異能喫茶準備


 本題へと移るため、とりあえず話を切り出す。


「あー、それでなんだけど」

「何ですの!? まだ他に何かありますの!? あなたはビックリ箱か何かですか!?」

「いや、何かあるという訳ではないんだけどさ。せっかくこうして力を貸してくれている訳だし、ついでかな。……実は俺みたいなハグレ者を専門にした喫茶店を開こうと思ってるんだよ」


 もちろん会社の経費で。


 そう伝えると西園寺さんは急に冷静になり、宮川を一旦退室させた後、真顔で話しかけて来た。

 どうやらハグレ者、という言葉でだいたいの事が伝わったようだ。


「……先ほどは御見苦しい姿をお見せしました。それで、あなたの言うハグレ者とは要するに、野良の異能者を相手にした喫茶店を開業したいという事ですのね?」

「ま、そう言う事かな。ちょうど異能者向けに良いアイテムを個人的に所有していてね、売買する先を探していたんだよ」


 そう、実は何を隠そう、クリエーションモードで創造した装備の売り場所を探していたのである。

 なぜそれをわざわざこの世界でやろうとしているのかというと、この世界には恐らく職業補正による鑑定という異能が存在しないため、創造神の加護が付いていたとしてもバレないだろうからだ。


 今回集めた財宝のように、誰の手に渡るかも知れない物だとどんな化学反応を起こすか心配ではあったが、相手を異能者に限定するならば話は別だ。

 紅葉の件で職業補正の無い者には純粋な成長加速を促すことが実証されてるし、見極めた異能者個人個人にであれば、多少はアイテムを流しても良いだろうという結論に達した。


 俺の創造したアイテムは妖怪退治において有益な武具となるだろうし、力を貸してくれた戸神家への恩返しという面も含まれている。


 そして何より、この世界の異能者にどういった者がいるのかとか、そういう事に興味があるんだよね。

 こうしてアイテムを餌に闇の喫茶店でも営業すれば、色々な存在が釣れるはずだ。

 実は結構楽しみだったりする。


「事情は分かりましたわ。しかし成程、黒子が私に無理を言って協力を要請したのはこの為でしたか。大妖怪との決戦が近い今、こうしてこの男の認識を利用し……」


 なんか色々深読みしているけど、まあだいたいズレてるから聞き流す。

 だが西園寺さんとしても乗り気になってくれたようなので、とりあえず作戦の第一段階は成功といったところだ。


「分かりましたわ。それではその件に関して、私共の組織と戸神家が共同で手配をさせて頂きます。一応はこの会社の事業の一環になるでしょうけど、宜しいですわね?」

「ああ、その方向で頼むよ」


 そう言って彼女は社長室を後にし、立ち去って行った。

 さてさて、それではこちらも動くとしようかな。


 主にやるべき事はアイテムクリエーションでの創造だが、今は異世界でも他にやるべきことがある。

 幸い向こうで一ヶ月過ごしてもこちらでは三日しか経たないので、一度賢者アーガスの所へ赴いてから魔王について尋ねた後、問題を解決してまた現実へと戻って来ることにしよう。


 徒歩で自宅まで戻り、スマホアプリを操作する。


「じゃあまた戻るか。しかしこの二日間は慌ただしかったなぁ。紅葉もそう思うだろ?」

「もう戻るのかえ? 儂はこんびに? とかいうおにぎりの宝庫で色々買ってもらえて嬉しかったけども」


 ああ、こいつにとっては美味い食事が全てだったか。

 そりゃそうか、忙しかったのは俺だけだしな。

 紅葉には微塵も関係のない話ばかりだった。


 だが、喫茶店を開いたら紅葉にもアルバイトとして働いてもらおうと思ってるんだよね。

 妖怪という事さえバレなければ、人間社会でもやっていけると思うんだよこいつ。


 俺としてはいつまでも人間に怯えてないで、過去のトラウマを克服して欲しいと思っている。

 そうすれば自由に町を散策できるし、陰陽師にだって本来こいつが持つ善性を理解できれば、無暗やたらに敵視するような事だってないはずだ。


 まずは相互理解が大切だと思うんだよ。

 今回の喫茶店計画はこういった面も含まれている。


「まあ、あとはなるようになるか。それじゃ一旦収納するぞ」

「うむ」


 紅葉を収納し、元の海沿いの町付近へと帰還する。

 うーん、二日も放置していたからこの世界だと二十日か。


 意外と時間が経ってしまったから、そろそろ招待に赴かないとまずいよな。

 さっそくアーガスのところへ向かうとしよう。


「止まれ、この町には何の用で来た? 身分証が無いのであれば銀貨一枚が必要になるが……」

「この町にはアーガスさんの推薦できました。身分証はこちらで」

「うむ。儂も冒険者証とやらを持っておるぞ!」

「な、なに……。アーガス様の推薦だと!?」


 二人で冒険者証を見せるが、何やら門番さんの様子がおかしい。

 一体どうしたのだろうか。


 一応招待状を見せてみるか。


「本当ですよ。これが証拠です」

「こ、これは魔導対策部門の!? し、失礼しました! どうぞお通り下さい!」


 はて、魔導対策部門とは何であろうか。

 こちらは招待状を貰っただけなので何のことか分からないが、これまた有名な組織らしい。


 まあ行けば分かるとアーガスも言っていたし、そう悩むことも無いか。

 その後、恐縮しきって敬礼までする門番に見送られ、町へと入場したのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る