怪しい依頼2
火竜討伐の依頼の前に集まったチームをチラリと確認すると、前衛一人後衛二人で構成された高位の冒険者チームのようだった。
前衛は盾とメイスを持った体格の良いドワーフ、そして後衛のうち一人は弓を身に付けたエルフ女性、最後の一人は依頼には興味無さそうな感じで仲間に付き添っている、魔導書を片手に持った無精ひげの男だ。
ちなみに種族はヒト族、おそらく職業は魔法系。
エルフも一応魔法は使えるらしく、魔法の発動媒体のような指輪を装備しているので、たぶん補助的な使い方をするのだろう。
例えば弓の軌道を風魔法で修正したりとか、そういう感じで。
「どうだ紅葉、何か分かったか?」
「うむ。儂にはなんのことかさっぱりじゃが、色々と話しているのは分かった」
事情を察することはできなかったようだが、相談内容はバッチリ聞こえたならばそれでいい。
あのチームが魔族と繋がっている可能性は万に一つもないだろうけど、それでもアドラとかいう依頼人の事を、少し調査してから依頼を受けようと思っていてもおかしくはない。
なにせ報酬が報酬だ。
いくら稼ぎの良い高位冒険者でも、多少慎重になるくらいにはあの報酬金額はぶっ飛んでいる。
それにあんな突拍子もない依頼を出すくらいだし、既に依頼人の情報を持った上で火竜討伐の張り紙の前に集まったという線もある。
「で、どうだった」
「えーっと、まずあの
……なるほど。
どうやら既に彼らはある程度の目星を付けて行動していたらしい。
同じように消息を絶ったという冒険者の話を考慮するに、たぶんその消息が途絶えてしまった人間は儀式によって魔族にされたか、もしくは儀式の実験台にされ死んだのだろうな。
彼らがわざわざ依頼主であるアドラなる人物を疑っているのもいい証拠だ。
となると、今回は本当に魔族絡みという線が濃厚になってきた。
アドラなる人物がどの程度の戦力を有しているか知らないので、一度彼らと接触を図りたい。
もし仮に、事件の解決をする上で魔族という戦力が敵に複数存在していた場合、俺が一人と進化したばかりの紅葉一人ではさすがに手に余るだろう。
隠れて鑑定をかけて分かったが、ドワーフとエルフの冒険者は高位冒険者として恥じないレベルを保有しているようだし、何より二人を差し置いてずっと魔導書を読みふけっている無精ひげの男は規格外の強さを持つ。
錬金術師のレベルが上がる事で、ちょっとやそっとの事では動じなくなってきた頼もしい鑑定さんが、あの男を鑑定した途端に「実力は底知れない故、逃げる事も視野に入れると生存率は高い」、などとのたまうくらいだ。
是非とも仲間にしたい。
「だいたい事情は察せたな。ありがとう紅葉、よくやった」
「まあ、この程度どうという事はないからのぅ。もし儂に感謝しておるなら、昼のおにぎりを増やしてくれてもいいのじゃぞ?」
「考えておく」
「絶対じゃぞ!」
今日のおにぎりを一つ多めに提供することを約束すると、紅葉は嬉しそうに念を押してきた。
たしか好みはツナマヨと梅干入りだったはずなので、あとで在庫を確認しておこう。
もしなかったら一度コンビニへ買いに戻らなければならないが、まあ最初にまとめ買いしておいたのでまだしばらくは在庫も持つはず。
今度買いに戻る時は、前回の3倍くらいはコンビニを回っておにぎりを買い集めよう。
そして紅葉の能力により事情を察した俺は彼らに近づき、声をかける。
できれば一番仲間にしたい無精ひげの男を釣りたいので、彼の注意を引きそうな情報からきっかけを作ろうかな。
「こんばんは、少しお時間いいですか? あの火竜の件で話があるんですけど」
「…………。なんだ、ガキか。あいにく俺は忙しい、お前の相手をしている暇はないからあっちへ行ってろ」
まあこうなるよな。
この男は消息を絶った仲間を探している者同士でチームを結成しつるんでいるはずなのに、なぜか依頼には興味を示さない。
ずっと仲間の二人を放っておいて魔導書を読んでいるのだ。
その意図は分からないが、しかしそれでも消息不明の仲間を探しているという目的は同じはずだ。
ならばその手がかりとなる情報を提供してやれば食い付くだろう。
「俺が魔族化の儀式について多少なりとも知っている事がある、と言えばどう?」
「……なに? ガキ、お前がなぜその事を知っている? ……いや、待て。このガキの魔力、明らかに常軌を逸している……。まさか、いや、しかし……」
予想通り魔族化の儀式というワードに男が反応し、俺の事を視界に入れながらも自分の世界に入り込むという器用な芸当を見せつける。
勝手に自問自答を繰り返し、発言の理由を考え今回の事件において何かに結びつかないか探っているようだった。
この男の頭がいいのは認めるが、しかしまあ、今回に限っては無駄な努力だろう。
俺が魔族関連の知識を得ているのは、創造神としての立場を利用したものが殆ど、というか全てだ。
いくら賢くても、話のスケールが違い過ぎて回答に辿り着くことはないだろう。
「話を聞く気にはなったかな?」
「……チッ。分かった、降参だ。今の俺ではお前が何者なのか想像もつかない。で、結局お前は何者なんだ? 何でもいいから答えを教えろ。なぜお前はこれが魔族の依頼であることを前提に、俺達がこの依頼に拘っている事を知っている?」
俺が何者であるかといえば、創造神だとでも言えばいいのだろうか。
いや、それとも異世界人かな。
まあどちらでもいいが、男を余計混乱させるだけなのでここはスルーしよう。
いま本当に知りたいのは何者かという情報ではなく、きっと消息不明になった仲間探しに繋がる、魔族の情報だと思うから。
「その事については場所を変えて話しません? ここで聞かれたら色々とマズいだろうし、お仲間の二人だって俺の話を聞きたいはずだ」
「…………。まあ、いいだろう」
若干警戒の色を濃くするが、確かにここで話す事でもないと判断したようで、既に火竜討伐の依頼を受注しにいっている二人に早く戻れと手招きする。
「あ、ちなみに俺はケンジって言って、こっちはモミジ。たぶんそのきな臭い火竜討伐の依頼では色々世話になるからよろしく」
「よろしくのー」
「……俺は、そうだな。ア、アー……、アーロンでいいか。よし、俺の名前はアーロンだ、覚えておけ」
明らかに今考えたであろう無精ひげの男はアーロンと偽名を名乗り、何が起きたのか理解していない二人に事情を説明しながら、場所を彼らの宿に移すこととなった。
よし、とりあえず接触は上手くいったな。
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