世界樹との邂逅3


 宿の個室で待機していると、しばらくしてかなり大きめの風精霊を従えた金髪の女性が舞い降りて来た。

 長い金髪を植物の蔦で結び、後ろに流したポニーテールの美女……。

 間違いないな、以前アプリで見た世界樹の精神体そのものだ。


 亜神を生で見るのはこれが初めてだが、なんというか荘厳な雰囲気が凄い。

 場が清浄な空気で満たされるというか、神々しいというか。

 これが本物ってやつなんだと肌で実感できる。


 これに比べれば創造神であるおっさんのオーラなんて無に等しいが、しかし明らかに敬服した態度をとっている世界樹や付き従う精霊を前にカッコ悪いところは見せられない。


 よし、とりあえず偉ぶっておくか。

 これは今後の基本姿勢に決定。

 ボロが出ないようにしつつも、以後はずっと偉ぶる事にする。


「遅かったな。それで、面会の要件はなんだ? こちらからも伝えておかねばならない事はあるが、……まずは先にそちらの話から聞いておこう」

「お初にお目にかかりますしゅよ。此度は私どもの申し出を受け入れて頂き、誠に……」

「ああ、前置きは結構だ。俺は時間を無駄にするのが嫌いでな、結論から先に話してくれないか」


 あまりに格式張った挨拶をされるとこちらが対応できないため、無理やり中断させた。

 こういっちゃ悪いが、俺にこの世界で通用するような礼儀や教養はない。

 せいぜい上司に対して敬語を使うくらいだ。


 その敬語も貴族くらいの相手であれば通用するかもしれないが、自分で生み出した亜神とはいえ神様相手に通用するとは思えない。

 ここらへんは直球でやりとりした方が気が楽なのである。


 すると世界樹は深々と頭を下げ、優雅にゆっくりと姿勢を正した。


「これは失礼致しました。結論から申し上げますと、しゅが遊び相手としていた魔族、元々はヒト族だった者を誑かした魔王の足取りを追い、一時的に拘束する事に成功致しました。現在は大精霊3体の監視の下、生殺与奪の段階に入っております。……いかが致しましょうか?」


 ふむふむ、人間を誑かした魔王っていうとアレか。

 今回の魔族一掃事件の黒幕だったであろう、商人魔族が気持ちよく儀式関連の知識を与えたと話していた、あの個体の事かな。


 でも正直な話、魔王がどれだけ悪さしているか俺がこの目で見た訳じゃないし、捕らえているから殺しますかって言われてもピンとこない。

 とはいえこの世界を管理する亜神の一柱である彼女に、魔王を解放してやれっていうのも何か筋が通らない気がするんだよな。


 それに当然のように拘束したって言ってるけど、俺がそんな事を頼んだ覚えはない。

 【生命進化】のテキストを見た感じでも、世界樹の設定上自然を調整することはあっても、世界に蔓延る魔王と一戦交えるような役割は担っていなかったはずだ。

 基本的には、だけどね。


 となると、なぜわざわざ俺の下へこの報告をしに来たのかという事が疑問になってくる。

 目的はなんだろうか。

 まあ、目的がなんであれ俺の答えは決まってるけども。


「魔王など眼中には無い。煮るなり焼くなり、放っておくなり好きにしろ。ただし、その役目はお前達中立の存在である精霊や世界樹ではなく、人間達の力で解決すべき事柄だ。人が自力で解決できる可能性のある問題を、安易に摘み取っていては何の成長にも繋がらないという事を覚えておけ」

「こ、これは申し訳ありません……!!」


 ぶっちゃけ魔王がどうのこうのとか、今更世界樹さんが出しゃばるような事じゃないと思うんだよね。

 余程酷い被害を出すような無茶苦茶な魔王なら勇者や龍神が出張するだろうし、そうでなければ人間達に対して必要以上に手を貸す必要もない。


 こいつらにはこいつらの仕事があるだろうし、それをサボってまで魔王を追跡する理由があるかと言われれば、そこまで需要を感じないという訳だ。

 まあ一切合切全てが無駄とは言わないけども。


 ただ、人間陣営には勇者や賢者、その他上位職業や大勢の複合職がひしめき合い切磋琢磨しているのだ。

 そう簡単に負けるような布陣でもないし、多少は様子を見て動くべきだろう。


 俺の言葉を聞いた世界樹は恐縮してしまい、小声で「やはり龍神の忠告通りだった」とか、「全てはしゅの計画通りに進んでいる……」とかなんとか言っているので、きっと龍神の方は無理に動くことなく適度に間引きしているのだろう。


 ちなみに決して計画通りではないが、魔王を無理に退治しなくてもどうにでもなるという意味では、龍神の言っていることは正しいだろう。

 この世界はそこまで脆くない。


「そう悔やまなくても良い、失敗は誰にでもある」

「申し訳ありませんしゅよ、私が浅はかであったばかりに……」

「良いと言っている、もうこの話は終わりだ。……ところで話は変わるが、少しばかり精霊の手を融通してもらう事は可能か? いや、やましい事ではないのだが、この世界で手に入れておきたい物があってな」


 一旦報告会を終え、こちらの話にシフトする。


 ただ今も述べた通り、決してやましい事ではない、決して。

 そう、ちょっとだけ金銀財宝を手に入れて、日本でお金に換金したいだけだ。

 主に会社を買収するという目的で。


「そのような事を仰られずとも、しゅの命令とあらば私共は全力でお力添え致しますが……。具体的に何をお探しなのでしょうか?」

「うむ。とある実験に使うため、金や銀といった地に眠る自然界の鉱石類を探してきて欲しい。何に使うのかという質問に応える事はできないが、可能か?」

「当然でございます」


 可能らしい。

 さすが精霊。


 ミスリルやオリハルコンなんかもこの世界では貴重なのだろうけど、あいにく日本では換金不可能であるため、探すアイテムは金と銀に絞る。

 そして相談の後、今回はとりあえず土精霊の力を借りて、自然界に影響が無い程度に物資を提供してもらう運びとなった。


 しかし精霊そのものは自由に動けても、鉱物を運びながらという事となるとかなり難しい問題らしい。

 よって、纏まったものを一か月後、最初の目的地である賢者アーガスに招待された場所で受け取る事にして、足りなかった場合にはその都度要求することにした。


 あとはこの世界で手に入れた財宝を上手く日本で換金する方法だが、……そちらの方は陰陽師一族の伝手を借りよう。

 なに、わざわざ妖怪退治の依頼なんかに付き合わされていたのだから、多少こちら側から頼るような事があっても快く協力してくれるに違いない。


 無理な場合はその時に別の方法を考えよう。



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