怪しい依頼3
俺と話をするために冒険者ギルドを出て宿泊拠点にやってきたアーロンは、部屋に来て早々、さっそく質問を開始した。
ここに来るまでも何度かドワーフのおっさんやエルフのねーちゃんに状況の説明を求められていたが、全て「手がかりを見つけた」の一言でバッサリ切り捨てている。
どうやらこの男は頭が切れるが故に、自分の中で話が完結してしまい他人にもそれを求めてしまうタイプのようだ。
しかし底知れない実力を持つだけに仲間の二人もある種の信頼は置いているらしく、状況への理解はともかくとして「手がかり」という点においては全く疑っていなかった。
この事から察するに、余計なハッタリや無駄な気遣いをしない、完全な有言実行タイプの性格のようだ。
「それでガキ、……いや、ケンジといったか。お前はなぜこの火竜の依頼が魔族のものであると分かった、連れの仲間二人にも分かるように説明しろ」
「いやいや、ちょっと待ちなさいよ。いったいどういう事なの? 急に年端もいかない子供二人を連れて宿に戻ったりして、誘拐でもするつもり? というか魔族の依頼ってそれ、こんな何も知らない子供達に流していい情報じゃないわ」
まあ当然そう思うよね。
向こうと俺の間では話がついているのでこの前提から会話が始まるが、このエルフのねーちゃんからしてみれば何のこっちゃって感じだろう。
いきなり宿へ撤収したかと思えば子供を二人も連れ、さらに説明もなしに極秘であろう魔族の情報まで流し始める。
俺が同じ立場でも当然同じような反応をするだろう。
ドワーフのおっさんも黙ってはいるが、自慢であろう立派な髭をさすり考え込んでいる姿から察するに、状況はいまいち理解できていないように思える。
「いいからお前は黙ってろベラル・サーティラ。手がかりの正体はこいつそのものだ、今は俺に合わせろ」
「……あんたがそう言うなら任せるけど、あとできっちり説明しなさいよ」
「安心しろ、それについてもこいつの正体が分かれば自ずと解決する」
おや?
いまサーティラといったか?
サーティラといえば、人類で初めて上位種への進化を果たしたあの『ララ・サーティラ』を思い出す。
現在は生きる伝説となりつつあるハイ・エルフの彼女はかなり有名なので、同種族で同じ姓を名乗るなんてことは無いはずだが……。
もしかしてララの娘か何かなのだろうか。
ハイ・エルフとエルフの特徴の違いなんて耳の長さが若干長いか短いかだけなので、パッと見では判断がつかない。
実際に上位種となった彼女の子孫もまた上位種であるという保証はないので、今更だがこのねーちゃんの種族が何なのか分からなくなった。
ま、いいか。
別にどっちでも。
話が進まないので、とりあえず質問に答えよう。
「なぜ魔族の依頼だと分かったかについてだけど、それはあのアドラとかいう依頼人が火竜の素材を儀式に使う前提で募集を掛けていたからだよ。普通の人は知らないだろうけど、龍や竜の素材で間違った儀式をすると瘴気が生まれるんだよね。瘴気は魔族が魔族たる
「なんですって!?」
話した内容が衝撃的だったのか、ベラルは立ち上がり瞠目する。
この驚き方から察するに、彼女たちはどうやら儀式の件から依頼人の素性を知った訳ではないようだ。
彼女達でも知らないとなると、もしかしたら魔族化の儀式ってかなり上層部の人になっても知る事がない、未知の多い分野なのかも。
それでもなお火竜の件で不審を持った筋書きを考えるに、足取りを追っていたら魔族の痕跡と思わしきものが最初に見つかり、そして足取りの先にアドラの依頼があった、という感じだろうか。
しかし一方のアーロンはどこか納得できる内容だったようで、しきりに「なるほど」とか、「だからあの時……」とか意味深な事を呟いている。
いや、だから自己完結しすぎなんだって。
