買収1
タイムマシンで百年後の未来から戻って来た俺は、次の日には町を出立していた。
そして現在賢者に招待された港町付近の森にて、精霊達に依頼してあった物資の受け取り作業を行っている。
そしたら出るわ出るわ、金銀財宝に宝石類のオンパレード。
中にはかなり大きめのダイヤモンドの原石なんかも混ざっていて、これを日本で市場に流せば確実に価格の暴落が起きるであろう量がザックザク。
もう笑いが止まりませんわ。
いや、むしろ一転して真顔になる。
「……これはまた、とんでもない量だな」
「父の頼みとあらば、この程度お安い御用でございます! 内訳としましては、指示通りに魔力との親和性が無い基本金属、そして基本的な宝石を基準にかき集めて参りました!」
代表となる土精霊がびしりと敬礼をして報告を終える。
最初の頃は少しでも集まればいいなと思っていたが、予想以上に精霊が優秀で逆にこちらが恐縮してしまうレベルである。
彼らにカッコ悪いところを見せる訳にはいかないので偉そうにしているが、これがもし対等な立場の相手だったら、床に頭をこすりつけて感謝の意を示すくらいはやったかもしれない。
いやあ、部下みたいな奴らで良かった。
「ふむ。それでは一旦こちらで回収させてもらおうか。それと、この世界の資源を枯渇させる訳にはいかないので、財宝の収拾は一旦ここで休止しろ。また何かあれば頼む、今回はご苦労であった」
「はっ!」
俺にこき使われただけだというのに、これ以上ない至福の笑みで場を去っていく土精霊達。
一体何がそんなに嬉しいのかは分からないが、きっと親に褒められて嬉しいとか、そういう類の感情を持っているのだろう。
しかしアプリに次元収納をしたはいいものの、さすがにこの山のように積みあがった財宝を一度に流せば、いくら陰陽師家を説得して後ろ盾になってもらったとしても、かなり面倒なことになるに違いない。
あくまで買収するために必要な量だけを市場へ放出し、残りは何かあった時のためにとっておくことにする。
一応うちの会社規模は上場しているだけあってそれなりに大きく、その割に身内で株を持っているという事も少ないため、買収そのものは俺が金さえ出せばコネの力も借りて上手く行くはずだ。
問題はその後にどう会社を運営していくかになるが、その辺もコネとして陰陽師一族の手を借りることにする。
社長のすげ替えが起きることは必至だが、俺自身は社長になって権力を持つなんて面倒くさいことをするつもりはないからな。
あくまでも目標は社畜からの解放であって、出世する事ではない。
誰か適当なやつをトップに置いたら、コネで優秀な秘書でも雇ってあとは相談役にでもさせてもらうつもりである。
その後、緩く会社の事業に口を出しつつも、のんびりとスローライフを満喫するつもりだ。
やっぱり幽霊社員っていいわ、こういうところ自由だよな。
「よし、という訳で一旦日本に戻るか。紅葉はどうする、創造神の神殿で待っておくか? その代わり、おにぎりは制限して食べることになるが」
「嫌じゃ、ワシもついていく。
なるほど、九尾と陰陽師はそれなりに怖いが、それ以上に一人でおにぎり節約生活を送るのはもっと嫌だという事ね。
一度餓死寸前まで追い詰められたから、しばらく一人で飢えを凌ぐのは堪えるらしい。
もちろんそこまでギリギリの生活をさせるつもりはないが、この野良妖怪の食欲を考えると確かに不安は残る。
仕方ない、連れていこう。
もしどこぞの陰陽師に見つかって討伐されそうになったなら、俺が直々に説得すればいい。
説得が無理なら戦闘になるが、リプレイモードで鍛えに鍛えた職業補正があれば、パラメーター的に負けることはないはず。
そこらへんの雑兵を退ける事くらいは簡単だろう。
相手が戸神源三の爺さんクラスとかになると色々不安が残るが、あの爺さんが話も聞かず短絡的に力を振るうタイプだとは思えないので、こちらは別の意味で安心。
「じゃあ一応一緒に連れて行くが、余計な混乱は避けたいから普段は身を隠しておけ。いいな?」
「大丈夫じゃよ?」
「よし、じゃあ行くぞ」
紅葉をスマホに次元収納し、ログアウトを実行してから自宅で取り出す。
やはりと言うかなんというか、こちらの世界では前回異世界に旅立ってから数日しか過ぎていなかった。
向こうでは1ヶ月ほど過ごしていたのにも拘わらずに、である。
時間差10倍説は正しかったようだ。
しかし、久々の出社となると気持ちが重くなる。
ゲーム仲間兼、部下の宮川は今でも仕事に励んでいるだろうか。
いくら事前に有給を取っていたとはいえ、申し訳ない事をしたな。
まあ買収に成功したら出世させてやるから、それで貸し借りは無しということで。
「さてと、その前にまず陰陽師一族の下へ向かわないとな」
チラリと紅葉を確認するが、隠れる事については自信があるのか特に怯えた様子はない。
ただ日本に戻ってきた事で姉妹や九尾の力を感じ取っているのか、時折耳をピクピクさせているのが反応といえば反応だろうか。
「じゃ、電話かけようかな」
ほどほどに知り合いとはいえ戸神家に急に赴くのも失礼なので、とりあえず以前貰った名刺から電話をかけて連絡を取る。
「あー、もしもし斎藤ですが。戸神様のご自宅で宜しいでしょうか」
「あっ、斎藤様! 大変お待ちしておりました、また妖関係で依頼したい仕事があるのですが、お越ししてもらう事は可能ですか?」
電話を掛けたら黒子お嬢さんが対応してきた。
しかし行き成り妖怪関連の依頼ね。
割りの良い仕事だし受けるのもやぶさかではないが、今は他にやる事がある。
もちろんやらないとは言わないけども。
「ああ、ではその件についてもお屋敷で伺わせて頂きます。また別件で、俺の方からもお願いしたいことがあるのですが、話を聞いてもらう事ってできますかね?」
「も、もちろんです! 斎藤様にはお世話になっていますから、私で力になれることがあればなんなりと仰ってください! では、今すぐ車を向かわせますね!」
おおう、かなり食いつきがいいな。
精霊とはまた違った方向で嬉しそうな雰囲気を醸し出している。
こんなおっさんと電話したのがそんなに嬉しいのだろうか。
全くの謎である。
ただ悪い印象は持っていなかったようなので、これはこれで安心して交渉が出来そうだ。
とりあえず今回頼るべき事は、足のつかない方法での財宝売却と、買収する会社で使える秘書の手配。
そのあたりだろうか。
そんな事を考えながら迎えが来るのを待ち、久しぶりの我が家でテレビを見ながら寛ぐのであった。
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