃ失礼した、とおどけながら自己紹介を始める。
「俺はこの賢者様に助っ人を頼まれている近接戦闘最強格の一人、つまりは剣聖だ。よろしくな。ケンジは聖騎士の職についてるっつう話だから、後で模擬戦でもやってみようぜ。そうすりゃ言葉で自己紹介を交わすよりも相手の事が分かるはずだ」
やっぱり剣聖だったか。
とりあえず鑑定を掛けてみると、結果はアーガスの時と同じく底知れないとかそういう表記になった。
あれからだいぶ神殿で修行して差は縮まったと思ったから、鑑定結果にも期待できると想定していたんだけどな。
上位職の力に追いつくのはまだまだ先らしい。
レベルさえ上がってしまえばかなり拮抗する戦いになるのだろうけど、なにせ上位職は生まれた時から上位職だ。
故にレベル上げという面で鍛え上げて来た時間と労力が違い過ぎる。
いくら職業補正が3つあるとはいえ、そうそう簡単にはいかないということだろう。
「模擬戦か……。まあ、時間があればそのうちね」
「おう、約束だぜ。俺は十数年前からこの賢者様とつるんで行動しているが、あいつがあそこまで気にかけていた人間を見るのは初めてでな。ちょっと期待してるんだよ」
へー、あのアーガスがねぇ。
人は見かけに寄らないものだ。
「無駄話はその辺にしろ。ケンジ、この脳筋のせいで作戦に支障が出るようなら俺に言え、対処する」
「ははっ! 照れるなよ賢者様、俺の眼からでもこのケンジとかいうガキは異質に見える。お前の判断は何も間違っちゃいねえぜ?」
「……チッ、面倒くさい奴だ」
そう言って面倒くさそうに話を打ち切り、付きまとう剣聖を無視しつつ、さっそく王都への馬車を手配する事になった。
さて、異世界へ来て王都とやらに赴くのは初めてだが、のんびりしている暇はなさそうだな。
亜人弾圧が激しいというのなら紅葉にも姿を消してもらうことになるだろうし、さっさと魔王を討伐して解決を図りたいものだ。
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