世界樹との邂逅2


 面会をしにくるということだったが、特にそこで待っていて欲しいと言われたわけでもないので、とりあえず次の町を目指す。

 まあ待っていてくれと言われても、あんな森の中で何日も待機する訳にはいかないので、どっちにしろ勝手に行動はしていたけどね。


 当然それは向こうも分かっていると思うので、こちらの行動に関しては制限を設ける気は無いはずだ。

 というか一応あの精霊達にとっての神らしいし、前提からして俺を束縛することはないだろう。

 騎獣モードになった紅葉の背に乗せてもらい、アプリで地図を確認しながら道なき道を駆け巡る。


 やっぱりこの世界は自然が多くていいなぁ、こうして自由に駆け回るだけで社畜として降り積もっていた、無意識下でのストレスが発散し消えていくようだ。

 というか、そろそろこっちの世界にきてだいぶ経つが、会社の方はどうなっただろうか。


 ずっと有給を使って休んでいたが、そろそろ腹を括って出社しないといけないかもしれない。

 ただ金銭面的にはもう無理に働く必要もないんだよな。


 妖怪退治の依頼はボロ儲けだし、生きていくだけなら年金を納めながら余裕で老後を過ごせるだろう。

 かといって行き成り会社に辞表を叩きつけるのも示しがつかないし、さて、どうしたものか。


 時間はある、資金はある、力もある、後ろ盾も陰陽師一族を説得すればあるだろう。

 ここまで揃っていながら、未だに社畜をやるっていうのもなぁ……。


 うーむ。

 いっそ、あの会社を買収でもするか……?

 そうすれば俺があくせく悩むこともなく、社長を適当なやつに任せて俺は自由に過ごしていればいい。

 自分の席だけ会社に残し、幽霊社員として優雅に過ごせばいい訳なのだから。


 一応席だけは残して身分の保証を図るあたり、我ながら小物だと思わざるを得ない。


 それと同時に、社畜時代では考えられない豪気な考え方だとも思う。

 しかしそれを実行できてしまうだけの力が今の俺にあるという、そこがポイントなんだよなぁ。


 当然いまの所持金で株を買い占める事はできないだろうが、それでもこの世界の金銀財宝を向こうの世界で転売すれば、何とかなりそうな気がする。


 クリエーションモードで生み出した財宝には、絶対にくっついてくる創造神の加護の力で、どんなトラブルが起きるかは分からない。

 だが、この惑星が本来持っている金塊などであればどうだ?


 ……いけそうだな。


 最後の問題としてそれだけの財宝を集める人手が必要な訳だが、まあその件に関しては後で考えよう。

 少なくともこのまま冒険者活動をするだけで、それなりには稼げるはずだからな。


おのこよ、町が見えて来たぞぇー」

「ほう、もうそんな進んでたか」


 二尾になってからというもの、騎獣になった紅葉の走行速度は各段に上がった。

 新幹線とはまではいかないが、瞬間的な最高時速であれば高速道路を走る車並みにあるだろう。


 もっとも、そんなスピードで走れるのは体力的にも1分に満たないが。

 どうやら身体強化を行うのに妖力を多分に消費するらしく、長時間は維持できないらしい。


 普段はもっと速度を落とし、半分以下くらいの速度で駆けまわっている。

 まあ、それでも人を乗せている事を考慮すれば速いんだけど。


 ちなみに現在向かっているのは賢者アーガスから貰った地図にある都市への、その進路上にある経由地となる町だ。

 一応招待状を貰ったからには無視するのも失礼なので、修行を終えた今ちょうど時間も空いたということで向かっている最中だったり。


 この招待状がなんなのかイマイチ不明なところが多いが、きっと俺にとっては有益なことに繋がるはずだ。

 なにせあの賢者は魔族の件で協力関係になったときに、「これは借りだ」と言っていたしな。


 まさか恩を感じていながら仇で返すような、賢者にあるまじき浅はかな考えを持っているとは想定しずらい。

 少なくとも俺はアーガスの力によって戦力的に助けられたので、アチーブメント達成の礼も兼ねて、次に何か頼み事があれば助けになるつもりだ。


 という訳で、動機としては貰えるもんは貰っておこうの精神で招待されている訳である。


 旅の方針としては、まず賢者アーガスからの招待を受け、次に海を渡り亜人弾圧が激しい地域にレベル上げを兼ねて紛争に殴り込み、諸々を踏まえて金銀財宝を回収しながら、創造神の分身であるこのキャラクターの職業が育ったところで、タイムマシンで百年後に行ってみる。


 といったところだろうか。


 一万年後はあのバケモノがどうにもならなさそうだし、今のところパス。

 というか、あんなのが跋扈してたら文明とか滅んでいるんじゃなかろうか。

 どこかでなぜあのバケモノが生まれたのか、調査をしなければならないかもしれない。


 とまあそんな感じで、途中で世界樹との面会があるらしいので詳細は確定していないが、方針はだいたい決まったな。


 そして次の町に辿り着くとそこは国境付近よりも活気のある賑やかな場所で、今まで通りに多種族が普通に暮らしていながらも、大陸の地理的にも海に近くなった事で露店に並べられている商品や、立ち並んでいる店の種類が若干変わった雰囲気がある所だった。


 よく見ると海が近いせいか、魚の日干しなんかも売っているようだ。


 猫じゃないから魚の日干しなんて食わないかもしれないけど、一応新しい町の風景に興味があるらしくキョロキョロしている紅葉のため、宿を取ったら自由行動を許すことにする。

 この野良妖怪は普段から自由行動を取っているため、こっちが許そうとそうでなかろうと、勝手に動き回ってはいるけど。


 まあ、これはケジメだ、ケジメ。

 こちらが三食昼寝付きで養っている以上、大まかな行動方針は俺が握っているという意味で、自由行動を行う指示はちゃんと出しておいた方が良いだろう。


「という訳で、とりあえず解散。日が暮れる前には宿に戻って来いよ。探すの面倒臭いから」

「んぁーい」


 聞いているのかいないのか、物凄くテキトーな返事をしてぶらぶらと出かける野良妖怪。

 本当に自由なやつだな。

 きっと今日もまたどこかで、変なガラクタを拾ってくるのだろう。


「ま、そういう訳で俺の方は面会の準備が整った訳だが、……そちらはもう良いのかな?」

「はっ! お待たせして申し訳ありません父よ。精霊神様は既にこちらへ向かっており、もう間もなく到着するとの事です。恐らく半刻もしないうちにいらっしゃるかと。また、父をお待たせする形になり申し訳ないと、そう仰っていました」


 ここに来る道中、ときどき空を飛んで連絡を入れて来ていた風精霊がそう答え頭を垂れる。

 一々仰々しいやつだが仕事はキッチリこなすようで、報告に漏れは無い。


 できれば自然体でいてくれた方が気が楽ではあるけど、これだけ従順なら交渉次第で財宝獲得の手助けになりそうである。

 我ながら、精霊との交渉にスケールの小さい事を考えているなと思いつつ、面会しにくるであろう世界樹の到着を待つのであった。



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