もうちょっと情報を共有するという発想はないのだろうか。
「なるほど、お前が何者かは分からないが火竜の依頼に反応した理由はだいたい分かった。それで、お前は俺達に何を求めている」
さすがというべきか、頭の切り替えが早い。
魔族についていま知るべき事は知ったと判断し、今度は貴重な情報を与えた俺がどういう意図で何を求めているのかを探りに来たようだ。
こういうところは話が早くて助かる。
「ああ、実は魔族と対峙するのに戦力が足りないから仲間を探していたんだ。俺も一対一ならそこそこ戦える自信はあるんだけど、相手に複数の魔族がいると分が悪い。だから出来れば3人と行動を共────」
「分かった許可しよう」
「早っ!?」
まだこちらが話し終えていないというのに、被せるようにして許可を出してきた。
いや、まあ戦力が足りないのは事実だから行動を共にしてくれるのは有難いんだけどね。
でもこう、なんというか。
もう少し葛藤とかはないのだろうか。
「えぇ!? ちょっと、何勝手に決めてるのよあんた! こんな年端もいかない戦力外を連れて回れる訳ないでしょう!」
「まだ分からないか? こいつの魔力を探ってみろ、とても10歳やそこらのガキに内包できる魔力じゃない。見かけに騙されていると痛い目を見るぞ。それにこいつの連れであるあの獣人も恐らくは天獣人、……獣人の天種だ。戦力としては申し分ないだろう」
ベラルは勢いよく反論したものの、返って来た回答に反論が見当たらず口をパクパクさせる。
まあ実際に言っている事は正しいが、そうハッキリ怪しい奴ですが強そうなので仲間にしますと言われると、ちょっと傷つく。
俺はただ問題を解決してアチーブメントを達成したいだけなのに、散々な言われようだ。
「ふむ。しばらく聞いていたが、ワシは賛成じゃな。こちらとて戦力が足りないのも事実であるが故、多くが謎に包まれ不可解な点が多い子供であろうとも、戦力になるならば歓迎じゃ」
「ちょっと、ダダンまで!」
今まで黙っていたドワーフのおっさん、もといダダンもこの方針には賛成のようだ。
まあそうだよな、いくらこの3人が手練れであっても相手は魔族だ。
戦力なら多ければ多い程良いのは間違いない。
「決まりだな。お前が何者であるかは後で考えるとして、宜しくたのむぞ」
「ああ、宜しくアーロン」
「ククッ、……アーロンか。いや、まあ良いだろう」
いやいや、そっちがさっき適当に名前を考えたからそう呼ぶしかないんじゃないか。
不満があるなら自分の本名を名乗れ。
そもそも本名を隠す理由もないだろうに。
この無精ひげが一体何者なのか、こっちが聞きたいくらいだ。
「うむぅー、よろしく頼むぞアーロンとやら。儂は邪魔にならないように逃げ隠れする事だけには自信がある故、期待しておくがええ」
「ほう、逃げ隠れか。奇襲や諜報に使えそうな能力だな。素晴らしい」
一瞬で紅葉の特徴を理解し、有効活用するスタイルを見極めたらしい。
やるな無精ひげ。
さて、それでは未だ状況に納得できず口パクをしているエルフのねーちゃんにも挨拶をしておくかな。
「それじゃあこれから宜しく、ベラル・サーティラ」
「え、ええ。宜しく。……はあ。まあ、こうなってしまっては仕方がないわね。お母さんからヒト族は優秀な奴ほど変わり者が多いって聞いていたけど、本当にその通りだったわ」
諦めたのか呆れたのかは分からないが、溜息をつき一応の理解を示したようだ。
しかしお母さんね。
一応原始時代から人間を観察している俺からすれば、ララ・サーティラは愛着のある人間種の一人だが、彼女は今頃どうしているのだろうか。
ちょっと気になるな。
あとで思い切って聞いてみるか。
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