百年後の実情


 世界樹との会談を終え一段落が付いた。

 換金アイテムがどれ程の量集まるのかは未知数だが、一応精霊の力を借りて計画を運用する訳だから、何の成果も得られないという事はないだろう。


「さて、紅葉が町で遊んでいる間に何するかなぁ」


 これから賢者アーガスが招待した場所へと向かう訳だが、今日のところは紅葉が帰って来るまで絶賛暇である。

 かといってリプレイモードで修行を行うにしても、クリエーションモードで装備を整えるにしても、これまた微妙なタイミングだ。


 すぐに帰って来る訳ではないが、ずっと遊んでいる訳でもないからな。


 となれば、最後に残ったのはタイムマシンという選択肢になる。

 正直このまま一万年後に行っても即死するだけで意味がないと思われるので、行くとしてもせいぜい百年後とかそのあたりだろう。


 問題は機能のクールタイムが終わっているかどうかだけど、……あれからだいぶ経ったしたぶん大丈夫だろう。

 そう決断した俺は宿の部屋から創造神の神殿に移動し、天使ノーネームに要件を告げる。


【創造神】

今から百年後に向けてタイムマシンを飛ばしたいが、可能か?


【天使:NoName】

おかえりなさいませ、創造主よ。

タイムマシンのクールタイムは既に完了しております。

いつでも搭乗可能ですが、今回は御一人なので?


【創造神】

そうだ。

問題あるか?


【天使:NoName】

いえ、問題はございません。

時空の旅には定員はございませんので、是非前回のお客様にもお楽しみ頂ければと思った次第でございます。

差し出がましい事を申してしまい、申し訳ありません。

それでは、百年後の未来へ時空の旅をお楽しみ下さい。


【創造神】

頼んだ。


 そして一瞬だけ目の前が暗転し、タイムマシンが作動する。

 気づくと俺は部屋の一室に佇んでおり、多少古臭くなっているものの、俺がここに来る前に泊まっていたのと同じ宿である事が分かった。


 すごいなここ、百年経っても営業しているのか。

 とりあえず現状確認のため窓から外に飛び降り、町の様子を窺う。

 普通に勝手口から移動すると、百年後のこの宿に泊まっている訳でもない客がなぜ部屋に、ってなるからね。


「ふーん。以前とあまり変わらない雰囲気だけど、前にも増してさらに亜人が多いな。というか、ヒト族の割合がかなり減っている」


 何があったのかは知らないが、以前はヒト族が少なくとも5割程度を占めていたこの町も、今では1割に満たない程度にしか見かけない。

 元々亜人が沢山いるような地帯ではあったが、これは極端すぎるだろ。


 ちょっと人に聞いてみるか。

 すぐ傍を通りかかった獣人族に声を掛けてみる。


「あー、すみませんちょっといいですか?」

「おう、どうした小僧」

「ここって今はかなりヒト族が少ないみたいですけど、昔はもっと沢山居たって両親から聞きました。本当ですか?」


 彼はうーんと腕を組み、言葉を吟味する。

 特に俺に対して嫌悪感を抱いているとかそういう感じはないが、少しだけ教えるのを躊躇しているように見えるな。


「お前の両親はヒト族の中でも獣人に寛容なのだろうが、そういう事はこの町で聞かない方がいいぞ。百年前はどうか知らないが、今じゃ向こうの大陸で弾圧されてきた獣人がこっちに移り住み、ヒト族を憎んでいる者だって少なからず居るからな」


 ……獣人の弾圧ね。

 弾圧というのは、元々向かう予定だった紛争地帯で起きている大国の亜人差別の事だろう。


 たしかアプリで観察していた時はヒト族至上主義を掲げる大国の政治と、それを阻止せんとする亜人を中心としたレジスタンスの組織が戦いを繰り広げ、結果として紛争となっていたはずだ。

 それが極端にエスカレートして大陸全体にまで大国の風潮が広がり、こっちの大陸に逃げのびて来た人が多く存在しているといった所だろうか。


 たぶん間違いないな。


 だが不可解なのは、まるでヒト族至上主義に興味の無かった周辺国家を巻き込み、たった百年で大陸の常識を変えてしまった事だ。

 逃げのびたと言っている以上レジスタンスが負けたのは分かるが、いくら大国でも亜人と戦い疲弊した国力で、軍事力で対をなしていた大国やその他中小の国を巻き込み、ここまで一気に勢力を広げられるだろうか。


 絶対に不可能とは言わないが、どことなくきな臭い。

 もしかしてこれ、魔族か魔王かの仕業なんじゃないだろうな。

 

 最終目的が何かは分からない。

 しかし、魔王が大国の政治で暗躍し、ヒト族と亜人が揉めるように仕向けて仲間割れを引き起こす、という点については十分ありえる話なので逆にしっくりくる。


 詳しいことはその大陸に行かない事には分からないが、それでも今出来る推測として十分な説得力があるように思えた。


 魔王本体については、ここまで被害が広がっていれば既に勇者とか龍神が駆除に当たっているだろう。

 しかし一度広まってしまった弾圧の風潮は、原因を取り除いたところでどうにかなるものでもない。


 となると、この問題を解決するためには早期の駆除が必要となるのか……。

 思わぬところで未来の問題を垣間見てしまったなこれは。


 一度元の時代に戻って情報収集を開始してみるが、果たして魔王についてどう対抗すればいいのやら。

 龍神に直接頼むっていう手もあるだろうけど、あいつはあいつで忙しいだろうし、龍神が本気を出して駆除に走ってしまうと、大国の政治ごと吹き飛ばしてしまう可能性すらある。


 そうなってしまえば亜人は救われても、今度は大国で暮らしていたヒト族側の被害が尋常ではないんだよな。

 まあ最終手段は神託で龍神を呼び寄せる事なんだけど、……まずはアーガスあたりの力を借りられないか打診してみることにしよう。


 なに、それとなく力を貸してくれと匂わせておけば、あの勘の良い賢者であればどういう意図があるのかすぐに察するはず。

 一応貸しもあるみたいだし、今度はこちらに振り回されてもらうとしよう。


 賢者も魔王に暗躍されるのは本意ではないだろうし、協力関係としてはお互いにメリットのある相談なはず。


 そう考えた俺はこの時代の事を教えてくれた獣人にお礼を言い、一旦ログアウトをして元の時代に送還されるのであった。


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