怪しい依頼4
一応の自己紹介を終えて冒険者チームに俺と紅葉は受け入れられた。
この3人組が本当にただの冒険者チームかどうかは怪しいところだが、とにかく仲間としては心強い。
「でもまさか、竜の素材から魔族化に繋がる儀式が生まれるなんて。この少年の言っている事が本当なら、悪い意味で世界規模の大発見だわ。ああ、お母さんに連絡することがまた増えた……」
ベラルは消息不明となったエルフを探すだけでなく、どうやらこの事件に関わっているであろう魔族の動向や情報の報告も仕事に入れているようだ。
他の二人に関しては、どういう目的で消息を絶った人物を追っているのか分からないので、具体的な事はなんとも言えない。
しかしベラル・サーティラね……。
恐らく母親であるララ・サーティラの娘だと思うので、ちょうど仲間になって距離も縮まった事だし彼女の事を聞いてみようかな。
聞いたからといって特にどうという事はないが、プレイヤーとして愛着のある人物の娘かどうかは気になる。
「ねぇ、ベラルの母親ってやっぱりあの『ララ・サーティラ』なのかな? ちょっとハイ・エルフとエルフを見極める眼力がないから確信がないけど、その姓って彼女のものだよね?」
「あら、お母さんの事を知っているのね。まあ、あの人ってかなり有名だからね~、それだけの教養があるなら本で名前くらいは見た事あるか」
うんうんと頷き、若干機嫌が良さそうに母親自慢をする。
実際に本で見た事がある訳ではないが、国や種族の成り立ちを示す歴史書などにはそういった立役者たちの名前が並んでいるのを、伯爵家の屋敷にある本棚で確認している。
教養があるから本で知っているというのは、そういった歴史書で知識を得たのだろうといっているのだろう。
ただ、大昔のヒト族である英雄ダーマにぞっこんというか、一途に惚れていたララが娘を産んでいたのには驚いた。
原始時代から少し時代が過ぎ、村などの集落が出来始めた頃ではまだ独身だったはずだが、いつ結婚したのだろうか。
「へー、やっぱりあの生ける伝説と呼ばれたハイ・エルフの娘さんだったんだね。拝んどこ……」
「ちょ、やめてよね!? 凄いのは私じゃなくてお母さんなの! そうやって拝まれると集落の人達を思い出すからやめなさい!」
冗談で拝んだらわりと本気で拒否られた。
やはりエルフの集落では偉人の娘というだけあって、かなりの期待を背負っているようだ。
地元ではこの冗談のような拝み倒しが常に横行していると思うと、その息の苦しさに同情する。
まあ言ってしまえばこの一族の血筋は王族みたいなものだし、この世界では当たり前のことではあるんだが、おてんば娘っぽいベラルの性格を考えれば窮屈には耐えられないだろう。
「でもあの人に娘がいるなんて驚いたよ」
「あら、そうかしら。尊き上位種の血は次世代に繋ぎ遺すべきものよ?」
「いや、だってララは英雄ダーマにぞっこんだっただろ? 人間種を救うために巨大クジラを二人で討伐し、その後も世界を巡っていたじゃないか」
「…………え? いや、え? そ、そんな。……なぜその事を」
言って気づく。
そういえばこんな話、娘の前でするべきじゃなかったなと。
いや、ついつい知り合いのキャラが居る友達みたいな感覚で話してしまった。
これは失敗したな。
様子を窺い表情を見ると、今の発言が切っ掛けで真顔になってしまっている。
「ああ、ごめんごめん。今のは忘れてくれ、彼女の娘の前で話すことじゃなかった」
「違う、私はそんな事に驚いているんじゃないわ」
真顔になったベラルは俺の襟首を掴み、ぐいっと顔を引き寄せる。
どうやら相当頭にきてしまったらしい。
いやはや、これは俺が全面的に悪いわ、デリカシーが無さ過ぎた。
すぐに謝りはしたが、許してくれるかは半々といったところだろう。
感覚の違いが引き起こした事故とはいえ、申し訳ない。
紅葉も急に緊張感の増した空気を察知して「んぉ?」とか「今日の儂、まだ何も悪い事してないぞ?」とか、何か変な方向に思考がシフトし辺りをキョロキョロしている。
いつも思うが、このビビリ妖怪は本当にブレないな。
しかししばらく睨めっこの状態に陥っていた今の状況を見かねたアーロンが助け船を出す。
「おい、その辺でやめておけベラル。そいつが色々とおかしな存在であるのは今に始まった事じゃないだろう。それは俺達に声を掛けて来たことや、瘴気の発生原因を知っていた事からも明らかだ」
「あんたに言われなくても分かってるわ。でもおかしいじゃない、英雄ダーマ様の事はエルフでも一部の者しか知らないはずなのよ。それがあなたのような例外を除いて、この少年が知っているだなんて……」
ん?
英雄ダーマ様とな?
てっきり母親の元カレの話をされてキレたのかと思ったが、どうやらかの英雄はそういった存在ではなかったらしい。
どちらかといえばエルフが誇りに思っているような言い方に感じられる。
という事はあれか、やっぱり言葉の通り俺が創造神として知っていた歴史は、普通の人が知り得る
これはまた、別の意味でやらかしてしまった。
「それでもだ。こいつが何者であるかは俺が責任をもって調査してやる、今は引け。まずは魔族の問題をどうにかするのが先決だろう」
「そ、それもそうね……。それに、よく考えてみれば真の歴史を知る人は極一部ではあるけど、知られて困るような情報でもなかったわ。ごめん、私が悪かったわ少年」
魔族問題の解決という本来の目的を思い出し、だいぶ冷静になったようだ。
今回は知られて困るような内容では無かったらしいからお咎め無しだったが、よく考えれば創造神の知識って結構危険だよな。
この世界の宗教は良く分からないけど、もし各種族にとって都合が良いように伝説が作られていた場合、俺が真実を話すだけで戦争が起きてしまう事だってあり得る。
ちょっと気を付けた方がいいかもしれない。
「フッ、しかし考えれば考えるほどこいつの存在は面白い。そうは思わないかダダン」
「確かにのぉ。しかし、魔族と事を構えるという前提ならば、この小僧の不可解さは頼もしさに感じられる。本当に不思議な小僧じゃな……」
「そうだな、俺も久しぶりに血が
俺を見てニヤリと笑う男二人。
失礼だが、なぜかちょっと貞操の危機を感じた。
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